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【勝って兜の緒を締めよ】J2第31節 松本山雅×ギラヴァンツ北九州 マッチレビュー

スタメン

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松本は6試合勝利から見放されている中で迎える一戦となる。前節の一発退場により出場停止の下川陽太に代わって宮部大己がスタメン復帰。伊藤翔が先発、好調の榎本樹・村越凱光がベンチに入りを果たした一方、鈴木国友がベンチ外となっているのは気がかり。負傷離脱でないことを祈るばかり。

対する北九州は6試合負けなし(2勝4分)と調子を上げてきている。うち3試合がクリーンシート、残り3試合も1失点と守備が安定してきているのが特徴的。シーズン序盤に見せていたような前からアグレッシブにプレスを掛けるスタイルから、4-4のブロックを組んで構える形に変化してきている。


予想外のプレッシング

前述のとおり守備の仕方を変えてきている北九州に対して、松本がある程度押し込んでボールを保持する展開が予想していた。しかし、北九州は戦い方に修正を加えてくる。

4-2-3-1が基本布陣の北九州だが、守備時はトップ下の前川が前線に張り出して2トップのような振る舞いになり、サイドハーフを加えた4枚で前からプレッシングを掛けてきた。ここ数試合の戦い方と比べるとかなり前掛かりで、松本は面食らったような格好に。最終ラインから丁寧にパスをつなごうとした松本はハイプレスの餌食となってしまう。

前節もレビューで書いている内容だが、ボランチの一角が最終ラインに落ちてビルドアップのサポートをするのは継続。今節では橋内の左に下りて、右CBの大野をややサイドバック気味に押し上げる事が多かった。ただ、効果が薄かった点も前節から引き続き。機械的にボランチを落としているだけで、サリーダの本質であるはずの数的優位を作って相手のプレスを無効化するという部分が抜けてしまっていた。

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失点シーンも根本的な問題はここにある。平川が最終ラインでボールを受けて橋内へつなぐのだが、この時点で松本の最終ライン4枚と北九州のプレッシング部隊4枚は完全に同数。橋内から佐藤へのパスコースは、前川に背中で消されており、橋内は村山に下げるしか選択肢がない状態を作られている。苦し紛れにバックパスを選択したので、村山は橋内に寄せた流れで迫る前川からプレッシャーを受けており、コントロールミス。村山個人が責任を感じざるを得ないところもあるが、どちらかと言うとGKにあれだけプレスを掛けられて余裕がない状態を作られてしまった時点で詰みだったかなと。

北九州の振る舞いが普段と違ったという想定外があった中で結果論になってしまうが、松本は試合の入り方をやや間違えたかなと思う。上背のない北九州の守備陣を見た時に、シンプルに前線に放り込んでも良かったかなと思うし、前からプレスを掛けられて苦しんだならばなおさら。まあ、その戦い方を想定していたら阪野か榎本を先発で起用していたとはずなので、やはり事前のスカウティングと違っていたということなのだろう。

とはいえ、チームとして想定外にめっぽう弱いのは気になるところ。自分たちのやりたいプレーをするのに精一杯で、相手の変化に対応できないのは名波監督就任時から続いている。途中就任ということでチーム練度が低いといえばそれまでなのだが、ある程度経験と積んでいる選手がいるのに、ピッチ内で思考停止に陥る場面が目立つのは不安要素。熾烈な残留争いを戦い抜くにあたって、当然奇策を仕掛けてくるチームもあるだろうし、想定外が起こることは多分に予想される。90分内での適応に時間を要しているのはピッチ内での会話量が少ないという課題にも繋がってくるのかもしれない。


運命の分岐点

なかなか決定機まで結び付けられない焦れったい展開続くと松本の悪癖が顔を出し始める。セルジーニョがボールを欲しがってボランチの位置まで下りてきてしまい、チームの重心が後ろに傾いていく。セルジーニョが下がった分ボランチの片方が前線に上がれればよいのだが、その場で留まってしまうため3ボランチのような配置に。伊藤・山口と中盤の繋ぎ役が不在となってしまったことでかえって北九州に守りやすさを感じさせており、マイナスに響いていたと思う。

そうこうしていると、セルジーニョが左のハムストリングを痛めて負傷交代。接触のないところで痛めたこと、自ら座り込んでプレー続行不可能と意思表示したこと、歩けていたことを考慮すると軽めの筋肉系の負傷だとは思うが心配だ。長引かないことを祈る。

泣きっ面に蜂とはこのことだと思ったが、セルジーニョがピッチ外に出て一時的に10人となっている時間帯に橋内のハンドでPKを献上。仮にPKの判定とならなくても、オフサイド取り消しで得点が認められていたはずなので松本としては致し方ないか。むしろ、キッカーの佐藤亮が蹴ったボールはクロスバーを直撃し追加点を許さなかったことで、PK判定に救われたことになった。正直PKを取られたときには心が折れかけたが、サッカーの神様がまだ諦めるには早いとチャンスをくれたようで、松本陣営もこれを機に息を吹き返していく。まさに試合を左右したプレーだった。


キーマンの復活と若武者の躍動

やられっぱなしでは終われない松本はハーフタイムに2枚替えを敢行。山口と宮部を下げて、前節劇的な決勝点を挙げた榎本と村越を投入。前線を活性化すると同時に、プレッシングの強度を高めることを狙っていた。これは少し余談だが、シーズン開幕前と夏に大量に補強したにもかかわらず、崖っぷちに立たされたチームの切り札が生え抜きの若手というのは皮肉な運命だなと思ったり。

