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~主体的な振る舞いは苦手です~J2 第8節 松本山雅vs町田ゼルビア レビュー

スタメン

スタメン

松本は敗れた前節から2枚変更し、システムは4-4-2。中美は今季初先発、山本はプロ入り後初先発を飾る。
前節ベンチ外だった塚川、セルジーニョ、杉本の3名はこの試合もメンバー表に名前はなし。連戦の疲労軽減と長距離移動回避かと思われていたが、どうやら本当にコンディション面が思わしくないようだ。かなり心配ではある。

対する町田は、見慣れた11名が並ぶ。なんとこの地獄の連戦にもかかわらず、秋元・小田・深津・水本・奥山・高江・佐野・吉尾・平戸と9名が全試合スタメン出場を続けているというのだ。コンパクトな陣形を維持しながら戦う町田は、相当走る。にもかかわらずスタメンを頑なに変えようとしないのはもはや信念を貫いているというべきだろうか・・・・。60分以降で足が止まってきたタイミングで付け入るスキがありそうな予感だ。



何もできない松本

試合は序盤から完全に町田ペース。松本がボールを持った際にはセンターバックの森下や乾まで強烈なプレスを敢行。2トップの平戸と安藤でプレスを掛けるのだが、ただ寄せるだけではなく絶妙にボランチの藤田や久保田へのパスコースを切りながらサイドへ追い込んでいく。松本も時折は久保田がセンターバックの間へ下りてきて受けていたが、受けてからのアイデアが乏しく、残念ながらただ受けただけ状態になってしまっていた。

ボランチへのパスコースが消されているならば、サイドへ動かそうということでセンターバックからサイドバックへ繋いでみるも、そこには町田のプレッシング。(2トップがサイドへ誘導しているのだから当たり前であるが...)

結局のところ松本はビルドアップにおいて、
・サイドで囲まれて奪われる
・選択肢がなくなったセンターバックがとりあえず前線へロングボール
・可能性は低そうだけど縦パスを入れてみる
・その場しのぎ的にGKに下げてみる(最後は前線へ蹴っ飛ばす)
の4択を迫られることになる。しかし、どの選択肢を選んでも待っているのはボールロスト。

つまり厳密には、松本は上記4つの選択肢を”選んでいる”のではなく、町田の仕組んだ戦術によって”選ばされている”状態がずっと続いていたのだ。

手詰まりの松本

なぜこれほどまでにボールを持つと何もできなくなってしまうのだろうか。

あまり個人の選手へフォーカスして話すのは好きではないが、攻撃の手詰まり感の最大の要因は杉本とセルジーニョの不在だろう。この日の松本に欲しかったのは、最終ラインと前線をつなぐリンクマンであり、攻撃の潤滑油になれる存在だ。メンバー表とプレーを見るに鈴木がその役割を託されていたようだが、もともとの彼のプレースタイルを考えると難しいタスクだったのだろう。終始フラストレーションを溜めており、試合終盤には明らかに不用意なタックルでイエローカードまでもらってしまっている。

前線から少し引いて縦パスを引き出し、パスを出して動き直すという動作を繰り返して攻撃にリズムと連続性を生み出していく。また、簡単にボールを失わない信頼があるからこそ、味方は安心して全速力で攻め上がることができ、多少のリスクを背負ったポジション選択をすることができる。得点やアシストという目に見える結果ではない部分での貢献度があまりにも大きすぎる。そして今の松本のスカッドでは同じ役割をこなせる選手はわずかだ。その代表格が久保田だ。スーパーサブとして試合終盤に投入されていた際に、すでにチーム内でも”違いを作れる選手”だと証明していただけに、本当は1列前で起用したい。ただ、負傷者が続出している苦しい台所事情と連戦を考慮すると久保田をベンチに置いておけるほど余裕はない、というのが本音だろう。



苦しみながら見せた改善策

全く何もさせてもらえなかった前半において、飲水タイムが松本に落ち着く時間を与えた。飲水タイムを経て、布監督はサイドハーフの左右を入れ替えて、左に山本・右に中美を配置したのだ。

この配置転換が何を意味するのか、試合後のインタビューでも詳細が語られることはなかった。推測するには、選手の利き足を考慮しての変更だと思う。中美は右利きで山本は左利き、試合開始時点ではそれぞれ利き足とは逆のサイドへ配置されていた。中央へカットインしてのシュートという選択肢を取りやすくなるメリットがある一方で、プレスを掛けられた際に前を向きにくいというデメリットもある。また、中美と山本は二人ともスペースがある状態で縦への仕掛けやクロスを得意とする選手だけに、逆足配置だと長所を打ち消してしまっている点も理由なのではないかと思う。

