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村上春樹の「街とその不確かな壁」について

誰かの感想を読んでしまう前に読みたいと思ったのだが、とちゅうで読み進めるのがもったいなくなってしまった。
ずっとこの世界に浸っていたい。
そう思ってスピードダウンしたのだけど、Kindle読書なものだから、「読み終えるまでにあと3時間15分」とか「あと1時間50分」とか、およその読了時間が表示される。
そして、ずっとずっと同じスピードで読んでいたつもりだったのだが、ある日、いきなり読了してしまった。
さみしかった。
いつか、また読み返したいと思う。

主人公に名前のない小説(だと思ってますが、どこかに名前が書いてあったらごめんなさい)。
ワタナベノボルとか、覚えやすい名前のない主人公は、その分存在感がうすい。

それは「なにかが欠けている」ということなのかもしれない。
おもだった登場人物で名前があるのは子易さんくらい。
そして。みんなどこかがが欠けてて、どこか変だ。

高校生の頃、ガールフレンドがいなくなったのをきっかけに「ぼく」は高い壁に囲まれた街に行き、そこの図書館で働き、また現実の世界に戻っていく。
現実の世界で、ふつうに就職して生活していたものの、ある日仕事を辞め、「また図書館の仕事がしたい」と思い、福島の図書館に就職する。
そこで出会った、人々との、交流というにも不思議な交流。
図書館のオーナーの子易(こやす)氏、カフェの女性、毎日本を読みにくる「イエローサブマリンのTシャツを着た」少年。

すごく味気ない言い方をすれば「多様性を持った様々な人が、パラレルワールドに迷い込む話」とも言い切れるかもしれないし。
「高い壁に囲まれた街」というのは、なんの比喩なのかを言葉を尽くして語りたくなる衝動は、当然ながら抑えられない。
そう、抑えられなくなって語りたくなるのが、村上春樹の小説なのだ。

だけど、今それを多く語るのは、あまり上品なことではないように思う。

「あなたの分身の存在を信じてください」、イエローサブマリンの少年はそう言った。
「それがぼくの命綱になる」
「そうです、彼があなたを受け止めてくれます。そのことを信じてください。あなたの分身を信じることが、そのままあなた自身を信じることになります」
(街とその不確かな壁 第3部より抜粋)

「高い壁に囲まれた街」は、ひとりひとりの心の中にあって。
そこに行かずに生きていける人と、そこにいた方が幸せな人がいるだけなのだと思う。
生でもなく死でもない「高い壁に囲まれた街」の存在を物語が語り示すことで、おそらく、ひとりひとりが「もうひとつの自分の居場所」を感じることができる。
それが「高い壁に囲まれた街」だ。

アア、ヤッパリ、カタリスギマシタorz

キャラクターとして好きなのは子易氏。
そしてカフェの女性も、イエローサブマリンの少年も魅力的だ。

この物語が10倍の長さだとしても、永遠に読んでいられると思う。

長編部門ではわたしの「村上春樹」の中で「1Q84」のアオマメと並んで好きな作品かもです!



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