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【2つの誤算】J3第13節 松本山雅×愛媛FC マッチレビュー

スタメン

リーグ戦9試合負けなしと安定感が出てきている松本。前節攻撃陣が好調な藤枝を完封し、やや停滞気味だった攻撃陣も小松蓮が2ゴールを挙げるなど復調の兆しを見せた。そこへU-19日本代表のフランス遠征で離脱していた横山歩夢が復帰。本来のエースが戻ってきたことでチーム内の競争はより激化しているはずだ。

ここで横山歩夢を先発で使わないあたりが名波監督。好調な田中パウロ淳一を継続して起用し、横山はベンチスタートとなった。それ以外は前節とメンバー変更なし。システムは守備のハマり具合が良かった3-4-2-1を採用している。ゲームチェンジャーとなれる横山をどのタイミングで投入するのか、はたまた使わざるをえない展開となるのか。

一方の愛媛も好調を維持している。今治との伊予決戦は敗れてしまったが、そこまではリーグ戦7試合負けなしを続けており、その間わずか4失点。こちらも堅い守備をベースに勝点を積み上げてきている印象だ。

コロナ感染で抜けていたメンバーも復帰してきており、ほぼベストメンバーで臨んでくるかと思いきや、またも主力が消えてしまっているのが今節。栗山・忽那・近藤といった辺りは変えのきかない選手であるはずなので、何かしらのトラブルがあったのかもしれない。


苦肉の策がどハマり

前述のとおり、愛媛は主力選手が数名欠けており、本来自分たちがやりたいサッカーを実現するにはピースが足りなかったのだろう。今季見せたことのない戦い方で臨んできた。

立ち上がりは愛媛のほうが直近何試合かでやっていたサッカーではなくて、少し多めに自分たちの背後にボールを供給するようなシーンが多かったと思います。

ヤマガプレミアム 試合後コメントより

試合総括の第一声で言及されているように、事前にスカウティングしていた愛媛のサッカーとは異なる入りだった。この日松本の大きな誤算の1つである。

愛媛は2トップに松田と進という、裏抜けを得意としてスピードのある選手を配置。高く設定された松本の最終ラインに対して、執拗に裏抜けを試みる。たとえ5回オフサイドになっても1回決定機が作れればOKというくらいの感覚で、それくらい割り切った戦い方を選択していた。

これは個人的な見解だが、自発的にこの戦い方を選んだというよりは、メンバー選考も含めて最も勝利に近い、効率的に得点を奪う戦い方が、徹底的な裏抜けだったのではないかと思っている。
幸か不幸か、栗山が外れて森下と鈴木というセンターバックのペアだったのも、この戦い方にはマッチしていた。両者とも1対1の対応だったり、対人の部分で脆さを見せることがある一方、ロングフィードの正確さに定評がある。愛媛は常に最終ラインに発射台が2つ用意されている状態で、高い位置を取ることの多い外山凌の背後のスペースを狙っていた。

松本はハイラインを敷いていた割には、相手のボールホルダーを自由にさせすぎた。1トップ+2シャドーは、チームとしての決め事があったのか、ハイプレスを自重する場面が多かった印象。それによって鈴木や森脇をフリーにしてしまい、背後へのロングパスを好き放題出させてしまった。J2でもトップクラスにフィードが上手いCBと、J2でもトップクラスに裏抜けが上手い2トップがかみ合わされば、決定機を作り出すことは容易。

愛媛に先制点を献上した場面でも、何度も突かれていた左サイドの背後が起点である。

先制点を取られたシーン

もっともこの場面で一番悔やむべきは、相手のフリーキックとなった瞬間に松本の集中が切れてしまったこと。全体の準備ができておらず、クイックに始めた愛媛に虚を突かれる格好となった。鈴木から横谷へボールが渡った時点で、警戒すべきキッカーであるはずの彼は完全にフリー。それを見て、右SHの佐藤がするすると松本の守備ブロックの内側へ入ってくる。安東輝・菊井悠介・外山凌・常田克人のちょうど中間にできたエアポケットでボールを受けた佐藤、慌てて常田が寄せに行くが時すでに遅し。逆に常田が飛び出したことで歪になった最終ラインを進にブレイクされ、最後は松田が合わせてネットを揺らされる。

マイボール・相手ボール問わず、ゴールキック・フリーキック・スローインなどプレーが途切れた時に、集中力も一緒に途切れてしまいがち。名波監督が就任してから度々、相手のゴールキックで「ボール見ろ!」と怒鳴られている場面を目撃したことある方は多いのでは。この日も、後半にビクトルがフリーキックをクイックリスタートしようとしているのに、味方が誰も反応してくれず怒っているシーンがあった。愛媛はその点したたかで、松本がセットプレーの時に集中が切れるということもスカウティング済みだったはず。見事に松本の見せた隙を逃さず、決めきってみせた。決定機を確実に沈めてくるのは昨季までJ2にいたチームならではのクオリティと言うべきか。

