世界経済最前線

貿易戦争を読み解くには、各国の構造の差を知ることが不可欠

 米中貿易戦争がエスカレートし、世界経済に大きな影響を与えている。今後どのように推移するかを判断するには、各国の経済構造の基本を正確に理解する必要がある。

◇輸出依存度が高い中国は高関税に弱い
 第1に輸出依存度を見ると、中国がずば抜けて高い。中国経済は輸出によって成長したわけだし、何らかの理由で輸出が減ると、大きな打撃を受ける。
 そのことは、2008年のリーマンショックで実際に起こった。
 その後、中国経済は「新常態」(new normal)と呼ばれる構造に移行し、輸出依存度を下げてきた。それでも高い。
 これに対して、アメリカの輸出依存度は一貫して低い。

 したがって米中貿易戦争で高関税の掛け合いをすると、その影響は、中国経済においてより強く現れる。これは、実際に起こっていることだ。トランプ大統領が強気である背景には、こうした事情がある。
 ただし高関税の影響は、輸出だけに及ぶのではない。輸入も影響を受ける。高関税によって国内物価が上昇するという問題がある。
 この効果は、アメリカの方が強く働く
 ただし、これまでは高関税は消費財に対しては掛けられていなかったので、この問題が顕在化していなかった。追加関税第4弾によって、それが顕在化する可能性がある。

◇外資の生産拠点が中国から移転する可能性
 第2に注目すべきは、外資への依存である。
 これについても、中国が圧倒的に高い。中国の経済発展を支えた投資は、自国内で生み出された貯蓄によって賄われたのではなく、外資によって賄われたのだ。 中国の経済発展は外資によってなされてきたのである。
 これについても、「新常態」への移行によって最近では下がっている。
 しかし、過去において流入した資本があるから、ストックで見れば高い。
 高関税によって中国からの輸出が不利になると、中国国内にあった外資の生産拠点が東南アジアなどに移転する可能性がある。これは、中国の生産活動に大きな影響を与える可能性がある。
 とりわけ輸出産業において外資の比率が高いので、この面から中国の経済が打撃を受ける可能性がある。
 
 なお、アメリカの経常収支は一貫して赤字であり、したがって、資本収支は黒字だ。この点では、アメリカも中国と同じく、海外からの資本収入によって支えられている。

◇元レートの設定は難しい
 元安が進むと、高関税の影響が相殺される。事実これまで、そうした変化が生じていた。 この面だけを考えれば、元安が望まれるだろう。事実、中国当局は元安を容認している。
 しかしそうすると、資本流出が生じる危険がある。
 中国の富裕層は資産を海外で保有したいと考えているので、大規模なキャピタルフライトが起こる危険があるのだ。
 それに加え、外資が流出する危険がある。
 この点で、中国政策当局は難しい舵取りを要求されることになる

◇貿易戦争の各国への影響
 貿易戦争によってこれまで生じたたことと、今後生じうることを要約すれば、つぎのとおりだ。
(1)高関税の掛け合いで、中国は痛手。アメリカはあまり影響を受けず。
(2)元安が進行。しかし、中国は無闇に元安にできない。
(3)日本は円高でかなり影響を受けそう。

 こうなる背景には、上で見たような各国の経済構造の違いがある。それを見ないと理解できない。

(1)について、「なぜアメリカが影響を受けず、中国が受けるか?」といえば、輸出依存度で中国で高く、アメリカで低いからだ。だから、中国の痛手が大きくなる。
(2)について、元安になると中国からの資本流出の問題があるから、中国当局は無闇に元安を容認できない。この点で、通常言われる「通貨戦争」とは性質が違う
(3)について、日本の輸出依存度は、1990年代には低かったが、現在では高くなっている。だから、円高によってかなり大きな打撃を受ける。
 他方で、外資に対する依存度は低いので、中国とは異なり、円安を求めることになる。しかし、金融緩和をしたところで、それに対抗することはできないだろう。



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