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デューイを勉強してみる

はじめに

 友達から、デューイの勉強をするのには何から学べばいいかといったことを聞かれたので、少し考えてみました。せっかくなので、そこで考えたこと(返信したこと)を整理してみて、noteにもあげてみようと思った次第です。

 僕自身は、デューイの研究者ではないし、熱心にデューイの思想を追っているというわけでもないので、もしかしたら的外れなことを書いているかもしれません。でも、素晴らしいことではなくとも、すごく「ふつうのこと」を書いているつもりではあります

 これから述べていくのは、僕にとっては、アーレントの思想を学ぼうとしたときに考えたり調べたりしたことをデューイに応用してみるという試みであり、また、より一般に、初学者が哲学者の思想について学ぼうとするときに通る道を可視化しようとする試みの一例でもあります。

 つまり、僕がここで書くことは、デューイの名を借りた「哲学の勉強のやり方」であって、デューイの思想についてではありません。その点だけご了承ください。

 では、まずは、そもそもその友達に聞かれていた「(デューイの思想的背景となっているような)他の思想家から学ぶべきか」について思うところを書いてみます。そしてその上で、3つに分けてデューイを勉強するにあたって読みたい本を紹介していきます


他の思想家から学ぶべきか

 簡単に言うなら、時間とやる気に余裕があれば、学ぶべき、と言えるかもしれません。

 デューイの思想的背景となっているヘーゲルだったり、デューイと同じくプラグマティズムに分類されるウィリアム・ジェームズの勉強をしてみるのはアリだと思います。それが、何らかの形でデューイの思想を理解するのに役立つことは間違いないでしょう

 たとえばアーレントは、「視野の広い思考様式」という概念を持ち出すけれど、カントを読んでないとそれをあまりよく理解できなかったりしますから。

 とはいえ、そんなことを言ってると哲学史をイチからやらなくてはいけないということになってしまいます。あるいは、他の思想家から入っていたら、デューイのことを忘れてしまったりもするかもしれません(それはそれで、興味のある領域が移ったということで良いのかもしれませんが)。

 デューイの思想に触れてみたいとのことなら、今最も興味のあるデューイから勉強をしてみるのが一番良いと思います。そこでわからないところがあるとか、あまりにも同じ思想家が言及されていてそこがよくわからないとなれば、他の思想家についても勉強してみればよいのですから。

 また、デューイについて勉強していく過程で、彼が背景としている思想家に対する理解も深まってきます。あまり考えすぎずにデューイの勉強に入ってみてはどうでしょうか。


デューイをどうやって学ぶか

 思いつく案としては3つ、「デューイの著作を読む」「デューイの解説書(入門書)を読む」「デューイの思想を論じたものを読む」というのがあります。順番があるとかではありませんが、「解説書(入門書)→著作→思想を論じたもの」という風に読むのが難易度的には順当です(難易度順に進めるのが最良とは限りませんが)。


デューイの著作を読む

デューイの勉強をしたければ、まずはデューイの著作を読むのが一番でしょう。むしろ、他の解説書とかを読んだとしても本人の著作に一度も触れてないのなら、それはデューイを学んだとは言い難いとすら言えるかもしれません。

 やはり、今に名を残すような思想家の著作というのは、その解説書を読むだけでは辿り着かないような深みがあります。若林幹夫は、ヴェーバーについて次のように書いていました:

 ヴェーバーの仕事とその広がりをなんらかの形で押さえておくことが、社会学を知るうえで大きな助けとなることは確実である。とはいえ、いきなり読み始めても、「あーでもない、こーでもない」を繰り返すようなその晦渋な語り口に閉口するかもしれない。そういう場合には、ヴェーバーについての解説書——各種取り揃えていろいろアリ——に目を通して、それからヴェーバーの著作を読んでみるといいかもしれない。とはいえ、解説書に書かれていることを確認するために読むのでは意味がない。解説はもとのテクストに対する解釈の一つにすぎない。「古典」と呼ばれるに値するテクストならば、ヴェーバーにかぎらずデュルケムでもマルクスでも、解説に還元できない多様さや豊饒さ——それは同時に「わからなさ」でもある——をもっているはずだ。「重要そうだけどよくわからない」というところから考えること。大切なのは、このことだ。

若林幹夫(2023)『社会学入門一歩前』河出書房新社pp.115-116より抜粋

 ということで、デューイの著作を読んでみましょう。「わからなかったら読んだ意味がない」というものでもないのです。読んだあとに何か残る「感覚」があれば、それを大切にすればよいのでしょう

 デューイにはいろんな著作がありますが、教育学に特に関係したところで3冊挙げてみました。どれか読んでみると良いと思います:

  • ジョン・デューイ(市村尚久訳)(1998)『学校と社会・子どもとカリキュラム』講談社

  • デューイ(松野安男訳)(1975)『民主主義と教育』岩波書店

  • ジョン・デューイ(市村尚久訳)(2004)『経験と教育』講談社


デューイの解説書(入門書)を読む

 ただ、そうは言っても、最初からデューイの著作を読むのはハードルが高くて挫折してしまうかも、という不安があるかもしれません。実際に難しくてわからなかったときに読めばいいとも言えますが、最初から解説書(入門書)を読んでみるのもアリです

 ものによっては、その思想家の生い立ちから説明してくれているものもあるので、馴染みやすいかもしれません(今回の場合は2冊目がそれに当たります)。デューイの解説書(入門書)はそれほどは出版されていないのですが、次の2冊は良さそうです:

  • 上野正道(2022)『ジョン・デューイ 民主主義と教育の哲学』岩波書店

  • 山田英世(2016)『人と思想23 J・デューイ』清水書院


デューイの思想を論じたものを読む

 デューイの解説書(入門書)を読んだり、実際にデューイの著作を読んだりしてある程度理解を含めたら、もう少し専門的なものを読んでみてもよいかもしれません

 デューイの思想が、今でもすべて受け入れられているというわけでもありません。それがどんなものであるかについての研究が進むとともに、批判的検証も行われるし、また逆に再評価がなされることもあります

そういった学問的なものに触れるために少し専門的なものを読む、というのも有意義です。例えば、次の2冊はどうでしょうか:

  • 早川操(2022)『デューイの探究教育哲学[リ・アーカイヴ叢書] 相互成長をめざす人間形成論再考』名古屋大学出版会

  • 田中智志編(2019)『教育哲学のデューイ 連環する二つの経験』東信堂


おわりに

 実際にデューイに関連した本を読んでみると「やっぱりそんなに好きじゃない」とか「(最初の方に言及したように)やっぱりヘーゲルから勉強したい」とか思うこともあると思います。

 あるいは、読んだ本の中でまた、他の本が参考文献や文献案内として紹介されていてそれを読みたくなるということもあるでしょう。

 そういったことがあれば、その時自分の気になる本を読めばよいのです。だからまずは、デューイの著作から1冊か、『ジョン・デューイ 民主主義と教育の哲学』を読んでみるといいのではないでしょうか。何か発見があるはずです。

 学び方に王道はないですから、本屋や図書館に行ってみて、自分の興味を惹いたものを読んでみるというシンプルな勉強の仕方で何の問題もありません。

 特に大学に入ってからの勉強では、効率を気にする必要もないですから、自分の思うようにやってみましょう。むしろ、どうやって勉強をしていくのかを考えるのも楽しくて、勉強がしたくなってしまうんですよね



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