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大津小1女児暴行死事件から一年①

身近な大津市で起こった事件によって一人の子どもが命を亡くし、ヤングケアラーであった子どもが加害者となってからちょうど一年を迎えようとしています。今回のコラムは一年前にSNSで発信した自分の文章から、行政は何をして何をしなかったのか、民間団体である自分たちは何をはじめて、何が出来なかったのかを振り返っていきたいと思います。

事件報道直後に発信したのが以下の文章になります。

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2021年8月5日 幸重忠孝のFacebookより(一部改変)引用

最初のニュースを聞いた時に、あの高さでジャングルジムで落ちて亡くなるって不自然やな。小学1年生の妹と高2(最初のニュースでは17歳の兄という報道だったので)の兄と公園で遊ぶかな? と違和感を感じつつ、大津市内という身近なところで小学生が亡くなったことにそれなりに悲しい気持ちでいましたが、昨日にはこのニュースの内容は変わって「妹に日常的な暴行の容疑で兄(無職)が逮捕」というセンセーショナルな事件になっていました。また母子家庭であったことも報道から見えてきました。さらに衝撃を受けたのは、すでに夏休みに入ってすぐに警察から児童相談所に通告されていて児童福祉が関わっているという事実でした。

まだ報道された情報しか入っていませんが、日常的に妹に暴力をふるっていたとする無職の17歳の兄は、そもそも高校に行ってなかったのか、中退したのか、彼はこれから加害者という大きな十字架を背負うのでしょうけど、そもそも家で弱い立場であった妹に暴力をふるうという行動から、彼自身がおそらく中学時代から抱えていたと考えられる孤立や孤独やストレスを学校をはじめまわりの大人が気がついていたのだろうか? そもそも児童相談所は、7月末に警察から通告があってこのきょうだいに面談をしたのだろうか? いろんな疑問が頭をめぐります。そして亡くなった小学生の妹については学校が気がついていたのだろうか? 3月まで通っていた保育所はどうなのか? 母子家庭でありながら、夏休みに学童保育を利用していなかったのか? そして被害者と加害者の親となってしまった母親。おそらく母親はこの暴力に気がついていた可能性は高いだろうけど、誰かに相談することは出来なかったのか?

そしてこの報道がこれからどこへ向かうかはわかりませんが、かわいそうな妹、ひどい兄、母親というところに集約はさせてはいけないと事件です。はっきり言ってしまえば、大津市の子ども若者支援の弱さが顕著に出ている事件と感じるからです。これは以前から何度もあちこちで訴えていますが、大津市は中学校卒業後の若者支援のメニューがほぼないということです。児童館、子ども食堂・寺子屋、無料学習支援など小中学生なら参加の機会はあれど高校生、まして中退した高校生が利用する社会資源が公的には少年センターしかありません。公的な機関が無理なら、民間団体で若者支援を広げるなら、そこを資金面で支援しなければ広がるわけがありません。この数日のつぶやきからわかるように、そのような活動をしようと思えば、結局支援団体自身が寄付を集めなければならない現状です。

続いて、亡くなった小学生の子どものような子がほっと出来る場や早い段階で暴行に気がつくような社会資源があまりにないということです。県の児童相談所はそもそもこのケースでもおそらくそうでしょうけど、なかなか一時保護や本人面談で困りごとを引き出す関係づくりが難しい。見守り支援に終わりがちな市の要対協の支援ですが、大津市にはやっと、先日の議会で昨年度から要望していた「支援対象児童等の見守り強化事業」がはじまり、うち(浜大津エリアで堅田から膳所あたりをカバー)と瀬田のNPOさんが委託を受けることになりましたが、当然それだけでは全く足りていませんし、今回はちょうどうちのNPOと瀬田のNPOの間の空白エリアで起こった事件でした。せめて、瀬田・石山・浜大津・堅田の4カ所に「支援対象児童等の見守り強化事業」の拠点が必要になるはずです。

言えることは決して特別な事件ではなく、この大津市内には同じような状況でこの夏休みを過ごしている子どもたちがたくさんいるということです。亡くなってから悲しむのも犯人さがしをしても、そのような環境にいる子どもたちを救うことは出来ません! まずはそれぞれの持ち場でやれることとして、うちは今こどもソーシャルワークセンターに来ている30人の子どもたちがこのような事件に巻き込まれないように、しっかり活動していくこと(そしてそのために不足している寄付を必死で集めること)。また夏休みの終わりに同じように命を亡くす子ども若者を一人でも減らすための新たなアクションを起こしたいと考えています。一人やひとつの団体で出来ることは限られていますが、ぜひみなさんの力を貸してください。