いずれにせよ、徹底した愛媛の裏抜けに対して明確な修正をできず、課題であるセットプレー守備から綻びを見せて失点してしまったことは残念でならない。前半45分のうちに全体のラインをもっと明確に下げるか、1トップ+2シャドーに対してボールホルダーへのプレッシャーを強めるように要求すべきだった。大野佑哉・常田克人・下川陽太はそれができるポテンシャルを持った選手だと思うし、ハーフタイムを待っていては、このレベルの相手には決定機を複数回作られて失点してしまうということを体感したはず。過ぎたことを責めても仕方ないので、もっと味方に要求し、リーダシップを持ったプレーを見せてくれることに期待したい。


出口を封じられたビルドアップ

ここまでは愛媛の攻撃と松本の守備の話。松本の攻撃面はどうだったかというと、こちらも課題が多く残る結果となった。

3-4-2-1の松本は、基本的に3バックでボールを回しながら、1トップの小松蓮を起点にして相手を押し込んでいく狙い。それに対して愛媛は、2トップ+ボールサイドのSHを組み込んで、3バックに対して数的同数のプレッシングを当ててきた。

愛媛のプレッシング

ロングフィードが上手い常田克人を起点にしたいのと、菊井悠介が地上でビルドアップの出口になろうと降りてくるので、松本の攻撃は左に偏りがち。なので右サイドを例にすると、常田に対しては右SHの佐藤が一列前に出て寄せていき、外山には右SBの森脇が縦ズレして帳尻を合わせる。

数的同数のプレッシングを敢行するということは、ボランチ以下も数的同数の対応を迫られるということ。特に愛媛のCBは小松蓮との1対1を制することがミッションだった。

松本としては、藤枝戦で圧倒的なデュエル勝率を誇って攻撃を牽引した小松に期待していた部分が大きかったと思う。ところがどっこい、小松が愛媛CBとの競り合いに勝ったシーンは片手に収まるくらい。愛媛にハイプレスを掛けられても、小松蓮へのロングフィードを放り込んで、彼が収めて起点になってくれれば一気に局面をひっくり返せる算段だったはず。小松蓮が競り負けることが多かった時点で、松本のゲームプランは儚くも崩れ落ちた。

前節あれだけのパフォーマンスを見せてくれていたら、継続して彼を使いたくなる気持ちもわかるし、僕自身も小松蓮なら制空権を握れると踏んでいた。長距離移動によるコンディション不良なのか、純粋に鈴木や森下が逞しさを増しているのか、根本的な原因は分からない。ただ、松本にとって2つ目の大きな誤算であったことは間違いない。



後ろ重心を戻せず….

小松蓮へのロングフィードが封じられると、一気に松本のビルドアップは手詰まり感が増していく。小松がボールを収めて起点になることを前提に、前を向いて仕掛けた時に破壊力を増す菊井悠介&田中パウロ淳一のシャドー起用だったのだと思うし。小松がすべての責任を負っていると言ったら大げさだが、それくらい彼には期待と信頼が寄せられていたことの裏返しでもある。

状況を打開すべく、ボランチが最終ラインのヘルプに入る。これは今季の松本でよく見られる形だ。安東輝が大野佑哉の右側に落ちることで、擬似的に4バックを作り出し、愛媛の2トップ+ボールサイドのSHという3枚でのプレッシングを無効化する。

最終ラインにヘルプに入るボランチ

ボランチのサポートによって、最終ラインでの繋ぎは安定するのだが、中盤を一枚削っているので全体の重心が後ろ向きになってしまうというのがデメリット。せっかく小松蓮へ良い楔のパスがはいっても、周りでサポートする味方が足りておらず孤立してしまう現象。ここにボールを欲しがった菊井悠介がふらふらと降りてくると、流れとしては黄色信号。
昨季よく見かけた最終ラインに選手が集まってきてしまって後ろに重たくなってしまう現象。一部界隈ではセルジーニョ現象と呼ばれているらしい。笑

孤立する小松蓮

愛媛からしても、松本が最終ラインでどれだけパスをつなごうとも、最後は小松蓮への縦パスを警戒しておけばよいのだから守りやすかったはず。

人を入れ替えずにやれることがったとすれば、背後へのランニングだろう。裏抜けを見せておくことで、愛媛CBを前に出ずらくし、ボランチと最終ラインの間のスペースを作り出す。そこで呼吸をするのが得意な菊井悠介や小松蓮が起点になれる機会を増やす狙いだ。

背後への抜け出しを増やすというのは、横山歩夢でないと出来ない解決策ではなく、選手の役割を少し変えてあげれば実現できたはず。今季ここまで試合中に選手から監督に提言するような場面もあったくらいなので、横山歩夢の投入を待たずともできることがあったのではないかと思ってしまう。


フランス帰りのエース登場

愛媛に主導権を握られてしまった試合を再び動かすには、もはや選手交代しか残されていなかったように思う。誰もが予想できていたことではあったが、名波監督はハーフタイムでフランス帰りの横山歩夢を投入すると決断。

