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【静かなるゲームチェンジャー】J3第15節 松本山雅×ヴァンラーレ八戸 マッチレビュー

スタメン

前節いわきとの上位直接対決を制して、昇格争いに生き残った松本。ここから再び上昇気流に乗っていきたい場面で迎えるは八戸。出場停止で安東輝を欠く中盤には住田将が復帰。前節と同じく、パウリーニョをアンカーに据える3-5-2でスタートした。

対して八戸は直近5試合で2勝2敗1分。監督交代後の初戦となった前節、福島を下して上場の滑り出しを見せている。
興味深いのは、今季挙げている4勝がすべてホームであること。しかも勝った相手は、藤枝・北九州・相模原・福島。いずれもボール保持に特徴を持っているチームで、もしかするとプライフーズスタジアムの芝が影響しているのかも。

 

出ていけばやられる

八戸は基本布陣が4-4-2だが、ボール保持の局面になると少し変形。左サイドバックの佐藤和樹が高い位置を取り、それを促すように左サイドハーフの渡邊がやや内側に入ってプレーする。最終ラインでのビルドアップは、小牧・赤松・板倉の3枚で行うのが基本的な形だ。左サイドバックの佐藤和樹は、セットプレーも蹴っていたように左足のキック精度に特徴がある選手。彼のクロスを活かすためにやや左肩上がりにしているのだろう。

守備時の松本の基本姿勢は前からのプレッシング。2トップでプレッシングに出るのだが、相手のビルドアップは3枚。単純に追いかけ回しても難しいので、ボールサイドのインサイドハーフがサポートにでてくるようになる。

ここで問題となったのは、松本のインサイドハーフは本来、八戸のボランチを監視する立場にいるということ。3-5-2と4-4-2のかみ合わせ上、普通に立ち位置を取ると相手のボランチをマッチアップするからである。
でも、インサイドハーフの片方は、プレッシングに加勢するためにポジションを捨てて出ていってしまう。そうすると相手ボランチがフリーになってしまい、ここを起点にプレッシングをかいくぐられる場面が多かった。

パウリーニョが慌てて、インサイドハーフが空けたスペースを埋めようとしていたが、どうしても後手後手に。むしろ、パウリーニョもかわされて、中盤中央がガラ空きに!というシーンもあった。

なんでこうなったかと想像すると、松本は八戸が4バックのままビルドアップしてくると想定したんだと思っている。4バックに対してプレッシングを挑む場合、2トップだと単純計算で2枚足りない。そうなると、インサイドハーフがサイドバックまで出張するか、ウィングバックが相手のサイドバックを捕まえて、相手のサイドハーフをセンターバックが捕まえる、いわゆる”縦ズレ”をするか。今季の名波監督を見ている限り、後者が正しいはず。

ところが、八戸は4バックが基本布陣でありながら、ビルドアップの際は3バックに変形するというやり方だった。これによって縦ズレの構造は狂ってしまい、数的不利でプレッシングに出る2トップのサポートに”回らなければいけない”ことに。回らなければいけないと書いたのは、誤算があったので、プレーが後手を踏んでいると思うからだ。


爆速の修正

プレッシングのかみ合わせが悪い問題に対して、名波監督の修正は早かった。アンカー+インサイドハーフ2枚だった中盤を、ダブルボランチ+1トップという形に変更したのである。試合時間でいうと、19:23ころに変形が見られる。右インサイドハーフにいたはずの住田将がパウリーニョの左横に並び、左インサイドハーフにいたはずの菊井悠介が右サイドでボールを引き出している。

前半20分ころ~

中盤の形を逆三角形から正三角形に変えただけではあるが、この修正は的確だった。

菊井悠介が2トップのプレッシングに参加するのは変わらずなのだが、彼が出ていくことによって空けてしまっていた相手のダブルボランチを、住田将・パウリーニョで監視するように。言ってしまえば、相手のビルドアップに対して枚数を合わせにいったようなもの。ピッチ内では実質マンツーマンのような構図になっていたのは意図的だろう。

