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【大きな敵は己の中に】J3 第11節 松本山雅×ガイナーレ鳥取 マッチレビュー

スタメン

リーグ戦7試合無敗と安定した戦いぶりを見せる松本。ただ、現状に満足しない名波監督は、就任後初めて4-3-3を採用してきた。開幕前のキャンプや紅白戦では試していたようだが、公式戦では初お披露目。長らく3バックを愛用してきた松本なので、クラブの歴史を見ても4-3-3は非常に珍しいシステムと言える。

メンバーに関して言えば、ここまで開幕戦を除いて全試合に出場していた住田将がベンチ外に。ミッドウィークの天皇杯には出場していたし、どうやら遠征メンバーには胎動していたようなので、当初はスタメンで使うつもりが負傷などで急遽メンバー外となったのかも。もう一人の変更は常田克人。前節、ショッキングなミスで前半だけで替えられてしまったので精神的にリフレッシュさせる意味合いもあるだろうか。

対する鳥取は公式戦7連敗中と厳しい戦いが続いている。特に直近5試合で15失点と守備が崩壊してしまっており、立て直しが急務となっている。そんなチーム事情がある中で希望の光になりそうなのはキャプテン石井の復帰だろうか。前節も84分間プレーしており今節もスタメン。全体的に若い選手が多いので、27歳の彼もチームでは引っ張る立場。生え抜きのリーダーがチームにどんな変化をもたらすかは見ものである。


左で崩して右で仕留める

名波監督はゲームプランを考える時に守備から入る人だ。どの試合でも守備が正しく機能することを最優先に考えてプランニングしている。それはシステムが変わっても、人が変わっても同じである。一方で攻撃面に関しては割りと選手任せ。菊井悠介だったり、横山歩夢のアイデアに頼ることが多い。良く言えば選手の個性を活かす戦い方、悪く言えば放任主義といったところだろうか。

しかし、この試合では珍しく攻撃の形を仕込んできた。左サイドバックの外山凌の攻撃性能を最大限に引き出し、彼のクロスにエリア内で小松蓮と榎本樹が合わせるという形である。榎本樹を慣れない右ウィングで起用したのもこれが理由で、一般的な3トップのウィングのように大外に張って仕掛けるのではなく、エリア内に入ってきてフィニッシュに絡むことを求められていた。

この形を用意したのは、鳥取の最終ラインが抱えている問題点と切っても切り離せない。相手のセンターバックは173cmと176cmでやや高さ不足は否めず、左サイドバックの丸山も173cm。CFに入る小松蓮、大外から入ってくる榎本樹がともに空中戦を得意としていることからも、松本に分があるのは明らかである。

そして左サイドバックの外山凌は縦への推進力と右足から繰り出すインスイングのクロスが持ち味。ファーサイドのDFの頭を越えるすようなクロスを入れて、背後を取った榎本樹が押し込むという形は想像に難くない。左インサイドハーフに入った菊井悠介は、内側に入ったり逆サイドまで出かけるのが通常営業。左の大外で被ってしまう心配は無いので、外山凌は気持ちよくサイドを駆け上がってクロスの雨を浴びせる。

はずだった。


計算外のビルドアップ

現実はそんなに甘くなかった。

この攻撃の形は、左サイドバックの外山凌を高い位置に押し上げてクロッサーとしての役割に集中させるのが肝である。そのために菊井悠介は内側に入って相手サイドバックorサイドハーフを引き付ける。

ただ、肝心のパスが外山凌に出てこない。
どうした。どこでノッキングしている?

紐解いていくと左センターバックから左サイドバックへのパスで詰まってしまっているようだった。
理由は明らかで、左センターバックに右利きの宮部大己を起用していること。利き足の近くにボールを置こうとすると、必然的に右側、つまり左センターバックの立ち位置から見て内側にボールを置くことになる。身体が常に右を向いているので、左で待っている外山凌にパスをつけるのが難しいというわけである。

宮部大己が左にパスを出そうとしたら、右から来たパスを左足でトラップして、ボールを左前に置かないとスムーズにはいかない。ところが、どうしても右前に置いてしまう。もしかすると、大学時代から長らく右サイドを主戦場にしてきているので、ボールを左に置くということが自然ではないのかもしれない。無意識のうちに自分が利き足で扱いやすい右前に置いてしまっているようにも見えた。

自分も学生時代にプレーヤーを経験していたのだが、この気持ちはめっちゃ分かる。純粋に不安なのだ。相手にプレッシャーを掛けられている中で、瞬時に対応しようと思ったら利き足のほうが良いに決まっている。ましてやセンターバックで、自分がボールを奪われたらGKと1対1、失点に直結するポジションならなおさら慎重になる。

そういった事情もあってか、左サイドでのビルドアップがノッキングしてしまい、左から攻めたいのに左サイドへ展開できないという矛盾が生じてしまっていた。

これを解決しようと動いたのは前貴之。さすが気が利く男である。

自分が宮部大己の左側に降りて、左サイドでのビルドアップを円滑にしようと試みたのである。なるほど、これであれば宮部大己が無理することもない。と思ったが、宮部大己は頑なに左を向こうとしなかった。いや、向こうとしていたが向けなかったというのが正しいかもしれない。不用意に左足でトラップしようとすれば、相手にかっさらわれてしまうリスクも抱えている。

プロになるようなレベルの選手でも、長いキャリアの中で出来上がってしまった自分の癖を修正するのは容易ではないということだろう。実際に、欧州一を決めるUEFAチャンピオンズリーグでも、特定の選手の癖を見抜かれ、逆に利用されている場面とかを見たりする。

