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【あっちを立てればこっちが立たず】J2 第39節 松本山雅×ヴァンフォーレ甲府 マッチレビュー

スタメン

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松本は前節から2枚変更。システムは3-4-1-2。前貴之が5試合ぶりの先発に入り、同じく復帰となった安東輝とダブルボランチを組む。一方で河合秀人と佐藤和弘が累積警告で出場停止。他にも前貴之、平川怜、常田克人、野々村鷹人が3枚でリーチとなっている。シーズンも残り少なくなってきているが、主力のカードトラブルにも気をつけたいところである。

甲府はボランチの野津田が体調不良で欠場したのみで、それ以外は見慣れたメンバー。11人固定というよりは、大枠として15~16人のグループで主力組が構成されており、その都度コンディションを考慮してメンバーを入れ替えている印象である。


キーマン潰しと誤算

甲府の試合を45分でも見れば特徴は明らかだ。3バックの中央に入る新井がビルドアップの際には前に出てボールを触り、司令塔としての役割を担う。加えて相手の状況に応じて選手の立ち位置を微修正しながら、相手に捕まらないような配置をしてくる。厄介なのは、修正をベンチからの指示ではなくピッチ上の選手だけで行えてしまうところ。体制を継続している効果もあるだろうが、それ以上に新井や野澤を中心に、個々の戦術理解度が総じて高い。そして、ポジションに縛られることなく、ピッチ上の広いエリアでプレーできる選手を並べているのも特徴的だ。

いわゆる”可変”を得意とする甲府に対して、松本も対策を施して試合に入った。変化されてから対応すると後手に回ってしまうため、そもそも変化させなければいいというのがベースの考え方。甲府の可変で中心となっている新井に対して、トップ下のセルジーニョを監視役として配置。さらに2トップがメンデスと浦上を見張ることで、相手の最終ラインに対して3対3の構図を作り出した。

ビルドアップの起点となる3バックを牽制しながら、ボランチへのパスコースを背中で消す。甲府の3バックにボールを持たれるのはある程度許容しつつも、最も怖い中央のパスコースを封じることが最大の狙いだった。ここでの中央とはバイタルエリアのことで、松本のボランチと甲府のシャドーが陣取り合戦を繰り広げていたエリアである。甲府の攻撃をできるだけサイドに流し、単調なクロスを上げさせられればOK。センターバックには1on1の強さに定評のある野々村鷹人を起用したのも、最終的にペナルティーエリア内での高さ勝負になると踏んだからだろう。

この点、松本の狙いはハマっていたように思う。特に新井から効果的な縦パスが入る機会は限られていたし、窮屈そうにプレーしていたのが印象的。

一方で誤算だったのはメンデス。前半戦に見たときよりも明らかに楔のパスを付ける意識が高くなっていて、かつグラウンダーで精度の高いパスをバスバス入れてきた。メンデスの存在によって松本のプレッシャーラインをあっさりと超えて中盤にボールが入ってくる場面が散見され、実際に決定機に繋がったのも起点は彼の左足。せっかく新井を潰したのに、違う場所から同じくらいのクオリティで縦パスが入ってきたので、松本としては相当厄介だった。


攻撃時の狙い

基本的な狙いとしては、しっかりブロックを組んでロングカウンター。直近数試合と違った点があるとすれば、ダブルボランチの人選か。配給役として優れる佐藤和弘や平川怜を起用することが多かったポジションに、負傷離脱していた前貴之と安東輝を起用。彼らはどちらかと言えば、ルンバ役ができるような選手。運動量とスタミナが豊富で、危機察知能力に優れている。ブロックを組んで守る時の泣き所として、ボランチの横スライドが間に合わないという点があったものの、そこを埋めるには適任だったと思う。

守備時に2トップとセルジーニョがやや前残りするような形が多かったので、おそらくカウンターで相手3バックと3対3の構図が作れたらベストだったはず。個のクオリティに任せる部分が大きくなってしまうけれど、失点するリスクを負わずに得点機会を狙うなら妥当なバランスだったかと。仮にネットを揺らせなくても、フィニッシュに持ち込んで敵陣でセットプレーが取れたら万々歳。

