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「一人称単数」 村上春樹 文藝春秋

文学界に不定期連載されていた短編に加えて書き下ろしが一遍。
どれもちょっと不思議で、じっくりと心の状態を表現する作品が多く楽しめた。
が。ひとつだけ印象の違ったこと、ありました。

書き下ろしで読んでいた文学界の表紙のポップさと、単行本の表紙の静かな劇画調のイメージが違いすぎて。別の作品を読んでいるような気になってしまうのです。表紙の印象って大事なんだね。でも、劇画調表紙をじっくり見つめたおかげで、草むらにレコードジャケットを一枚見つけた!これはビートルズ? あ、それから品川猿がレコードをかけてる絵もあった!なかなかの仕掛け。あと、カバーを外したときのチョコレート色の表紙も!こうしてじっくり見てみるといろいろ楽しめます。

1:「石のまくらに」 短歌をつくる女性との出会い。短歌は純粋に素敵なものばかりだった。

2:「クレーム」同級生の女の子からピアノの招待状を受け取る。そのあとに出会う老人からの不思議なメッセージ

3:「チャーリーパーカー・プレイズ・ボサノヴァ」チャーリーパーカーがボサノヴァのレコードを出したという偽の文章から始まる、夢のような時間との出会い。わくわく楽しい作品。

4:「ウィズ・ザ・ビートルズ」ビートルズのアルバムを抱えた女の子の話と、ガールフレンドの話。言葉にならない高揚感を持つことと、それを持てないことの残酷さが胸につきささる。

5:「ヤクルトスワローズ詩集」ヤクルトスワローズ詩集なるものが存在することは以前から知っていた。その一部とそれにまつわるエッセイ。

6: 謝肉祭(carnaval)美しくない容貌とアンバランスなほどの繊細な知性を持った女性の話。読み応えあった。

7:品川猿の告白:短編「東京奇譚集」で活躍した、あの品川猿の告白。そうか、そういう理由があったのか。相変わらずでなんとも憎めない、少し年をとった品川猿。

8:一人称単数 久しぶりにスーツを着て外出し、バーで読書をしていると、出会った女性に詰られる。いろんな解釈ができる話。「ハードボイルドワンダーランド」的な同時進行の世界なのか、夢物語なのか。よくわからないことへのとまどいが残る作品。

好きな短編もあるし、そこまで思い入れられない短編もある。
それでもテーブルの脇に置いて、ふっと思いついた短編をめくってみるというのをずっと繰り返している。
じわっと好き。

さてさて。どれが一番好きですか? と聞かれるとちょっと困ります。
「品川猿」と答えたいところだけど、もっと心にひっかかる表現もいくつか。

うん!ヤクルトスワローズ詩集が一番好きかも!
これを読むと「勝つことだけが人生ではない。敗れることも大事」と思えてしまうんだよね。


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