次に動いたのは外山凌。高い位置を取っていてもパスが出てこないとわかったので、前半30分過ぎたあたりから徐々に最終ラインまでボールを貰いにやってくるように。ただ、自分たちのゴールに向かって受けに来て、かつパスコースが外山凌しかないとなれば、相手からすれば格好の的である。狙い撃ちでインターセプトされ、ピンチを招いたシーンがあったように、この打開策は上手くいかなかった。

そもそも外山凌には高い位置でクロス放り込みマシーンになることを求められていたのに、最終ラインまで下がってパスを受けていたのでは本末転倒である。外山が悪いというわけではなく、そんな状態を作ってしまった仕組みに問題があるわけなのだけど。

さて、宮部大己に関してもう少しだけ。
たしかに慣れないポジションを任されて、自分の苦手な部分が露呈してしまったのかもしれない。彼のストロングポイントは丁寧なビルドアップというよりは、対面の相手を封殺する1対1であることは皆が知っている。
ただ、彼に100%同情できない部分もある。

センターバックのポジション争いは熾烈だ。そして宮部大己はスタメンを確約されている選手ではない。この試合も常田克人というレギュラー選手が外れ、チャンスをもらった恰好である。厳しいことを言うかもしれないが、レギュラー争いの当落線上にいるのであれば、与えられた役割・ポジションで期待に応えなければならない。そうでなければチャンスは巡ってこなくなるだろう。
そして、名波監督は期待に応えた選手には必ず再びチャンスを与える人だ。現に、前節途中出場でタスクを全うした山本龍平は、この試合45分プレーする機会を与えられた。チームの流れが悪い中で、何かを変えてくれという期待を込めて送り出されたわけだ。

当の宮部大己も、長野戦でデュークカルロスを完封し、改めて対人守備はJ3トップクラスであることを見せつけた。それを踏まえて出場機会も伸びてきていたんだと思っている。名波監督は選手のアピールを見逃すようなタイプではない。

もちろん、今回のビルドアップの問題点は、宮部だけを責めることはできない。右利きの選手を左センターバックに配置したら起こりうる課題であることは予め想定できた。だからこそ、左利きの常田克人を重用していたのだ。
天皇杯でも宮部の左センターバックは試しているので、ぶっつけ本番での事故でもない。そうなると、ちょっと名波監督の読みも甘かったかもしれないと思っている。どうにかなるだろうと見越していたのかもしれないが、左センターバックからのパス出しは、この日のゲームプランの一番肝になる部分なのでもう少しだけ慎重になっても良かったかなあと。賭けの色合いが濃かったように思ってしまう。

まあ、とはいえ全て結果論。実際にやってみないとわからないという話だったのかも。
だとしたら、ハーフタイムを待たずして3バックに切り替えたり、左センターバックの人選を変えるなど手を打ちたかったところだが。


時間と体力は巻き戻せない

後半頭から、下川陽太と榎本樹を下げて、野々村鷹人と山本龍平を投入。ここで宮部大己が交代を命じられなかったことからも、やはり守備を高く評価されているんだろうなと。

システムを3-5-2みたいな並びに変えて、より攻撃に出ていく姿勢と、縦への意識を植え付けたい狙いがったと思う。実際に、前半よりも菊井悠介の裏抜けで縦への深さを作ろうという意図は見て取れたし、中盤も間延びしないように必死についていっていた。

しかし、前半に左サイドのケアに使ったエネルギーがチームを蝕んでいく。うまくいかない左サイドの組み立てをサポートするために、前貴之・菊井悠介が動き回っていたのだけど、その分空いたスペースをカバーしていたのは安東輝と佐藤和弘。ふたりとも後半15分くらいで足が止まりつつあり、それを見て稲福卓とルカオを入れる決断をする。

ルカオも独力で局面を打開しようと奮闘していたが、いかんせん周りがついてこない。そうしているうちに試合の主導権は鳥取へ。ラスト15分は防戦一方で、決定機を作られながらも相手のフィニッシュの精度にも助けられて、なんとか勝点1を拾う結果となった。


総括

名波監督は試合後のコメントで「今季最悪、最低最悪のゲームだった」と表現していたが、自分も率直な感想としては同意見。特に前半の出来は今季ワーストだったと思う。後半立て直そうとしていたが、前半45分の代償があまりにも大きく、取り返せないまま試合が終わってしまったという感じ。

個人的に残念だったのは、結果にこだわる姿勢が見えなかったこと。勝利という結果を追求するのであれば、高さに不安を抱える相手に対してシンプルにロングボールを放り込むのが一番有効だったはず。

勝つために相手の嫌がることではなく、自分たちがやりたいことをやって90分を過ごしてしまった。

名波監督は「色気」という言葉で表していたけれど、言葉を選ばずに言えば慢心かなと。最下位で、目下リーグ戦6連敗中の相手、対して自分たちは7試合負けなし。どこかで心に隙が生まれていなかったか、今日は勝てそうだと思っていたところはなかったか。

試合が終わってから、僕自身もずっと自分に問いかけている。

チームが順調に成熟しつつあり、どこかで結果よりも内容を求めようとしていなかったか?
ただ勝つのではなく、綺麗に崩したり、戦術的に圧倒して勝つことを求めていなかったか?

俺達は常に挑戦者

この言葉を忘れてはいけない。

どんなときでも相手をリスペクトし、勝利という結果にこだわり続ける。
目の前の試合を勝利することが昇格への近道。
気を引き締めていこう。



One Sou1


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