結果的に、前半通してチームに足りていなかった裏抜けの意識を植え付けることに成功。愛媛CBが横山の背後へのランニングを警戒して守備ラインを下げることで、愛媛の守備ブロック自体が後退。前半には見られなかった、安東輝・住田将を起点にボールを握り、左サイドを外山凌が駆け上がるというシーンを早々に見せる。

重苦しい空気を取り払ったのはエースの一撃。右サイドでの作りから、住田将を経由して左へサイドチェンジ。高い位置を取った外山凌からの折り返しを左足で丁寧に合わせると、弧を描いたシュートは徳重が伸ばした手の先をかすめるようにサイドネットに収まった。

同点ゴール。フランスに行って左足でも決められるようになって帰ってくるとは。若手の成長は著しい。ちょっと見ない間になんとやらである。

利き足とは逆の左足で決めたのも成長を感じたが、それ以上にアツくなったのはオフザボールの動き。住田将が左サイドへ展開しようとした段階で、横山はややペナルティエリア内に入るのが遅れていた。ここで慌ててゴール前に突進するのではなく、落ち着いて相手と味方の動きを見極め、ポッカリと空いたバイタルエリアが見えていた。フリーでシュートを打てる場面を作った動きこそが彼の成長の証である。


ゴラッソの陰に隠れた課題

反撃ムードの松本に対して、愛媛の修正は早かった。森脇・佐藤を下げて右サイドの大城・茂木を投入し、対面の外山凌に走り負けることが多かった右サイドにテコ入れ。この交代によって、大城を右CB・茂木を右WBに据えるような形に変形する可変システムに切り替えられ、松本の勢いは吸収されてしまう。

そんな最中、大野佑哉が不用意なファウルで良い位置のフリーキックを与えてしまう。内田に自分が蹴りたいと直訴したという茂木、その右足から繰り出されたボールは、松本の壁の内側を通過してビクトルの手から逃げるように巻いてゴールに突き刺さる。おそらく壁の作り方を見ると内田が蹴ると思っていたようで、茂木のキックは意外だったかもしれない。

さらに81分には自陣で2度空中戦に競り負けてしまい、こぼれ球を拾った佐々木が松本ゴールへ突進。大野佑哉のタックルを交わすと、25メートルほどはあろうかという位置から右足を振り抜いてゴラッソを決めてみせた。

2失点に絡んでしまった格好となった大野佑哉。どうにも焦りすぎているようなプレーを見せているのが気になって仕方ない。2失点目につながったファウルは、審判によっては2枚目のイエローカードが提示されて退場になっていてもおかしくなかったと思う。少なくとも1枚警告をもらっているCBの選手が見せて良いプレーではなかったかなと。
佐々木に対するタックルも、言葉を選ばすに言えば、要らないプレーだったと思う。佐々木は単独でのドリブル突破でフォローはなかったし、松本の選手も2枚後ろに控えていた。あの場面で彼が取るべきだった選択は、下手に飛び込んでかわされないように、できるだけ時間を掛けさせること。もしシュートを打たせるなら良い体勢で打たせないこと。

1点差で残り10分強、イレギュラーでこぼれてきたボールを拾われてのドリブル突破、焦りが生まれる要素があったのは否めない。それでもトップレベルに近い選手であればあるほど、恐ろしいほど冷静で、判断ミスの回数が少ない。彼以外の選手も指摘されていたが、ビハインドを背負った途端にプレーが雑になってしまうのはメンタル面からくるもの。一朝一夕で改善するものではないと思うが、さらに成長するチャンスだと思って、前向きに取り組んでほしいと願う。

アディショナルタイムに、スクランブルから宮部大己の得点で一矢報いたのは昨季と比べてチームが変わっている点。ただ、結果は2-3での敗戦。リーグ戦の無敗は9試合でストップとなった。


総括

ものすごく悔やまれる敗戦となってしまった。前節良いプレーを続けていた小松蓮の所で優位に立てず、セカンドボールの争いでも尽く相手に回収されてしまう。できていたはずの部分が崩れてしまったのは、この試合の大きな誤算だった。

考慮すべき点があるとすれば、ビハインドを背負ったのは第3節の鹿児島戦以来であるということ。前半をリードされて折り返したのは、今季ここまで鹿児島戦のみ。そして唯一の敗戦もその試合である。

讃岐戦もビハインドを背負ったが、前半アディショナルタイムの同点弾で気持ちをリセットして折り返せているので例外だろう。つまり、今季ビハインドからひっくり返すという展開にチームが慣れていないということでもある。

失点すると落ち込みが激しく、リードしているとノッていくという感じは昨季と変わっていない。いい意味でも悪い意味でも若いチームから抜け出せていない印象だ。

名波監督は「若いから」といった理由で妥協することを許さないはず。13試合して2回しか負けていないということ自体すごいことではあるのだが、これ以上の負けを積み重ねることは昇格争いからの脱落を意味する。今日の敗戦からどれだけ多くの学びを得て、次に活かすことができるか。授業料としては高く付いたが、それ以上の成長を見せるしかない。


俺達は常に挑戦者


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