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五輪が迫る今こそ読むべき 『東日本大震災から10年 災害列島・日本 49人の写真家が伝える"地球異変"の記録』

ゆっきー舎・考える部は、入管や難民問題を扱った書籍を何度か紹介していますが、今回は日本で近年起こった災害を映した写真とその解説が記載された本を扱います。

3.11から10年ということもあるけど、当初「復興」を掲げた五輪が、いつのまにか「復興」を叫ばなくなりコロナ禍で無理に進められていることに疑問を感じ、今こそ読むべき本だと思って紹介することにしました。


1・震災当時の写真だけでなく直近の画像も多く、さまざまな事実が見えてくる

少し前に、今回紹介する『東日本大震災から10年 災害列島・日本 49人の写真家が伝える"地球異変"の記録』という本をいただいて拝読しました。

この本は、直近10年に日本で起こった災害の写真に解説が添えられたものです。全体の7~8割は東日本大震災の直後やそれからの10年が示されており、後半は熊本地震西日本豪雨鬼怒川の決壊など各地の災害に関する写真で構成されています。

発行日が2021年3月11日となっているのはもちろん偶然ではなく、あの震災からの10年が経過したタイミングを狙って出された本なのでしょう。

前半は東日本大震災当日や被災直後の写真が中心で、津波や火災で破壊された街並み、家族を失って悲しむ人々の画像が多いです。

震災当時、私は西日本にいて、情報はテレビで見るのみでしたから、今回のように静止画でじっと見ることはありませんでした。災害発生直後は多くの人と同様に衝撃を受け、わずかながら寄付もしましたが、その後はあまり目を向けていなかったことをこの本で思い知りました。

本を開くと、雪が舞う中を食料や水を手に入れるために歩いている人や、ガレキのわきに小さく映っている人もいます。また、一面ガレキの写真もあります。

最初、パラパラとめくるだけでは思い至らなかったのですが、ガレキの山だけを写した写真をじっと見ていると、実はそこにいるはずの人がいない、あったはずの平穏がないという事実を示していると気づいてハッとしました。

被災された方は今でも見るのがつらいかと思います。

この本を発行された方々の思いはわかりませんが、報道の減少とともに目をそらしてきた、私のような人間こそが見るべき本なのではないかと考えています。

2・時は流れていくが、「復興」はどのくらい進んだのか?

ページをめくっていくと徐々に福島原発関連の写真も見られるようになり、被災地だけでなく都内で起こった原発反対デモの写真や、電力会社の人が頭を下げている写真もあります。特定の記者やカメラマンの目線ではなく、複数の写真家が撮った作品群だからこそ、目の向け方が多様です。

災害関連の写真集というと惨状や悲しみだけが記載されている本を想像されるかもしれませんが、この本はそうではありません。

1年、2年と時が流れる中で、復活した地域行事の風景や、笑顔で花見をする人たちの写真も掲載されています。

この花見の写真だけを見れば、日常の穏やかなワンシーンにしか見えません。むしろ微笑ましくすらあります。しかし、この本に載っていることで、「この笑顔の人たちは被災時にどんな思いをしたのだろう?」、「この人たちは、今、穏やかに過ごしているだろうか?」と考えるきっかけが得られます。

この本で特に私の目に焼き付いたのは、原発事故の影響で帰宅困難となった民家の写真です。こたつが見えるどこにでもありそうな居間に大きな鹿が居座っているという写真で、人は映っていません。つまり、だれも住めないまま、今では野生動物の住みかとなっているわけです。

この写真を見た時、家の持ち主が見たらどれほどツラいだろうと想像して涙しました。写真が撮られたのは2019年ですから、比較的最近です。

どんな人が住んでいたのかはわかりません。とは言え住人にとっては多くの思い出がある大切な家でしょう。その場所が8年経っても人が住めないまま、動物に荒らされているという事実があり、「復興」がまだまだ及んでいない場所があるのだと、この写真は訴えています。

3・今、政治や五輪を進める人にこそ、この本を読んでほしい

私はこの本を手にしたことを機会に、被災地の「復興」がどのような状態なのか、しっかり目を向けなければならないと思いました。

この本は震災の記録として大きな意味を持っています。そのため、災害を伝えるため、または忘れないために手に取る人もいるでしょう。しかし私としては、多くの人の苦しみや悲しみを置き去りにして、五輪に突き進む政治家や、五輪推進者にこそ見てほしいと思います。

招致の前後に騒いでいた「復興五輪」という言葉は何だったのでしょうか?

その後「復興」の言葉はほとんど使われなくなりましたが、突然「コロナに打ち勝った証」という言葉も踊りました。しかし、今も変異株は増え、収束の気配は見えません。「打ち勝った」気配は全くないのに、五輪開催の意志だけはぬるぬると貫かれています。このような流れを見れば、「復興五輪」という言葉は単に招致やお金を集めるだけの口実で、耳に心地よい言葉として利用されたのだろうと思わざるを得ません。

東日本大震災だけでなく、さまざまな災害で被災した人たちへのケアが不十分なまま、新たにコロナ禍による経済苦であえぐ人が増えています。感染拡大の不安がストレスになっている人もかなりいるでしょう。

それらを無視して、五輪が勇気や希望を与えるという美辞麗句だけを頼りに、利益を得ようとしている人が大勢います。その人たちはこの本を手に取って、今も続く「被災」に心を向けるべきではないでしょうか?

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