起業について東大で講義してみた(前編)
まさかこんな日が来るとは。
先日、母校の経済学部経営学科のとあるゼミで起業について講義する機会がありました。僕自身は法学部だったし、学生時代はほとんどキャンパスに行かず自転車競技部の練習ばかりしていたため決して優秀な学生ではなかったので、まさか学生に講義する日が来るとは夢にも思っていませんでしたが、ゼミの先生(経済学部の准教授)とご縁をいただいたことがきっかけで今回お話をさせていただくこととなりました。
准教授曰く、「スタートアップや起業について研究して教えることはできても、現場で実際に何が起こっているかを話すことはできない」とのこと。
これを聞いて、2015年ぐらいに堀江貴文さんと数名の経営学者が「経営学者は経営ができるのか」「経営ができなければ経営学者とはいえないのか」みたいな論争をしていた記憶がよみがえりましたが、それはさておき東大で講義するなんてハードルが高いよなと思いつつ、私自信がこれまでいくつかのビジネスを立ち上げてきた経験と今現在経営をしている目線から、起業についてお話させていただきました。
0.起業に興味がある全ての人に伝えたい
この講義をした理由は「そもそもビジネスは楽しいもの」ということを伝えたかったからです。ビジネスの定義は色々あると思いますが、私自身は以下のように考えています。
ビジネスをなぜやるか。それはお客さんに喜んでもらうため。
ミラーニューロンの機能により誰かが喜ぶのを見るとき人は幸せを感じるとも言われており、お客さんを喜ぶのを見ることは起業に限らずビジネスパーソンとして幸せを感じる瞬間なのではないかと思います。起業の場合には、自分がアイデアを出して、試行錯誤を重ねながら開発した商品・サービスでお客さんが喜ぶのを見ることができるので、より直接的にその幸せを感じることができます。
とはいえ、起業にはリスクもつきもの、とよく言われます。
・売り上げが上がらなかったらどうしよう
・起業の準備って何すればいいの?
・資金不足に陥ったらどうしよう
・商品・サービスが陳腐化する可能性
・もしうまくいかなかったらその後のキャリアはどうなるんだろう
などなど、枚挙にいとまがないほどリスクは思いつきます。
ただ、そのリスクを踏まえても、起業したいと思っているなら起業してみるのがよいと私は考えています。理由については後編の「3.これからの時代のキャリアにおける起業の意義」で詳細をお伝えしたいと思います。
さて、前置きはこのぐらいにして、ここから先を読み進めていただき、最後に「起業してみたい」と思っていただけたら幸いです。
1.起業とは実験である
起業とは何か。たくさんの言葉で語られるこのテーマですが私自身が考える最もシンプルな答えは「実験」です。何の実験かというと、「人に喜んでもらうことを労力・時間・コストをかけて行い、最大限の利益を残すにはどうするか」の実験です。
起業というと難しく考えがちですし、私自身も起業する前は、一部の天才が素晴らしいビジネスモデルのアイデアを思い付いてそれを実行していくのがビジネスだと思っていました。よく相談で「起業したいけど何をしたらいいかわからない」ということを言う人がすごく多いのですが、実はそれは勝手なイメージで起業のハードルをめちゃくちゃ上げているだけだったりします。私がやってみた結論としては、「起業のネタは自分がハマれるものなら何でもいい」だと思っています。実験なんだから、ダメだったら一旦やめて考え直せばいいのです(もちろん、お客さんや関係者がいる話なので、失敗を前提にビジネスをしてよいわけではありませんが、最初のアイデアで絶対に成功すべきというわけではない、という意味です。)
ただ、闇雲に実験をすればよいわけではありません。使える時間にも資金にも通常は限りがあります。なので、ここでは実験の手順として4つの分野にわけて簡単に紹介したいと思います。
1.商品・サービス
まずは商品・サービスです。
起業やビジネスについて考える時、多くの人はここから考えるのではないでしょうか?