=== 以上、引用終わり ===

この事件から一年が過ぎてから、専門家による検証結果報告書が県に提出されました。驚いたのはこの報告書によると、児童相談所が介入したのは7月21日に深夜のコンビニから警察に通報されるより前に、すでに5月の段階で保護者から1回、夏休みに入る前に学校から1回、亡くなった女児のことについて児童相談所に連絡が入っていたということです。検証結果報告書では「リスクを認めた場合には、必要に応じて一時保護を行うなど躊躇なく支援方針を見直す必要がある」と改善策の提言がされていました。また報告書ではリスクをなぜ認めなかったのかの理由を「児童相談所や関係機関との引き継ぎが丁寧でなかった」と判断しているようですが、家庭、学校、地域からの通告に対して児童相談所がすみやかに一時保護をしなかった(また解除した)理由は、おそらくヤングケアラーである兄が家庭にいたことが大きかったように思えます。

そう考えると改善策は、「すみやかな一時保護や児童相談所間・関係機関との丁寧な引き継ぎ」だけでなく、「ヤングケアラーである兄」がいることは家庭内リスクを下げることではなく高めることもあるという認識を関係機関が持つことであり、ヤングケアラーや在宅支援のネグレクト家庭への支援を改善策として、入れておくべきと考えますが、残念ながら報告書ではヤングケアラー支援や地域の居場所支援については改善策として全く触れられていませんでした(まあ医療関係者が半数以上の検討委員会だから仕方ないといえばそれまでですが)。

では気を取り直して次の投稿の振り返りをしていきます。

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2021年8月7日 幸重忠孝のFacebookより(一部改変)引用

前回、児童福祉が関わっている事件であったことに衝撃を受けたとコメントしましたが、明らかにこの事件は現在の児童福祉の課題が起こした事件であることが、次々と出てくる報道の情報から明らかになってきました。

おそらく、学校がある間はヤングケアラーであったと思われる加害者となった兄は、急に暮らすことになった妹をギリギリ見ていたのではないでしょうか。しかし夏休みになって妹が学校で過ごしていた時間すべて家庭で過ごす時間となり、しかもそれが毎日長期間となることでの兄のストレスは大変なものだったと想像がつきます。ネグレクトの疑いがあることから、食事だって給食がなくなってまともに食べてなかったかもしれません。コロナがなければ、事件のあった地域では子ども食堂もやっていたし、夏は地域の寺子屋事業もやっていました。夏祭りや学校のプール開放などもあって小学生の子がエネルギーを解放する場はたくさんあったはずです。でもどこも行くところがない中、社会経験の少ない兄が妹に言うことを聞かせるためには暴力しかなく、それがエスカレートしていったことも容易に想像がつきます。

このきょうだいに必要だったことは、児童相談所などの定期訪問での面談だけではなく、妹には放課後や夜の時間、長い夏休みに安全安心で暮らせる場所の提供。兄には妹の世話を忘れて同世代の若者とたわいもない時間を過ごすことだったと思います。そして大津市には離れてはいましたが、ケア型の居場所としてこどもソーシャルワークセンターが、このような小学生も高校生世代もカバーした子ども向けと若者向けの居場所を提供していましたが、今回のきょうだいとつながることが出来ませんでした。ただただ悔しいです。

しかし悔しがっていても何もはじまりません。ソーシャルワーカーなのだから、やるべくことはアクションを起こすのみです。コロナ感染拡大によって、家で過ごすことを社会から強要される中、家庭が安全安心になっていない子どもたちのために、取り急ぎ3つのアクションを大津市や滋賀県に提言したいと思います。

1 ヤングケアラーの実態調査を滋賀県や大津市で実施すること
 国がヤングケアラーの実態調査をして驚くべく結果が出ました。すぐに対応する自治体、独自の調査をはじめた自治体があるにも関わらず滋賀県や大津市は未だにその動きはありません。今回の兄のように下の子どもの面倒を見ている家庭にとって、夏休みほど地獄の日々はありません。調査結果に基づいて、せめて夏休みのような長期休暇中にヤングケアラーにとってのレスパイトケアにつながる子どもの居場所活動を民間団体(もちろん行政でもOKです)で行っていく必要を訴えます。

2 支援対象児童等見守り強化事業を大津市や滋賀県内に広げる
 今回の事件のように児童福祉の網にかかっていても、出来ることは相談か必要に応じて一時保護するしか現在の児童福祉には支援プランがなく、そこを民間団体の力を借りて見守りを強化出来る「支援対象児童等見守り強化事業」という国の制度(全て国が経費を負担)を使わない手がないにも関わらず、今のところこの夏から大津市でスタートしたもののたったの2カ所(ゆえに今回はその2団体の対象地域の間で事件は起こってしまっています)、また滋賀県全体で見ればこの事業を活用していない自治体がたくさんあります。子どもたちに必要なのはこのような民間団体による直接支援です。大津市内、滋賀県内にこの事業を広げていく必要性を訴えます。