修正されたプレッシング

この応急処置によって、守備面でめっちゃ苦戦することはなくなったが、松本のボール保持の局面では変わらず課題を抱えたままだった。


攻撃がちぐはぐだった理由

八戸は守備の局面では4-4-2のオーソドックスな形。松本は3-5-2途中から3-4-1-2なので、システムのかみ合わせとして苦戦する予想はしてなかった。

思った以上に苦戦を強いられた要因は、「アンカー隠しが上手い八戸2トップ」、「スライドの早い八戸ダブルボランチ」、「柔らかい芝」だと思っている。ひとつひとつ見ていく。

まず、アンカー隠しが上手い八戸2トップ。この試合松本は常田克人・大野佑哉・下川陽太の3枚でビルドアップを試みていた。パウリーニョや住田将が最終ラインに降りることはなく、3枚でどうにかするのがミッション。松本の3枚ビルドアップに対して、八戸は佐藤碧と島田の2トップが対峙するのだけども、結果的に数的不利を感じさせない巧みなプレッシングだった。

大野佑哉がボールを持っている時はパウリーニョへのパスコースを消しながら、比較的2トップはニュートラルな立ち位置を取る。常田克人もしくは下川陽太にパスが出ると、プレッシング開始の合図。例えば、佐藤碧が常田克人へプレッシングに行く場合、必ず内側のコース(大野佑哉、パウリーニョへのパスコース)を切りながら寄せていく。同時に相方の島田は大野佑哉に寄せることで、常田克人にとっては左サイドへ展開せざるをえない。これは下川陽太へも同じ。要は、常田克人と下川陽太の追い込み方が非常にうまかったということである。

八戸の2トップは2枚で、松本の3バック+アンカーの4枚を相手にしていたことになる。逆に言えば、松本は4対2の数的優位な状況を活かせず、まんまと八戸の術中にはまってしまった。

追い込みが上手い八戸2トップ

次に「スライドの早いダブルボランチ」だが、これは八戸の山田と相田のことを指している。松本のビルアップの出口は2つあって、ひとつは横山歩夢。彼を左サイド奥へ走らせ、そこに常田克人からのロングフィードを合わせることで一気に局面をひっくり返す。
もうひとつ、この試合でのキーポイントでもあったのが、住田将と菊井悠介のインサイドハーフ。彼らが、4-4-2のブロックの間(相手サイドハーフとボランチの間)にポジションを取り、最終ラインからの縦パスを引き出す。彼らがターンして前を向いた瞬間、松本の攻撃のスイッチが入り、一気にスピードアップできるという仕組みである。

ところが、前半に菊井悠介や住田将が自由に前を向いてボールを触る機会は限られていた。彼らの動きを制限していたのが、八戸のダブルボランチである。

この動きは菊井悠介が得意としているが、サイドハーフとボランチの間にズレて、ちょうど相手の守備のエアポケットのような場所で受ける。そんな動きは完璧にマーキングされており、菊井悠介と住田将を自由にさせてもらえなかった。

マークを剥がすためにサイドチェンジを多用していたが、八戸のボランチは横へのスライドも早い。結果的に、最終ラインではボールを持たせてもらえるものの、そこから脱出できなくなってしまうという状態がピッチで散見された。監督が変わった影響なのか、八戸の4-4-2の守備ブロックはとてもソリッドでコンパクト。このブロックを崩すことが出来ず、ただただ時間が過ぎていくことになる。

そして3つ目に挙げた、柔らかい芝へのアジャスト。プライフーズスタジアムの芝は、画面で見ている限り、かなり柔らかい芝に見えた。踏むと沈むような感触で、転んでも痛くないタイプの良い芝だろう。

柔らかい芝だと、ボールが跳ねないし、パスも伸びない。時間が進むにつれてピッチに凸凹ができてきて、ボールが不規則にバウンドする。
そんな芝に対して適応するまでに松本はかなり時間を要してしまった。特にやりづらそうだったのは、常田克人・菊井悠介・外山凌。いずれも足元でボールを受けることを得意としている選手で、外山凌に関してはクロスを上げる時の感覚が合っていないように見えた。

ただ、芝が悪かったのか?と言われると、一概にそうも言い切れないと思っている。なぜなら八戸の選手は、足を滑らせたりすることもなく、鋭く球足の速い縦パスを通していたからだ。よく芝が悪いと言われる場合は、ホームの選手も芝に足を取られて転んだり、軸足が滑ったりする。この試合はそんなこともなかったので、これは単純に”慣れ”の問題だなと。
最初にも書いたけれど、藤枝・相模原・福島・北九州といった八戸のホームで苦しんだチームが特徴的であるのも納得がいく気がした。

