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~信じるべきものとは~J2第10節 松本山雅vsジュビロ磐田 レビュー

試合前のポイント

前節ホームで北九州に完敗を喫して3連敗中の松本。J2での3連敗は2013年の6月以来、中断期間明けの8試合でわずか1勝と近年稀にみる不調に見舞われている。主力選手に負傷者が続出しており、前線の核である杉本・セルジーニョのコンビ、中盤の要である塚川、最終ラインのリーダーである橋内と森下がコンディション面に不安を抱えている。若手やリザーブ組の台頭に期待したいところだ。

磐田は、中断明けから3勝3敗2分といまいち波に乗り切れていない。2失点以上喫した試合がなく、大崩れはしない印象だが、逆に3点以上奪ったゲームもない。上位陣に食らいつくためにも、ここは負けられない一戦である。


スタメン

スタメン

松本は懐かしい顔ぶれが名を連ねた。負傷離脱していた高橋は開幕戦以来の出場、村山は6試合ぶりの出場となる。また、前節途中交代した森下はベンチ外となり、大卒2年目の大野がリーグ戦プロ初先発を飾っている。隼磨と久保田は6試合連続のスタメン出場となり、勤続疲労が少し心配になってくるところだ。

対する磐田は前節から右サイドを総入れ替え。櫻内と清田をベンチに置いて小川大と松本が先発。リーグ屈指の2トップである小川航とルキアンには要注意で、特にルキアンは2試合連続ゴール中と乗っているだけに自由にさせたくないところだ。


磐田の狙い

試合を通して、磐田は一貫して松本3バックの脇にあるスペースを狙ってきた。前半は特に2トップのルキアンと小川航がサイドへ流れてロングボールを引き出し、攻撃の起点を構築。特に独力で突破もできるルキアンは収めるだけでなく、強引な反転からペナルティエリア内へ侵入するなど松本の脅威であり続けた。

磐田2トップの狙い

松本は大野と浦田の両ストッパーがそのままマークについて対応し、遅らせている間にボランチやウィングバックが戻って挟み込むというのが基本的対処法に見えた。最善だったかと言われれば、他の方法もあったかもしれないが、少なくとも無難に守れていたとは思う。

ただルキアンは松本3バックに対して質で明らかに勝っており、特に大野や乾が苦しめられていた印象である。一般的な長身FWと違い、身のこなしも軽やかで身体をぶつけても倒れない体幹の強さを誇るルキアンは一筋縄ではいかず、PKすれすれのファウルも何度か見受けられた。


突然の先制点

磐田ペースでゲームが進み、耐える時間が続くかと思われた前半26分、突然の先制点が松本に舞い込んでくる。左サイド浅い位置でボールを受けた高橋が正確なアーリークロスを供給すると、ペナルティエリア内でフリーになっていた鈴木が滞空時間の長いヘディングで合わせてゲット。

本当に何もないところからの得点であり、高橋と鈴木の2人の関係性だけで奪ってしまった。彼らの見せた質の高いプレーに最大限の賛辞を贈りたい。あまりにもチャンスらしいチャンスでなかったために、本来鈴木をマークすべき磐田の選手も全く警戒しておらず、完全フリーにしてしまっていたくらいだ。昨季J1アシスト王の永戸(仙台→鹿島)を彷彿とさせるような、柔らかく美しい弧を描くクロス。そして鈴木の滞空時間が長いにも拘らずジャンプの最高到達点でボールをミートしているタイミングの良さ、しっかりと叩き付けて左隅へコントロールしているヘディング技術。もう2人のすべてが美しく、もう1回再現しろと言われても難しいのではないか(これは失礼。笑)と思われるくらいのゴラッソだった。


確実に剥がされていく守備

とはいえ、松本の先制点は突飛推しもないものだったことは強く言及しておかなければいけない。裏を返せば、流れの中でほとんどチャンスらしいチャンスを作れていなかったということだ。

当然のように磐田は松本のハイプレスに対して、対抗策を講じてくる。具体的には徹底した左右への揺さぶりだ。ここで本当に厄介だったのは、左センターバックに入っていた伊藤洋輝。彼はもともと1列前のボランチを主戦場とする選手で、身長188cmのスケールの大きな司令塔として将来を渇望されている存在だった。今季はその高さとフィード能力を買われて最終ラインでプレーしているわけだが、伊藤の視野の広さと中距離パスの精度に90分間松本は苦しめられることになる。

伊藤はボールを持った際に、常に1人飛ばした先の選手を見ている。例えば、左サイドバックからパスを受けて右サイドへ展開しようとする場合。通常であればすぐ横の右センターバックが最初の選択肢になるわけだが、彼はその一つ先である右サイドバックを常に意識してプレーしているのだろう。松本の寄席が甘いと見るや、すぐさま1人飛ばしの横パスを繰り出してくる。