3 深夜の子どもたちを支援する新たなメニューをつくる
 今回の事件で大きく評価したいところに、深夜のコンビニからの通告があります(残念なことにそのチャンスを行政側が生かすこと出来なかったわけですが)。命に関わるしんどい子どもたちのSOSは深夜に起こることは今回の事件や過去の事件からはっきりしています(例えば大津市のいじめ事件も、亡くなる直前に家出して野宿をしていたり、夏休みに家に帰らず友だちの家に泊まったりと深夜にSOSを出していました)。こどもソーシャルワークセンターでも今、重点的に取り組んでいるのがこの深夜の支援です。モデル事業としての成果は出せているので、この深夜の支援を大津市内や滋賀県内に広めていくアクションを起こしていきます。

=== 以上、引用終わり ===

検証委員会の報告書は完成するまで約一年かかりました。この間、検証のための会議は5回(とはいえ1回目は、はじめましてで会の持ち方など、最後は書面開催だったので、実質的にしっかり検証したのはわずか3回)。事件や家庭状況の説明がA4で3ページ(うちA4の1ページは時系列表)、課題と改善策についてはA4で4ページで、はじめにの1ページを入れてA4で8ページの報告書でした。この間、県議会や市議会でこの事件について質問がされるたびに「現在、検証委員会が立ち上がっているので、その報告書を待って検討していきます」との答弁が繰り返されるばかりでした。一人の子どもが亡くなり、一人のヤングケアラーが加害者となったこの事件は二人の子どもが人生をかけて社会にメッセージを発したにも関わらず(しかも二人の子は自分の人生をかけたかったわけでは絶対にない!)報告書作成に一年かかり、みんながこの事件を忘れたころに対策が練られるのは、行政のスピード感としては仕方ないこととはいえ、この二人の子どもたちに向き合っているとは感じられません。

とはいえ詳細な調査に時間がかかるのは事実です。過去、自分自身もソーシャルワーカーとして子どもの死についての調査委員会に関わりました。報告書作成には1年半の時間を要し、22回の会議を重ねて154ページの報告書になりました。この間、自分自身も調査のストレスで髪の毛は真っ白になり歯もボロボロになり、今後子どもの死に関わる調査には近づかないようにしよう(子どもへの思い入れが強くなりすぎる自分にとっては、このような調査はやればやるほど魂を削る仕事だったので向いてませんでした)と学習した個人的にはしんどい調査でした。とにかく第三者による調査はそれほど大変ですし、改善策として報告書で提案するころには、まわりの社会の熱量が下がっている(それがまた直接関係している人の怒りにつながる)のが現実で、穿った見方をすると行政はそれ(時間がすぎて関心が薄くなること)を狙っているのかもしれないと思ってしまうぐらいです。

すっかり前段の話が長くなってしまいましたが、昨年の自分の文章から、一年が過ぎて、ああやっぱりなということになっているのをこの夏、感じています。昨年の事件当初、地域の人たちは「何か出来なかったのか」という思いは強かったと思いますが、今年の夏もコロナの感染拡大のピークと夏休みが重なったので、「今年も地域で子どもの居場所は出来ないね」とあっさりと、子どもたちが家から出て地域で過ごすことが出来る様々な活動が中止となっています。いやいや何の準備もせずに去年と同じように夏を迎えればこうなるに決まっています。そしてそれは地域住民で頑張りましょう、ではなく行政や関係機関が夏休みなど長期休暇とコロナの感染拡大で家庭にいることでリスクが高まる子ども若者に対する対応のイニシアチブをとらないといけないはずなのに、時間がかかるのがわかっていた報告書を一年近く待って、何の準備もしてこなかったのはあまりに亡くなった子や加害者になった子に向き合ってこなかったように感じます。

昨年の自分はスピード感をもって(せっかくの民間活動なので)、3つの提言をしました。ヤングケアラーの実態調査、支援対象児童等見守り強化事業によってケア型の子どもの居場所を広げる、夏休み明けの深夜のネットアウトリーチ集中実施。ヤングケラーの実態調査については、昨年度の時点ですでに県が動いているという情報をキャッチしたので、声をかけられたら関わる気満々でしたが、その後行われた県の実態調査がどのようになったかは以下のコラムを参照にしてもらえればと思います。

コラム「子どものことは子どもに聞いて」

ケア型の子どもの居場所を広げることについては、今回は何とか大津市内で2カ所から3カ所へ拡大することは出来ました。が、当然全然足りていません。大津市外については自分が何か出来た手応えはありませんが、活動を続け発信していることでゆるやかに増えているようには思えますが、まだまだ力不足を感じております。

そしてこの投稿の後に、深夜のネットアウトリーチ一週間集中実施を行うこととなりました。この活動では多くの子ども若者とつながり、時には命の危機から救い出すことも出来たことを実感しています。この活動の詳細はこちらの報告書を参照してもらえるとありがたいです。

生きづらさを抱える若者たちによるアウトリーチ事業報告書

と、すでにここまでで勢いでかなりの文量になったので、一度ここで文章を閉じて、別の日に続きを書いていきたいと思います。

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