慣れの問題は実際に体験しないとわからないので仕方ないとして、松本が選んだ戦い方には少し疑問が残る。芝が柔らかくてパスを回すには向いていないとなれば、シンプルに小松蓮にロングボールを預けたり、横山歩夢をガンガン裏に走らせるような戦い方に切り替えても良かったのかなと。トラップの際に神経を使いすぎて止めた後のプレーに支障が出ていたり、いつもよりワンタッチ多いがゆえにパスがズレてしまったり、榎本樹が投入されるまでそんな場面が続いていたので気になった。最終ラインからパスを繋いで、インサイドハーフを経由して前進する形にこだわりすぎたかなと。


色を変えてチャンスを掴む

アンカーからダブルボランチに中盤を変えてみたが、なかなか状況を打開できなかったことで、62分にベンチが動く。前貴之・住田将を下げて、佐藤和弘・浜崎拓磨を投入。システムを4-4-2に変更する。

62分~

システム変更の狙いは、最終ラインの枚数を1枚削ること。3-5-2は守備時にウィングバックを吸収して最終ラインが5枚になる。この日の松本は、5枚に加えて中盤3枚も下がってきてしまって、8枚で自陣にベタビキしてしまうことが多かった。

これだとせっかく奪っても、全体が後ろに重たくてカウンターに出ていけないので、荒療治ではあるが最終ラインを4枚に減らしたということだろう。この変更によってエネルギーを取り戻したのが両サイドバック。左サイドハーフに入った佐藤和弘がボールを持って時間を作れることもあり、外山凌は積極的にオーバーラップ。ビルドアップに関しても、浜崎拓磨がいれば最終ラインのサポートは彼一人で十分。菊井悠介が気を遣って降りてくることも必要ないので、攻撃の局面に専念させることができる。これは交代で入った選手の特性によるもので、交代が当たったと言っていいだろう。

先制点をもぎとったのは、さらに榎本樹を投入した直後。左サイド深くでボールを受けた佐藤和弘は、迷うことなくシンプルにエリア内へクロス。榎本樹がゴールとは逆方向を向きながら頭に当ててシュートを枠に飛ばすと、GKがこぼしたボールを下川陽太が詰めてゲット。榎本樹はよく難しい体勢からシュートを打ったなと。これは彼の身体能力と、落下地点の予測の上手さ、ヘディングの技術がなければ出来ない芸当で、さすがの一言。

リードした松本は、もはや恒例となっている宮部大己&橋内優也の投入で試合を締めくくる。あまり元気がなかった最終ラインに喝を入れ、自らも良い出足で背後へのボールをカットするあたり、橋内優也はまだまだ健在だ。

最後まで1点差を守った松本がリーグ連勝。いわき・鹿児島が勝利した先頭集団に遅れなく、ピッタリ付いていっている。


総括

ものすごく苦しんだ試合だったが、勝ち切ったことで収穫が大きいと言える試合になった。

途中までの展開は、今季最低の出来だったアウェイの鳥取戦を彷彿とさせるようなもの。それでも、選手の配置を変えたり、システムを変えたり、膠着した試合を打開するための手は打っていた。それが報われて本当に良かったと思うし、こういった難しい試合をモノにしたという自信は、選手を大きく成長させるはずだ。

そして改めて、佐藤和弘・浜崎拓磨という選手の存在の大きさを感じた試合でもあった。ボールを預けられる安心感、縦に急ぐだけではなく相手や試合の流れを見ながらテンポを落とせる勇気、そしてピッチコンディションを苦にしない基礎技術の高さ。彼らいてくれなかったら、この勝点3はもたらされなかったと思う。

試合展開によって選手を使い分けるのが名波監督なので、毎試合出番が確約されているわけではない。それでも試合に出れば、求められている役割を全うしてくれるプロフェッショナリズム、本当に尊敬する。

若手の勢いに隠れがちだが、彼らのようないぶし銀の選手がいてくれるからこそチームが成り立っているということを改めて胸に刻みながら、この勝利を噛み締めたい。


俺達は常に挑戦者


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