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取材の下調べは「実況アナウンサー」を目標に #マツコの知らない世界

大切だけど面倒な「取材の下調べ」

取材の下調べは、大切だけど面倒な作業だ。

取材をする編集者・ライターは、取材相手や取材のテーマに関連する情報を下調べしておく必要がある。企業相手であれば、事業内容や会社の強み・弱み、方針、業績、さらに業界全体の動向あたりも把握すべきだろう。アーティストや著名人だと、調べる内容はもっと多くなる。取材した人によると、出演作品・番組をはじめ、過去の取材記事、執筆した本なども目を通すらしい。スムーズな取材をするためには、膨大な下調べが必要となるのだ。

ただ一生懸命下調べをしても、全てが役立つわけではない。相手から想定外の答えが返ってきて、準備していた情報はムダになる場合もある。時間をかけて取材先のブログや記事を読み込んでも、取材に役立つ情報は全く得られなかったときもある。時と場合によって、何時間もの下調べが水の泡になる可能性だってあるのだ。すごく非効率的だと思う。

それでも下調べは、時として強烈なパワーを発揮する
それを実感したのが、あるアナウンサーの実況だった。

入念すぎる下調べでピンチを救った「ザ・ベストテン」の美しい実況

その実況は、7月13日放送「マツコの知らない世界」の「実況の世界」で紹介された。歌番組「ザ・ベストテン」で松田聖子が初登場した際、中継を担当した松宮一彦アナの実況だ。なんとハプニングでできた空白の6分間を、下調べしてきた情報による実況でつないでみせたのだ。マツコも「これこそ実況」「美しい、話術」と絶賛するほどだった。

本来であれば、ランキング発表後すぐに松田聖子が飛行機から登場する予定だった。ところが飛行機が遅れたため、羽田空港の中継に切り替わっても、飛行機すら到着していない。暗い滑走路近くに、実況アナウンサーがポツンとたたずむ映像。普通だったら放送事故になるレベルだろう。

ところが実況を担当した松宮アナは、松田聖子の飛行機が到着するまでとっさのトークでつないでみせた。なんと飛行機や空港、当日の運行状況など、松田聖子とは直接関係ない情報を、細かな数値までスムーズかつ正確に6分間実況したのだ。ここで一部を紹介したい。

ただいま全日空の70便に乗りまして、羽田国際空港東京インターナショナルエアポートに着いたところでございます。
先ほどB滑走路、全長2500m、幅45mのB滑走路に到着いたしまして、
誘導路、この誘導路を専門用語で「タクシーウェイ」といいますけれども、このタクシーウェイを走りまして35番スポットに向かっているところであります・・・・・・
今日は札幌の千歳空港を乗った人が467名
(中略)貨物の方が最大46tのせることができるんですが、今日は11t
その11tの貨物の内訳は、主に夕張メロン、トマト、ほうれん草・・・
ジャンボについてご説明致しますと、ジャンボは全長70.5m
一番高いところである全高19.3m、重さが259t
そして1つのエンジンの推力、押す力が21t
エンジンの直径が2.9m1時間に食べるガソリンの量がドラム缶60本・・・・・・

台本があっても覚えられないような細かな情報を、なにも見ずにスラスラと話した。しかも、司会の些細な誤りもすぐ訂正しているところだ。

黒柳徹子(司会)「横の翼の下の丸く見えてきた、あれが2m80cmとおっしゃいましたか?」
松宮アナ「2m90cmです」

ハプニングの穴埋めとは思えないほど軽快でスムーズ、しかも面白い。何となく調べただけでは、ここまで話したり、訂正したりするのは無理だろう。おそらく何時間もかけて、飛行機の情報を調べていたはずだ。

こうした松宮アナのファインプレーにより、松田聖子の初登場シーンは無事放送された。

「もしも」が無ければ全部ムダになっていた事前準備

松宮アナの事前準備はピンチを救ったけれど、もしハプニングが起きていなければ、あの下調べは全部ムダになっていた。すぐに飛行機が定刻通り到着していたら、松宮アナの下調べ情報は一切披露されなかったはずだ。「松田聖子さんの搭乗です」と一言だけで終わる可能性の方が高いだろう。

それでも「もしも」に備えて、飛行機の情報をたたき込んでいた。番組の進行を妨げないよう、徹底的に。きっとほかの実況でも、同じような準備をしていたのだろう。下調べが無駄になった場面の方が多いはずだ。それでも万が一に備えて、台本に無い部分まで徹底的に調べあげる。実況者としてのプロ意識や誇りがなければ、絶対にできない努力だと思う。

下調べの入念さは実況アナウンサーに見習おう

もちろん松宮アナに限らず、実況アナウンサーは人知れず膨大な下調べをしている。

「マツコの知らない世界」に出演した、TBSアナウンサー・初田アナは、野球実況のためにプロ野球の記録を毎日ノートに書いていた。各球団の投手がいつ打席に入り何安打だったか、野手はどうだったかなど、ノートにびっしり書き留めていた。(初田アナによると、野球実況者は誰もがやっているという。すごい)

ゲーム実況を行う平岩アナの場合、ゲームのキャラクターやステージ、技名など覚えるべき情報量が非常に多い。しかもアップデートにより情報が変わるケースも多いので、実況を担当するゲームは最低でも100時間はプレーするようだ。

恥ずかしながら、わたしは実況アナウンサーほどの下調べができていない。したことすらない。取材先企業のSNSやブログを数ヶ月分読んだだけで「結構下調べできたな」と満足してしまっていた。。。

もちろん実況アナウンサーと編集者・ライターは仕事の性質が違うので、すべての下調べを実況アナ並みにする必要はないとは思う。

ただ取材の下調べをするときは「実況アナウンサーは何千倍、何万倍も下調べしてるぞ」と思い出し、気を引き締めていきたい。

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