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【みこ宇宙論】ねえ、ホーキング 植え付けられた記憶は誰のもの?

 ある日突然、自分の記憶を全部無くしたとしたらどうだろう……。交通事故などで、いつそういうことが起きないとも限らないし、老年になればアルツハイマー型痴呆症で、自分が自分であるという意識も無くなることも珍しくない。

 その時に、自分は一体どこに行ってしまうのだろう。

 この思考実験として「疑似記憶」という興味深いものがある。疑似記憶を哲学的に考えてみれば、そうした不幸な状態に実際にならずともこの問題を掘り下げることが出来る。

『転校生とブラックジャック』から引用してみよう。

「疑似記憶」とは、他人が経験したことを自分が経験したことのように思い出すことを含んだ、通常の記憶よりも広い概念である。だからそれは、記憶のように見えるがじつは記憶ではない、いや、正確に言えば、記憶ではあるが自分の記憶ではない、そのように、自分のものではないだれかの記憶を持ってしまった場合も含めて、疑似記憶という広い概念を定義しておくと、その一部に自分の記憶と呼べるものがあることになる。我々の持っている記憶は、それだけでは疑似記憶かどうかわからないのだから、自分の記憶のように思われるものを持っているというだけでは、実は別の記憶である可能性はある。つまり、疑似記憶は人物の同一性を前提としていない。

『転校生とブラックジャック』P213

 この「疑似記憶」の傑作は何と言っても、シュワちゃんの『トータル・リコール』でしょう。そういえば、ターミネーターT800型もシュワちゃん……。宇宙でいつもひどい目にあってますよね。

 この本の要約がなかなか奥深いので、そこから『トータル・リコール』を引用解説します。

『トータル・リコール』で、(主人公の)ダグラス・クエイドは、休暇の記憶を受け付けることが出来る企業、リコール社を訪れる。ちなみにディッグ(原作のフィリップ・K・ディック)の世界では、実際にカリブ海を旅行するよりも、記憶を植え付けるほうがずっと安い。

 毎晩のように火星の夢を見ていたクエイドは、リコール社で「思い出す」休暇の選択肢を与えられると、もちろん火星への冒険を選んだ。リコール社の面々が記憶を受け付けようとしたところで、問題が発生した。クエイドはすでに、何ものかが設定した記憶の<障害>があったのだ。リコール社が問題の修正に奮闘しているあいだ、クエイドは自分が火星の秘密警察官であったことを徐々に思い出す。(中略)

 物語全体が、リコール社が植え付けた偽の記憶だったのだろうか。それとも、クエイドは本当にリコール社の処理のお陰で記憶が戻ったスパイだったスパイだったのだろうか。映画には疑問の土地が十分に残されていたが、偽の記憶とはどのようなもので、どういう意味合いがあるのかを話題にするための絶好の素材となった。

『我々は仮想世界を生きている』P117
(カッコ)と太字はみこちゃん

 ここで、リコール社に主人公のダグラス・クエイドが行ったことを、恋人なり友人なり、家族が知っていて、何だかおかしなことになってしまったので、クエイドを元の世界に取り戻そう、という話ならいいのですが、もし、リコール社に行ったことを、映画の中の人たち、そして、映画を見ている私たちもそれを「目撃」していなかったとしたら、記憶を書き換えたその記憶(書き換えたという事実)も消去してしまえば、本当のクエイドが誰だったかということは、誰も知らない事になります。

 この瞬間「偽記憶」は、本当の記憶になりました。

 そうなってくると、この記事とこの記事で「自我同一性」「情報保存の法則」こそが、その人をその人足らしめていると書きましたが、それはまだ、浅い考えだったかもしれません。

 本当に大切なのは、自分が自分であるという確証、その監視を自分がするではなく、誰か大切な人に、自分が自分であることを証言してもらうということが必要なのかもしれません。

 つまり、自分のことを一番良く知っているのは自分ではなく(記憶は間違えるから)、絶対的に信頼できる他者のみが、自己を自己たらしめるということになるかもしれない。

 ここで、絶対的に信頼できる他者、とわざわざ書いたのは、信用できない他者に私たちは普段取り囲まれているからです。本当の自分はこんな自分じゃない。そう思っていても、世間の人は冷たいので「何いってんだよ、お前なんてそんなもんだよ」と、自分がそうでありたい自分よりも、遥かに破滅的に情けない自分を、自分に押し付けようとするものでしょうから。

 さて、この、記憶の一貫性を誰が保証してくれるのかというのは、大問題ですよね。

 この「記憶の正しさを一体誰が保証してくれるの」という恐怖にも似た思いを、宇宙レベルで考えたのが、あのホーキング博士でした。

宇宙記憶、宇宙の歴史は誰が保証してくれるのか?

