"I loves you, Porgy" from the opera "Porgy and Bess"

"I loves you, Porgy" ー この曲と初めて出会ったのはピアノの演奏で、なんと美しいメロディだろうと思い調べてみたら、ガーシュウィンの歌劇(ミュージカルではなく、"オペラ" と位置付けられている)『ポーギーとベス』からの曲だった。つまり、もともと詞があって、歌うことを前提に書かれた楽曲であると知った。さっそく歌詞を読んでみて、ラブ・ソングであることは間違いないけれど、内容が良くわからない。解説を読んでみてもうまく理解できない。なぜならこの歌詞には、"I" と "You" である男性 "Porgy" と、もうひとり別の男性 "He" がでてくるから。歌詞からすると、この "He" が、私を惑わせ、私はいいように扱われてしまうらしいのだが、その告白でもあるこの歌が、なぜこんなに美しい Porgy へのラブソングなのか。それはもう、この歌劇を観ないことには理解できない、そう思い、スタジオ収録の全幕ものDVDを見つけて、さっそく観た。『ポーギーとベス』と言えば、おそらく最も知られているのが、ジャズのスタンダード・ナンバーとしてもよく歌われ・演奏される『サマータイム』だろう。どこか気だるく、もの憂い、重く引きずるような質感のブルージーな子守唄。だが、このオペラで最初に歌われる『サマータイム』はソプラノのそれで(いつも聴いている曲の1オクターブ上!)えっ?とまず驚き、そうかつまりこの曲はアリアだったのか、とはじめて理解した。

ジャズの歌ものに限定するなら、エラ・フィッツジェラルド が歌う "I loves you, Porgy" が私はいちばん好きだ。エラ版の歌では、一般的にジャズで歌われる歌詞の2番 "I wanna stay here..." から始まり(しかし、元々のオペラではこのように歌われている)、途中から転調して別のメロディへと繋がる。これがまた、とてつもなく美しい。実はこのメロディが、オペラ『ポーギーとベス』の別の曲 "Bess, you is my woman" からの抜粋であることも、全幕を観てやっと分かった。これはポーギーとベスのデュエット曲で、エラ はルイ・アームストロングとの共演で歌ってもいる。(エラ & ルイのアルバム『ポーギーとベス』がこれまた素晴らしい。私としては、オリジナルのオペラ版よりも、しっかりスウィングして、エラ & ルイの明るさ・チャーミングさが感じられるこちらのアルバムをお勧めしたい)

"I is" であり、"You is" なのである。"I loves you, Porgy" というタイトルを見たとき、私ははじめ誤植かと思った。しかし "loves you" で正しく、"I is" "You is" として書かれ、そう歌われている。そのことにハッと気づいたとき、胸が締めつけられるように感じた。今ならおそらく、日本人の子どもにでもわかるであろう文法的な間違いを、当時のアメリカ南部に住む成人した男女が、お互いへの想いを込めたラブ・ソングの中で呼びかけあっていること。ふたりがアフリカ系アメリカ人であるが故に。そのことのキツさ。しんどさ。葬式の費用にも事欠くような暮らし。Porgy は不自由な脚を引きずり、物乞いをし、Bess は薬物に溺れ、高圧的な夫(それがこの歌 "I loves you, Porgy" における "He" である)から逃れられない。この美しいラブ・ソングには、そんな厳しい背景がくっきりと刻み込まれている。

昨年、メトロポリタン歌劇場での『ポーギーとベス』公演があり、非常に好評を博したとのこと。日本でもMETライブビューイングとして映画館で上映されていたのだが、私は残念ながらこれを見逃してしまった。が、どうも近々 WOWOW で放映が予定されているらしく、これを逃すまいと思っている。数多の音楽家・音楽愛好家に愛されているこの美しい曲の、どう考えても置き去りにすべきではないその社会的・歴史的背景を、より深く理解するための良い機会だと私は考えている。





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