「どの分野で起業しようかな?」
「どんなサービスがあったら喜んでもらえるかな?」
「自分だったらこんなものがあったら欲しいな」
起業を検討している方は、こんなふうに考えたことが一度はあると思います。商品・サービスは、「人に喜んでもらえるモノ・こと」であれば何でもよく、大切なのは「本当にお客さんがそれを欲しいと思っているのか」をきちんと判断していくことです。誰も欲しがらないものを作ってしまうと、労力・時間・コストを無駄遣いしてしまいます。
起業家は「確証バイアス」が強いと一般的に言われます。
これは、自分がすでに持っている先入観や仮説を肯定するため、自分にとって都合のよい情報ばかりを集める傾向性のことです。自分がいいと思っているものは他の人(お客さん)もいいと思うはずだ、と一度考えてしまうと、これを裏付けるようなお客さんの高評価を過大に受け止めてしまいがちです。お客さんからの不満、クレームに注目し、商品・サービスをブラッシュアップしていくということが必須です。
逆に、「起業するほどの自信がない」と思っている方は実はそれがすごく強みになります。確証バイアスに囚われずに自社の商品・サービスを客観的に評価することができるからです。
2.認知
商品・サービスがある程度固まったら、次に認知の方法を考えます。
いわゆるマーケティングと言われる分野は(定義は広いですが)この認知の獲得から3.の販売に至るまでのプロセスを指すことが多く、具体的な認知の手法はたくさんの書籍が出ているのでここでは省略します。
ここでは、認知のプロセスを意識する重要性についてだけお話ししたいと思います。どんなに良い商品・サービスを作っても放っておいて売れるわけではないからです。商品・サービスの存在自体を知ってもらうというプロセスが必須です。
すごく単純な話なのですが、実はここでつまづいてしまう会社もたくさんあります。私がこれまで経験してきた中では、技術者が経営者のケースが最も多いのですが、「いいものを作れば売れるはず」という考えが強く、実際にすごくいい商品をつくるのですが、誰がどうやってその商品を知るのかという動線を考えていないために売り上げが伸びないというパターンです。たまに「いい商品であればお客さんが喜んで勝手に口コミが広まるはず」という人も見かけますが、それはお客さんへの甘えと言わざるを得ません。お客さんの口コミに頼るのであれば、少なくとも人に話したくなる、自慢したくなるような仕掛けを作っておく必要があります。
3.販売
次に、お客さんが商品・サービスを購入するための動線を引きます。
販売:契約、購入の申し込みをどうやって受けるか
物流:どうやってお客さんに商品・サービスを届けるか
決済:どうやってお金を払ってもらうか
お客さんに商品を知ってもらい、欲しいなと思ってもらった後には、きちんと契約(クロージング)をして決済を完了させ、お客さんの手元に商品を届ける必要があります。すごく当たり前のことなのですが、契約書の整備や決済システムの整備、物流システムの整備など、多くの実務が発生するので注意が必要です。ここの整備を疎かにすると、お客さんが途中で「やっぱめんどくさいからいいや」となってしまうことがあります。特にEC(オンライン販売)などではいわゆる「カゴ落ち」と言われ、このフェーズの改善が問題になることが多くあります。
4.体験
「モノではなく体験を買う時代。」
現在のビジネスでは当たり前になりましたが、顧客体験を考えることは重要です。最近ではUX(ユーザー・エクスペリエンス)という言葉が流行しているように思いますが、要するにお客さんが購買行動を通じてどんな体験をしたか、ということです。購買前後と購買時、で以下の3つに大きく分けて考えています。
⑴購買前:
商品やサービスを探したり競合と比較したりしながら購買の意思決定に至るまでの感情の動き
⑵購買時:
購買の際の接客やUIなどを通じた感情の動き
⑶購買後:
購買前のイメージとの差異やアフターフォローによる感情の動き
これらのユーザー体験を直接ヒアリングしたりアンケートをとったりしてきちんと理解し、1.商品・サービス、2.認知、3.販売のプロセスの改善に活用していきます。お客さんの反応を見ながら、微修正を繰り返し、最終的に正解(と思われる状態)を見つけた時の感動はとてつもないものがあります。起業家がビジネスをやめられなくなる理由はこのときの感動ではないかと思っています。
以上のような4つのフェーズに分けて実験し改善を繰り返していくことで、いつの間にか売れ始めてる!という実感を得られます。
いまこの記事を読みながら悩んでいる、迷っているあなた!ぜひまずは軽い気持ちで実験を始めてみてください!
後編では、
2.起業のメリット・デメリット
3.これからの時代のキャリアにおける起業の意義
についてお話ししていきたいと思います。
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