セルジーニョの負傷により途中投入された河合は、下がってくることなくバイタルエリアでボランチからのパスを引き出す動きにフォーカスしていたのが良かった。監督交代直後にトップ下で起用されたときは、ボランチの位置まで下がって最終ラインからボールを引き受けようとして空回りしていた印象だったが、先発を外れる期間が空いたことで思考が整理されたのだろう。昨季琉球で見せていたような河合本来のライン間で受ける動きや、キレのあるドリブルといった持ち味が発揮できるように。河合自身が頭と身体をリフレッシュして、求められている役割と自身の長所が噛み合う点を見つけられたのは好材料。加えて、ボランチに平川が定着したことも追い風になっているはず。最終ラインからパスを引き出して攻撃のスイッチを入れる役割を平川が担ってくれるので、河合は心置きなくバイタルエリアの攻略に集中することができている印象だ。最近名波監督が試合後のコメントで、トップ下で起用された選手に関してタッチ数を言及しなくなったのも、この影響が大きいと思っている。

もうひとつ松本が後半盛り返せた要因は榎本という明確なターゲットが最前線にできたこと。シンプルに”高さ”を活かせるキャラに変わったことで、チーム全体の意思統一も同時に図れていた。榎本は空中戦ではほぼ負け無しだったし、質で殴れる場所ができたのは試合の流れを引き寄せるには十分だった。

得点に繋がったのは2つとも狙い通りの形から。

1点目のセットプレーは、ニアで常田が触ってファーに詰めた榎本と伊藤が押し込むというデザインされたもの。惜しくもファーでは合わなかったが、こぼれ球を橋内が左足で豪快に蹴り込んで同点。前節の試合後インタビューで榎本が「セットプレーは練習通りの形が出せた」という趣旨のコメントを語っており、今節もほぼ同じ位置。セットプレーはまだ何種類かカードを持っていそうなので、今後も期待したい。余談だが、セットプレーの時は名波監督ではなく三浦ヘッドコーチがベンチから指示を出している。たぶん三浦ヘッドコーチが専任でトレーニングしているのだと思うけども、非常に楽しみだ。

決勝点となったのはシンプルなロングフィード。村山が自陣から蹴ったFKを榎本が逸らすと反応した伊藤が押し込んだ。北九州のセンターバックは比較的上背がある岡村が競って、予測とカバーリング能力に長けた村松はセカンドボールの処理に回るという決め事がある模様。この場面での北九州の誤算は松本にターゲットとなりうる選手が2枚いたこと。伊藤と榎本である。よく見ると岡村は最初伊藤をマークしていたのだけど、榎本が落下地点に入ったのを見て慌てて伊藤のマークを捨てて競りに行っている。遅れて競ったので榎本には勝てず、村松のカバーも間に合わず、運悪くフリーにした伊藤にボールがこぼれてしまったというわけである。

前節の得点に続いて、今節はアシストという直接的な結果を出した榎本は本当に讃えられるべき。ただ、J2の中でも空中戦にはそれほど重点を置いていない北九州相手だったことは手放しで喜べない理由だろう。そういった意味でも、次節の千葉、その次の栃木とJ2屈指のエアバトラーを揃えるチーム相手が試金石になりそうだ。

そして得点を決めた伊藤は本格的にコンディションを戻しつつある。榎本のヘディングでの落としを予測していたかのようにドンピシャの位置に走り込んでいたのは、ストライカーの嗅覚と経験のなせる技。フィニッシュの落ち着きもさすがで、名波監督が獲得を熱望した理由をアルウィンで証明してみせた。89分のプレータイムは松本加入後は最長。交代直後に足首を痛めていたのは気がかりだが、終盤になってもプレスバックを怠らない献身性を見せていたのでフルタイムの起用も問題ないはず。熾烈になってきた1トップのポジション争いにも注目だ。

試合はこのまま松本が逃げ切って2-1で勝利。第6節の秋田戦以来、今季2度目の逆転勝利を収めた。


総括

苦しみながらも掴んだ7試合ぶりの勝利で勝点を30に乗せて降格圏から脱出。降格圏とは勝点差1と全く油断できない状況だが、ようやく一筋の光が差し込んできた。試合後の名波監督の表情を見ても、喜びよりも安堵が勝っているような印象で、少し肩の荷が下りたのではないだろうか。

しかし、内容を冷静に振り返ると、前半のPKが決まっていたら90分を終えたスコアは全く違ったものになっていたかもしれない。置かれている状況を考えれば、内容よりも結果が欲しくて、勝てばよかろうもんなのだが。勝って兜の緒を締めよ。決して納得できる試合運びではなかったことは、僕自身への戒めも込めて書いておきたい。

ここにきて榎本樹というラッキーボーイが誕生しつつあるのは非常にポジティブな材料。そもそも今季出場2試合目ということで、相手もデータが少なくて、警戒度も低かったはず。屈強なセンターバックが揃う千葉・栃木相手で警戒される中でどんなプレーを見せてくれるか。互角かそれ以上に渡り合えるようならば、来季以降の戦力として計算が立つゆえ、榎本自身にとっても大事な局面を迎えている。


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