 さっきの本『我々は仮想世界を生きている』から、引用してみます。

 スティーブン・ホーキングは、自身のブラックホールの研究によって、ブラックホールに入ったまま出て来ない粒子の情報が失われているという厄介な性質が判明したことについて、問題を提起している。「決定論が崩壊したら、過去の歴史についても確信できなくなります」とホーキングは述べている。「歴史書や我々の記憶は、単なる幻想なのかもしれません。過去こそが、我々が何物であるかを教えてくれます。過去がなければ、我々はアイデンティティを失うのです

『我々は仮想世界を生きている』P120
太字はみこちゃん

 宇宙は最初に宇宙真空のゼロ・ポイント・フィールドにすべて記憶された情報があり、それが飛び散ったと考えれば、私たちは、未来の地点でその散らばった過去の情報を手に入れながら生きることができます。

 空に輝くお星さまは、すでに過去のもので、中にはもう死滅してしまっている星もあることは、みなさん御存知の通り。つまり、私たちの現在とは宇宙の過去のホログラム投影であり、そして、未来に行くに従って、まだ私たちに届いていない、もっと遠く離れた星、つまり、もっと遡った過去が、空の彼方から未来の私たちに届く。私たちの未来とは宇宙の過去を生きることに他ならない。これが私たちの宇宙の秩序です。

 ブラックホールはその情報を消してしまうのです。じゃあ、ブラックホールに近づかなければいいじゃないか、っていうのは(そういう書き方をしている物理教養書もありますが)ナンセンスです。

 ブラックホールがある、ということは、近づかなければいいということではなくて、そういうものが存在してはいけないのです。ブラックホールがあるということは、宇宙に情報が抜き取られる可能性のあるものが存在し、この今私達が生きている宇宙ですらも、いったん、そこで情報が抜き取られた後の偽情報である可能性もあるわけです。

 つまり!

 ホーキングが恐れたのは、ダグラス・クエイドが、休暇の記憶を受け付けることが出来る企業、リコール社がブラックホールだったとしたら、そこで記憶の改竄が行われている、この今生きている世界は全部、リコール社(ブラックホール)が作ったニセモノである可能性が高い、という驚愕の可能性を言っているのです!


 (゚0゚)(゚0゚)(゚0゚)

 ホーキングは、今私たちが生きている世界は、『トータル・リコール』そのもの(の可能性も十分あるの)だ、と言っていた(゚0゚)。

 やべえぞ……。

 良い子はブラックホールには近づかないようにしましょう。あほか、数学や物理学の公理系ってそういうものじゃねえんだよ!

 大切なところなので、理系学問で言う「公理」はこういうものです。

 近づかないようにしましょうとかそういうことじゃないの。物理学崩壊なんだよ、情報保存がされないと。

すでに、全部ブラックホールに情報書き換えられているかもよ

 ピピー危ないよ!とか、もう遅いんじゃね?

 もうちょい、この映画を例にした記事書きたいので、ホーキングはまたじっくり取り上げますが、不安になった方のために、天才ホーキングはその部分を「虚時間」という概念を使って、なんとかしようとしています。

 なんとかなったかどうかは、また一緒に見ていきましょう。
(^~^)

 というわけで、名前だけ誰でも知っているホーキングですが、こんな事考えながらブラックホール研究やっていたのでした。

 もう一度ホーキングの強い思い、研究動機を引用しますね。


「決定論が崩壊したら、過去の歴史についても確信できなくなります」


地球も宇宙もすでに、ブラックホールに乗っ取られていて
私たちはその幻想の中で生きているだけかも?

「歴史書や我々の記憶は、単なる幻想なのかもしれません。過去こそが、我々が何物であるかを教えてくれます。過去がなければ、我々はアイデンティティを失うのです」


 みこ宇宙論、どんどんおもろくなってきました!
(^~^)またね!


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