また、山本が左に配置されたのち、2~3回ほど面白いビルドアップをしようとしていた。センターバックがボールを持った際に、左サイドバックの高木利が中央寄りのハーフスペースへ動き、左サイドハーフの山本が下りてきて大外のレーンで受けるという形だ。

謎のビルドアップ

ただ、個人的にはあまりうまくいっているように見えなかった。というのも、高木利が中央へ絞ってせっかく空けたスペースに対して山本が下りてくるタイミングが遅すぎて、一時的に森下を孤立無援にしてしまっていたからである。山本は自分の役割がよく分かっていなかったのか、下りてきても中途半端な位置取りだったりで、町田の守備は崩れていなかった。

結局何がしたかったのか見えてこなかったが、山本が相手右サイドバックの小田を引っ張り出して、空けたスペースで鈴木が受けるみたいなことなんだろうか。たしか、ルヴァン開幕戦のセレッソ大阪戦でも、似たような崩しをトライしていた。その時は一定の手ごたえがあったのだが、それ以降全く出てこなかったので謎だったのだが、ここにきて復活である。これは果たして布監督の指示なのだろうか、それともピッチ上の選手発のアイデアなのだろうか。

※セレッソ大阪戦のビルドアップについて気になる方はこちらをどうぞ。



最大の敗因

ここまで長々と攻撃面について書いてきたが、結局のところ敗因は何なの?と言われたら、ずばり『守備が全くハマらなかったこと』だ。ここまで数試合を見てきて、布監督のサッカーはコンパクトな守備陣形と連動した守備がベースになっており、攻撃は相手の守備陣形が崩れた状態でのショートカウンターが主体になっている。

そのすべての肝である守備がこの試合は全くと言っていいほどハマらなかった。原因はいくつか考えられるが、根本はチーム全員に守備戦術を仕込めていないという点だと推測する。

というのも、この試合で守備が破綻した一因にサイドハーフのプレッシングがあるからだ。特にプロ初先発となった山本は、運動量は豊富でボールを持った時の仕掛けには可能性を感じたものの、守備に関してはもう数段ステップアップが必要そうだと感じた。

具体的に説明する。2トップの鈴木と榎本が相手センターバックへプレスを掛けてサイドバックへパスコースを限定したタイミングで山本は連動して動きだし、サイドバックへボールが渡った時には寄せ切れている状態でいてほしい。そして選択肢がなくなった状態で苦し紛れに相手ボランチへ付けた縦パスを藤田や久保田が奪いきるというのが理想形だ。ところが、この試合では山本は相手サイドバックの奥山と距離を空けすぎており、時間とスペースが与えた結果、プレスの網をかいくぐられてしまう場面が散見された。

山本の守備対応

見事に松本の守備がハマって勝利した群馬戦で右サイドハーフに入っていた鈴木と比べてしまうのはキャリアを考慮すると申し訳ないのかもしれないが、明らかに守備の部分で質が違い過ぎる。

これは何も山本だけのせいではない。この日は2トップのプレスに最終ラインの押し上げが連動できておらず、チーム全体でコンパクトさが足りていなかった(解説を務めていたガチャこと片山氏も、チーム全体が間延びしていることを前半から指摘していた)。連戦の疲労もあり、全体的に動きが重かったことも多大に影響しているだろう。

現段階で、しかも前半から間延びしてしまっているということは、今後が少し心配になってくる。試合間隔が短いのは変えようがないので、解決策としては2つ。チーム全体で底上げを行って誰が出ても一定レベルの質を担保できるようにするか、町田のように主力選手を固定して戦い続けるか。既に絶対的主力である杉本やセルジーニョが別メニュー調整になっている現実を見るに、前者がとるべき選択肢だろう。出番をもらっている山本や榎本といった若手にはめげずにトライし続けてほしいし、生存確認ができていない何名かの助っ人の方々にもそろそろ目を覚ましてほしいところだ。(秘密兵器は秘密兵器のまま終わってしまっては意味がない、とだけは言っておく。笑)



まとめ

痛すぎる連敗を喫した松本。奇しくも、J2での連敗は2018年の8月25日以来ということで、この時は町田(0-1)と横浜FC(1-3)とホームで連敗を喫している。平戸に終了間際にFKをぶち込まれ、絶望したのを覚えている人もいるのではないだろうか。

次なる相手は、2連勝中と勢いにのる北九州。2試合ともクリーンシートで終えており、意気揚々とサンアルへ乗り込んでくることだろう。しかも監督は小林伸二氏と今一番当たりたくない相手かもしれない。それでも、2戦連続メンバー外だった3人が復帰する可能性もあるとの知らせが、かろうじての光だろう。

長年続いていたことを変えようと思えば痛みを伴うのはサッカーでなくても同じ。そして我慢が必要でもある。今は、ただクラブの決断を、監督を、選手を信じぬくのみだ。


ではまた。

俺達は常に挑戦者
One Sou1

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