繁忙期の夜と、甘すぎるおはぎ

転職して初めての繁忙期は、散々だった。

さまざまな媒体をつくる編集プロダクションにとって、3月は繁忙期だ。クライアント企業が年度の予算を使い切るため、媒体の制作が集中しやすいからだ。入社1年目のわたしも、ある雑誌制作のチームに割り当てられていた。その雑誌は3月下旬に校了のため、2月下旬~3月は特に忙しい。わたしは多忙な編プロにしては珍しく、普段19時前には退社していた。でも3月に入ってからは、21時を超える日もあるほどだった。

今まで、わたしは「できる新人」だと思っていた。なぜなら転職の面接時には、偉い人から積極性を絶賛されたから。入社してからも「ディレクションができる」「相づちが上手い」とか褒めてもらったし。先輩たちに比べれば未熟だけど、きっと私はポテンシャルのある新入社員に違いない! 未経験で編集者になった割には、大きな自信を持っていた。

ところが新人の自信は、繁忙期に打ち砕かれた。しょうもないけど大きなミスをした。雑誌に掲載する商品の確認先を誤ってしまったのだ。しかも、間違いに気づいたのが校了の数日前。本来は1か月以上前にするべき連絡を、1~2日で済ませなくてはいけなくなった。正しい確認先に急ぎの依頼をしなければいけないし、誤って連絡していた企業には「御社の商品は掲載できなくなりました」と謝罪しなきゃいけない。幸い、どの企業担当者も申し訳ないくらい温厚で、快く協力してもらえたけれど、多方面に迷惑をかけてしまった。

どうにか軌道修正したけれど、ミスは1つじゃない。依頼されてた資料を用意できてなかったり、細かな修正指示を見逃してたり、焦るあまり低レベルな文章を書いてしまったりと、、、些細なミスを連発。自分は「できる新人」なんかではない。ミスを重ねてしまう自分が嫌で、泣きそうになった。

しかも、ミスは仕事だけではなかった。金曜日、友人と食事をするはずだったのに、間に合わずにドタキャンしてしまった。雑誌の校了日が木曜日から金曜日にずれこみ、早く退勤できなくなったのだ。その友人は、4月から愛知に異動してしまう。気軽に会えなくなってしまう前に会いたいと思ってたのに。食事の日をもっと早く設定していれば……。落ち込む気持ちは一層強くなった。

夜7時過ぎ、わたしは会議室にこもった。ひとり悔し涙を流すため、といいたいけれど、そうではない。おはぎを食べるためだ。前日、スーパーで購入したつぶあんのおはぎ。特別好きなわけではないけど、20%OFFになっていたからつい買ってしまったのだ。

本当だったら今頃、友だちと楽しく食事をしていたはずだった。約束をドタキャンしていたとしても、せめて仕事を終えた達成感がほしかった。ところが今の私はたくさんのミスに落ち込み、会社の会議室でひとり見切り品のおはぎを食べている。こんな日に、おはぎは少し甘すぎた。

ただおはぎを食べ終わる頃には、少しだけ前向きになれた。ひどい繁忙期だったけど、どうにか乗り越えられたんだ。ミスはした、たくさんの人に迷惑をかけた。ダメダメだけど、自分のダメさに気づけただけでもいい。一番悲惨なのは、自分の無能さに気づかないことだ。今はミスばかりでも、これから挽回していけばいい。こんな私にも、ポテンシャルは多少はあるはずだから。

次、頑張れば大丈夫。一生懸命努力すれば、今度の繁忙期には美味しくおはぎが食べられるはずだ。うん、わたしはまだまだこれから。よし、次だ次。

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