夜明け前の時間、まだ世界が深い眠りにおちている頃 〜 In the wee small hours of the morning 〜

夜明け前の時間、まだ世界が深い眠りにおちている頃
きみはベッドの中で目覚めて、あの子のことを想っているんだね
羊を数えることなど想いもよらずに

孤独なきみにとっての教訓は
彼女が電話さえしてくれれば、
きみは彼女のものでいられるのにってこと

夜明け前の時間、まだ世界が深い眠りにおちている頃
それはきみが、彼女をいちばん恋しく想う時間

午後の空に陽がたかく昇っているときなら
どうにかして時間をつぶせるけれど
陽がおちたら夜が明けるまで
時計の針が進むほどに
きみは途方に暮れてしまう


どこか愛くるしく切ないこの曲。男性が歌うときは "the girl/she" を想い、女性が歌う時は "the boy/he" を想う、そんな歌詞になっています。歌い手によって男女を入れ替えるのは、わりと普通のことです。ですが、様々な歌手が歌うこの曲の詞を味わっているうちに、おもしろいことに気づきました。

"You'd be his/hers if only he/she would call"
「想う相手が電話さえしてくれれば、あなたはその相手のものになる(のに)」

この箇所が、女性歌手 Stacey Kent の詞では、こうなっていいます:
"He'd be yours if only you would call"
「あなたが電話さえすれば、想う相手(彼)はあなたのものになる(のに)」
と、これはとても大きな違いです。なぜなら、電話をかける主導権を握っているのは「彼」ではなく「あなた」だから。もしかしたら、夜明け前のベッドの中で眠れずに彼を想っている彼女は、もうすでに「彼」が「彼女」に恋していることを知っているのかもしれない… Stacey のバージョンは、そんな女子のふわっと華やいだ夢想を感じさせる歌になっている、私はそう感じます。

一方、男性歌手 Jamie Cullum の歌詞では:
"She'd be yours if only she would call"
「彼女が電話さえすれば、彼女はきみのもの(なのに)」
そしてさらに:
"It's the time I miss her most of all"
「(夜明け前の時間は) ぼくが彼女をいちばん恋しく想うとき」
これは…。「彼女」と「きみ」と「ぼく」登場人物が3人に増えました。もしかすると Jamie のバージョンは「きみに恋した彼女」と「彼女に恋したぼく」の三角関係の歌なのかもしれません。そう考えると、ますます切ない歌に聴こえてきます。


小野リサ さんのバージョンでは(残念ながら Youtube では見つからず…)ブラジルの夜の風が吹くようなイントロ、そして続いてメドレーで歌われるポルトガル語の「When you wish upon a star / 星に願いを」が、まるで眠れぬ彼女の想いを伝えるようで、とても素敵です。

また Ella のバージョンでは、メジャーからマイナーへ変化するところが、夜の闇のちょっとした不安感を増幅させて、これまた素敵なのです。


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