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大発見!「アレクサンドル・ネフスキイ」は、クルスク戦車戦の予言だった。

アレクサンドル・ネフスキイ」は、セルゲイ・エイゼンシュテインの1938年の作品。
 後で述べるように、これはクルスク戦車戦(1943年)の予言になっていた。この事実は、これまで指摘されていなかったことだと思う。

 12世紀から、「北の十字軍」と呼ばれるリヴォニア騎士団、ドイツ騎士団などが、北ヨーロッパ、とくにバルト海沿岸南東の異教徒に対して遠征攻撃を仕掛けてきた(ロシア正教は、異教扱い)。

  1240年、ドイツ騎士団がロシアに侵入したが、ノヴゴロド公アレクサンドル・ネフスキイがこれを撃破した。映画は、この史実を描く。
 
 侵入したドイツ騎士団は、プスコフを占領し、残虐行為を働く。

 プスコフは、ロシア正教の中心地のひとつで、国境貿易でも栄えたロシア有数の大都市。

 映画のクライマックスは、1242年4月5日、氷結したチェドスコエ湖で行なわれた両軍の決戦。「氷上の決戦」と呼ばれるこの戦闘は、史上最大のチャンバラ劇の一つだろう。

 決戦の朝、ロシア農民軍は、湖の一方でドイツ騎士団の総攻撃を待ち受ける。どんよりした雲が映し出され、その下に画面の端から端まで、農民たちが氷の上に1線に並んでいる。岩の上に立っているネフスキイとその幕僚たちのマントが、風で翻る。これは、映画の教科書によく使われる名場面だ。

 音楽はセルゲイ・プロコフィエフ。これ自体が名作で、「カンタータ、アレクサンドル・ネフスキイ」として、映画と独立に演奏されることも多い。

 ドイツ騎士団のテーマは音が歪んでいるが、不快な印象を与えるために、わざわざそうしているのだそうだ。

 遥か彼方から近づいてくる大軍団を見て、ロシア軍の緊張が高まる。兵士の1人が、恐怖に顔をこわばらせて、「ウェッジ・フォーメーション(楔型隊形)だ」と呟く。

 この戦闘隊形は、第2次大戦の戦車戦でも、ドイツ軍によって用いられ、Panzerkeilと呼ばれた(ドイツ語でPanzerは戦車、keilは楔型の意)。
 最初に登場したのが、1943年のクルスク戦車戦である。ソ連国策映画「ヨーロッパの解放」第1部には、ドイツ軍の戦車隊がティーゲル戦車を先頭に楔型で突撃するさまが描かれている。700年もの歳月を隔てて、似たような形の戦闘が、ドイツとロシアの間で繰り広げられたのだ。

 そして、エイゼンシュテインは、クルスク戦車戦が行われる数年前に、それを兵士の呟きとして予言していたわけである!
 映画での兵士の呟きも、Panzerkeilも、前から知っていたが、エイゼンシュテインによるこの戦闘場面がクルスク戦車戦の予言になっていたとは、この原稿を書くまで思い至らなかった。大発見だ!

 歴史ものの映画で戦争はよく出てくるが、戦闘場面を映像として再現しているのは、あまりない。費用が掛かりすぎるからだ。普通は、戦闘前の緊張、そして戦後の戦場の惨状を映すだけで終わる。
 いまでは、白兵戦であれば、CGだ。例えば、07年のアメリカ映画「300 (スリーハンドレッド)」の白兵戦は、見ればすぐに分かる(ちゃちな)CGである。

 ところが、「アレクサンドル・ネフスキイ」では、本当に両軍の人馬が激突し、人馬入り乱れての白兵戦が画面一杯に展開する。これが、実に、全編の3分の1にもなる。

 人海戦術そのものだ。予算とエキストラがいくらでも使える旧ソ連の国家プロジェクトだからこそ撮影できた映像だ。
 つまり、ソ連が崩壊したいまとなっては、こうした映画はもはや制作することができない。

 当初は優勢だったドイツ騎士団は、次第に押し戻される。状況不利と見た騎士団は盾の壁を作る。

 しかし、膠着した戦線は打ち破られ、ネフスキイがドイツ騎士団の首領に馬上一騎打ちを挑む。
 ローレンス・オリビエ
の映画「ヘンリー5世」(原作はシェイクスピア)で描かれているアジャンクールの戦いにおける一騎打ちも見事だが、「アレクサンドル・ネフスキイ」のほうが勝る。


 ネフスキイが首領を打ち倒し、騎士団は一挙に敗走に転じる。この場面でも、人と馬の奔流が省略なしに映像化されている。いまの映画では絶対に見られないシーンだ。
 騎士団は重い鎧を付けているため、集合した場所で氷が割れてしまう。彼らが冷たい湖に呑み込まれてゆく様が長々と映し出されるのだが、よくもこんな場面を撮影できたものだ。

 ところで、この戦闘が行われたチェドスコエ湖(または、チュード湖)というのは、どこにあるのか?
 いまの地図では、「ペイプシ湖」と表記されている。
 エストニアとロシアの国境にある。面積は3,500 km²。ヨーロッパで5番目に大きい。琵琶湖が670 km²だから、それより大分大きい。

これは、現在のプスコフ

 この映画が制作されたのは、第2次世界大戦の危機が高まっていた時代である。この映画が当時の世界情勢をバックにした国威発揚映画であることは明らかだ。
 ロシアを背後から脅かす蒙古の存在が描かれているが、これはもちろん日本のこと。
 そして、ロシアを危機から救う英雄アレクサンドル・ネフスキイは、スターリンだ。
全編を通じて、プロパガンダ色が強い。
 ただし、この映画は、単なるプロパガンダ映画には終わらず、現代に生き延びる価値を持った映画となった。

 なお、スターリンは、ヒトラーがソ連に侵攻するとは考えておらず、ヒトラーを刺激することを極力避けたいと思っていた。このため、39年に独ソ不可侵条約が締結されてから、実際にナチがソ連に侵攻する41年までは、この映画は、あまり上映されることがなかった


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Image Credits
占領されたプスコフ
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岩の上
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旗をあげる騎士団
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進軍
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楔型
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近づく騎士団
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乱戦
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一騎打ち
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ペイプシ湖
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プスコフ
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