活マウスは可哀想〜冷凍マウスの生前〜

10匹パックの冷凍マウスを冷凍庫から取り出して解凍し、ヘビにあげる。
爬虫類飼育者の日常風景だ。手馴れた作業は淡々と進む。
メインはヘビで、ヘビに餌をあげるのが楽しみだからだ。
優良なメーカーは医療実験用のマウスと同じ製造元から仕入れている、国内の清潔な施設で生産しているなどとアピールし安全で健康的なマウスを販売している。
一方で、解凍するとアンモニア臭い、変色、脱毛がある、中には腫瘍があるマウスを冷凍して販売している業者も居る。
冷凍マウスを複数の店から買ったことがある人は一度くらい経験した、または見聞きしたことがあるだろう。
先ほど書いた家畜と同じで、10匹入りのマウス1匹1匹にも、感情があり、人生があったのだ。
アンモニア臭い・変色・脱毛しているマウスの飼育環境を想像してほしい。
もちろん質が悪いマウスが生前必ず不幸だったわけではない。
飼育環境が良くても、殺す、冷凍する、輸送する過程で質が落ちることもあるだろう。
しかし、爬虫類が生きる上で重要な「食」に関して、消費者の元に届くまで責任を持って品質を保証出来ない生産者のことを信頼することが出来るだろうか?
国産、高品質、清潔などと謳っていて、実際にマウスを購入してみて質が悪かったら?
そう考えるうちに、私は飼育環境を実際に見ることが出来ない冷凍マウス達が、もしかしたら悲しい、苦しい、辛い人生を送っている=かわいそうなのかもしれないと思い始めた。

・家畜に与えられるべき権利とは
私は肉も鶏卵も大好物である。
そして日本の畜産の在り方を変えたい一人の動物福祉活動者でもある。
当たり前に肉を食べている現代の人々に「肉を食べるのは辞めろ」と言うのはナンセンスだ。
畜産の現状を全国民に知ってほしいと思う反面、活動家が悲惨な写真を唐突に出したり、菜食主義者が他人の権利を侵害したりしているのを見て、今後どうやって良い方向へ進められるか、頭を抱えている。
そしてまずは自分の出来ることからやろうと考え、家畜のQOL(Quality Of Life = クオリティーオブライフ)に配慮して環境を良くしている分、少し割高で販売している肉や卵を買っている。
無理せず出来る範囲から、小さくてもこつこつ続け、少し余裕が出来たら一段階進める。
これは私が関わる全ての問題や活動において大切にしていることだ。


私はどんな動植物でも命の重さは平等で、人間の支配下にいる動物には必ず一定の幸せを感じる権利があると考えている。逆に言うと自分の支配下にいる動物に一定の幸せを感じさせる義務があると思っている。
ペットではもちろんのこと、そのペットの餌となる生き物も同じだ。
そして人生が短い家畜こそ、生まれてから死ぬまでの苦痛を減らし、幸せを感じてもらえるよう努めるべきだと思っている。
ここで家畜や実験動物の権利のベースとなっている、1960年代に編み出された
「5つの自由」を紹介する。
飢え・渇きからの自由、不快からの自由、苦痛からの自由、恐怖・抑圧からの自由、自由に動くことが出来る自由。
私は生前これらの条件を守って飼育され、尚且つ品質の良いマウスを手に入れる方法は無いかと考えた。
そして、自分で監視できる状態の生産場所でないとそれがかなわないという答えに行き着いた。
この答えが、私が活マウスの飼育・繁殖を始めるきっかけとなった。


さて、冷凍マウスより活マウスの方がかわいそうと言う意見の人の中に、自然ではない広さの、爬虫類が有利なケージの中に生きたまま放り込まれ、絞め殺されて苦しみあえぐマウスの姿が思い浮かぶ人は少なくないだろう。
初めの方にも書いたが、私は自分の手で餌となる生き物を育てて、餌にする瞬間まで家族だと思っている。
そして寿命が短い家畜はできるだけ快適で幸せな暮らしをできる権利を持っているとも書いた。
たとえ餌になる瞬間とはいえ、今までの幸せが覆るほどの恐怖や苦痛を感じさせるのは良くないと考えている。
家畜のと殺もそうだが、できるだけ苦痛が少ない方法で、苦痛を感じる時間を短く済ませたい。
そこで私は、自らの手でマウスを絞めてヘビに与えている。
私が活マウスを扱う理由は、冷凍マウスに比べて、栄養面や、生前の状態も含め質が良いマウスをヘビに与えるためであり、ヘビがマウスを殺している様子を楽しむためではない。
もちろん様々な理由で生きたまま与えた方が良い場面もあるだろうから、生きたままあげることに関して非難はしないが、理由もなくわざわざ苦しめるのは私の理念に反しているので、生きたまま与えるのは避けたいところだ。
そこで私は同じような理念を持った活マウスの生産者から今知っている限り一番苦痛や苦しむ時間が短い絞め方を直に教わり、練習している。
できるだけ一瞬で、できるだけ怖くないように…
もちろん生き物を殺し命を奪っていることに変わりはない。気休めかもしれない。
それでもできるだけ一瞬で、できるだけ怖くないように、苦しくないように…
今も私は試行錯誤しながら絞め方の精度を上げている。

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