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佐藤正午さん「ファンならではのネタ」を私に語らせてください:その4「驚愕!鳩の撃退法が映画化されたってよ」

「鳩の撃退法」が映画化された!
え? あんな複雑な小説がどうやって映画になるの? というのが正直な感想。
しかし、わたしの正直な感想なんてすっ飛ばして、公式ツイッターがあれよあれよと更新されている。Time flies like an arrow!


「鳩の撃退法」は2014年11月より小学館より出版された上下巻の長編小説である。

もともとは小学館の「きらら」で連載されていたものだが、毎月読んでも複雑でわからない。
そしてやっと出版されて一気読みしたが、やはり時系列と「現実と虚構」の複雑さは変わらない。
では、なぜに延々と読み続けたかと言われれば、答えはシンプルである。

おもしろいから!
複雑な小説の渦に巻き込まれてゆく快感、どこから読みはじめても読み進められる中毒性の高さ、ただただそれにつきる。

小さい子供を連れた幸地ヒデヨシの家族が忽然と姿を消す場面から始まる。これから朝食をはじめようという瞬間に。家族は消えてしまう。

主人公は作家の津田伸一(映画では藤原竜也)。
登場人物は古本屋の房州老人、不動産屋の慎改美弥子、ドーナッツショップの沼本店員、出版社で働く鳥飼なほみ、そして黒幕の倉田健次郎!その他大勢すぎて書ききれないorz

ある日、あまりにも時系列が複雑なので、整理してみようとノートに書きながらメモをして驚愕の事実を発見した。

ここに描かれているのは、2月28日たった1日だけの出来事である。

それぞれの事件が絡み合った2月28日。それぞれの思いや、それぞれの愛や執着が絡み合う2月28日。
それを思う存分楽しんでください、という作品です。


*     *     *


(付録小ネタ1):きらら のロングインタビューの3月号に編集者オオキさんのこんな書き込みがあったので気になっていました。

そしてこのあと予定していることも、正午さんとの仕事のことですが、予定どおりに進むことを祈って、2021年もよろしくお願いいたします。

このことだったんですね!ああ、予想の上を行くお知らせでした。


(付録小ネタ2):トップの画像は、サイン会で(無理やり)いただいた販促用のコースターです。この物語の要となる「spin」「チキチキ」というふたつのお店のコースターです。


(付録小ネタ3):サイン会に向かうため、電車の中でもハトゲキを読んでいたのですが、ひとつのフレーズに心奪われました。
ドーナツショップの沼本のことを作家津田伸一は「ぬまもと」と呼ぶのですが、本当の読み方は「ぬもと」。
旅立ちの日の立ち話でのシーンです。

「じゃあ、達者でな」とりあえず来た道を戻ろうと家具屋町を歩き出すと、沼本店員がサンダル鳴らしてかけてきて、背中をはたいた。
「一回くらいぬもとと呼べ」

たったの一言なのに、その場で膝から崩れ落ちるくらいの衝撃を受けたのを覚えています。沼本は。本当に作家のことが好きなんだと気づいた瞬間でした。
その後のサイン会で(比類なき小さな伝説のサイン会で)わたしはその思いを作者に伝えました。

「あ、あそこはね、連載のあとに書き加えた」

もう記憶もあやふやなのですが、たしかに、たしかにそう聞いたと記憶しています。
作家がたったひとことのセリフに思いをこめる。
そして読者がそのたったひとことのセリフの思いを受け取る。
そんな至福の瞬間をいくつも積み重ねてゆく。

とてもシンプルですが、これが読書の楽しみなのかもしれません。








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