その中で気になったのは、セルジーニョの位置取り。スタートのポジションはトップ下ながらも、常にボランチまで降りてきてビルドアップのタスクをほぼ一手に引き受けていた。後ろに重いと言われ続けていた列落ちの動きだが、この試合では改善傾向も見られた。セルジーニョが降りてくると、オートマチックに前貴之が一列前に出ることが約束事になっており、中盤3枚が並んでしまわないようにかなり気を遣っていたと思う。

そもそもセルジーニョが列落ちしているのは、名波監督の指示なのか彼自信の判断なのかは映像だけでは断言しかねるが、数試合こなしても続けているということは監督も許容しているんだろう。彼に与えられているタスクが何なのかは未だに見えてこないが。たぶん平川や佐藤が出ていたらビルドアップのタスクを分け合いつつ、今日に関しては守備を一定免除される代わりに攻撃のタクトを託されていたはず。

58分の攻撃は今日の理想形。甲府の3バック脇にできるスペースを伊藤翔がシンプルに使って最後は榎本樹。シュートはジャストミートしなかったが、この試合で最もゴールに迫った場面のひとつ。この時間帯は甲府のボールホルダーへのプレッシャーが少し緩かったのは要因としてあると思うが、千載一遇の好機を決めきれなかったのは今のチーム状況を表しているかもしれない。


ざっくり得点・失点シーン振り返り

◆前半19分:ウィリアン・リラ
ぶっちゃけ、この場面に関しては圍謙太朗がボールに触らにゃあかんかった。クロス対応、ハイボール処理は彼のストロングポイントのひとつなので、大事にプレーしてほしかった。

◆後半35分:伊藤 翔
やっぱりセットプレーはニアが狙い目。セルジーニョのキックフィーリングがよくなってきているのと、常田の入り方・合わせ方が合ってきていると思っていたので、結果につながって良かった。ファーでしっかり詰めている伊藤翔の嗅覚もさすが。

◆後半36分:関口 正大
こぼれ球の位置にいた関口を捕まえる役割が誰だったのか、がポイント。多分セオリーでは田中パウロ淳一だと思う。ファーで常田と田中パウロの2枚が余っていた状況は明らかにダブついていた。まあ、ペナルティエリア内のスペースを埋めるという意識は正しいことなのだけど。この場面に限らず、田中パウロがマーカーを外してしまったり、人に付けないことが多いのは本職ではないのが大きいのかなあ。

◆後半38分:阪野 豊史
野々村鷹人が一人飛ばして下川陽太に付けた横パスが一番良かった点。荒木・メンデスのマークがズレて、オーバーラップした下川への対応を後手に回すことができた。多分、荒木が付いていくのがセオリーだったかなと。それはそうと、下川のクロスはスピード・コース共に見事だし、合わせた阪野の一度DFの背後へステップを踏んで視界から消えて前に出る動きも完璧。

◆後半39分:浦上 仁騎
なんでもないセットプレーで失点してしまった、いわゆる安い失点。個人的に気になったのは、星キョーワァンを投入したタイミングに意図が少し欠けていたように感じたこと。守備時のセットプレーで選手を入れ替えるとマークの受け渡しがズレやすかったり、混乱することが多かったり。特に星のようにチーム内でも高さ・強さがトップクラスの選手を投入するということは、確実にマークの優先順位が変わる。もちろん、甲府のセットプレーには驚異を感じていたが、焦ってこのタイミングで入れる必要はなかったのかなとも。


総括

全体的にプランは見えたのだが、チームとしての積み上げの差を見せつけられる格好となった。印象としては、アウェイ町田戦と同じような感じ。監督のプランがおかしかったとか、選手の質で純粋に負けていたとかではなく、90分を通しての適応力や柔軟性みたいな組織の総合力みたいな部分の差である。

一朝一夕で埋められるような部分ではないので、地道にコツコツと積み上げていくしかない。


One Sou1





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