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詩 かいか

俯く向日葵に掛ける言葉が上手く思い出せない
昨日の氷菓あいすの賞味期限が上手く思い出せない
炎天下で見つめたはずの笑顔が上手く思い出せない
真水に潜り息を止める興奮を上手く思い出せない
愛より先にある感情の名前が上手く思い出せない
なぜここに今いるのかを上手く思い出せない
夏の始まりをどう知ったのか上手く思い出せない
夏祭りの金魚をどうしたのか上手く思い出せない
夏の夜の涼しさも絶対なのか上手く思い出せない
篝火に集う虫の命の煌めきが上手く思い出せない
朝吹き抜ける風の匂いが上手く思い出せない
扇風機の羽音が上手く思い出せない
西瓜の種の色が上手く思い出せない
君の手の温もりが上手く思い出せない
押し殺した本音の味が上手く思い出せない

あの夏を
今では上手く思い出せない

心のどこかで残る欠片を
今では上手く思い出せない

いつかきっと下らない切掛に
今では上手く思い出せないそれを

そっと思い起こす一瞬があることを想い
思い出せないことを忘れないようにと
空の心を割れないようにと抱きしめる


2022.8.28 かいか 雪屋双喜
海のことも山のことも、きっと他のことも描き損ねてしまった。


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