伊藤の厄介な1人飛ばしパス

松本にとって何が厄介かというと、1人飛ばしのパスを出されると、各駅停車で横パスをつながれているときに比べて移動時間が短くなってしまうということだ。基本的に松本は前後左右で選手の距離を近づけて、コンパクトな陣形を維持してプレスを掛けることを目指している。相手がサイドチェンジをすれば、その分だけ横に移動して陣形をスライドする必要が出てくる。当然スライドするには一定の時間がかかるし、かのヨハンクライフの名言ではないが人よりボールの方が移動速度は速い。

1人飛ばしの横パスを繰り返されて、左右へ揺さぶられていると選手の距離感が離れていき、コンパクトだった陣形が段々と横に間延びしていく。イメージとしては、小学生の頃に体力測定でやったシャトルランを想像してほしい。スタート時は大体全員同じタイミングで往復しているのに、回数を重ねるとバラバラになってくる。選手は一定の距離を維持するためにピッチを左右に動いてシャトルランをさせられているような状態なのだ。これこそが磐田の狙いであり、松本がやられたくない形である。(ちなみに、布監督は攻撃では逆に相手に対して同様の崩しをしたいのだと僕は思っている)

伊藤の常に1人先を見ているパスはジャブのように松本の守備にダメージを与えていき、スライドが遅れてスペースができた瞬間に決定的なパスを通されるというわけだ。今季松本が流れの中から失点しているパターンのひとつである。(新潟戦も同様な形からセットプレーを奪われて失点につながっている)


耐えきれなかった守備ブロック

上記のような揺さぶりを掛けられ続けて何とか耐えていたが、前半33分についに決壊してしまう。

このシーンは大森にカットインを許した隼磨の1対1対応に問題があるのではないかという意見がTwitter上でも多く見られた。確かに僕自身も、あの場面で中に切れ込ませてはいけないと思うし、隼磨であればシュートを足に当てるくらいまでは寄せてほしかったと思う。ただ、隼磨が交わされたとしてもカバーリングの味方がいれば違った結果になったのではないか、とも思うのだ。

カバーリングが遅れてシュートを許した背景には、上記の左右への揺さぶりがあると考えている。この場面、見返してみると最後に左サイドへ大きなサイドチェンジをされる以前に、3回サイドを変えられている。流れの中で、素早く3回もサイドを変えられてしまえば、あの広いピッチの横幅を何度も往復するのは難しくなってくる。そして、個人的には失点に直結した一番の根本は、右サイドから山田にフリーでサイドチェンジのボールを蹴らせてしまったことにあると思う。何度も揺さぶられたことで、本来はシャドーがプレスに寄せるべきだったスペースが埋めきれておらず、ボランチから落ちて受けた山田を完全に自由にさせてしまっている。そこから精度の高いボールが入ってシュート場面へつながるわけだが、山田に対してあれほど自由を与えてしまえば、危険な位置にボールを入れられてしまうの仕方ないだろう。


未整備の攻撃面

直後の2失点目は、大野のパスミスや乾の不用意なスライディングが直接の要因だろう。大野に関しては自陣ではあまりに軽率なパスミスだし、受け手に対して背後から相手が来ている声掛けができていなかったように見えた点も残念でならない。乾に関しては、止めていなければ決定機だっただけに足が出てしまうのは分かるし、先にボールに触っているのはスロー映像を見て判別できた。ただ、ペナルティエリア内で背後から足を伸ばすという行為は、主審からの見栄えは決して良くなく、VARがない状況ではPKを取られる可能性が高い。2人とも高い授業料だったと思って、今後の糧にしてほしいところだ。

さて、なぜ攻撃面のタイトルをつけた項で2失点目の話をしたかというと、大野のパスミスが気になってしょうがないからだ。大野個人に全責任を背負わせるのは可哀想ではないか、という話である。というのも、この場面だけでなく、自陣で奪ったにも拘らずあっさりとボールを相手に渡してしまうシーンが多すぎたからだ。大野に関しては、うがった見方とすればボールを持つのを嫌がって焦ってパスを出しているようにすら見える。

自陣で奪ってからの組み立てができていない場面として、試合時間51:48~を取り上げたい。もしフルタイムの映像が見れる方は、ぜひ試合を巻き戻してみていただきたい。このシーンは、磐田の最終ラインに対して阪野がプレスを掛けて、ボールは伊藤から大井へ。大井に対しても連動した中美が寄せることで、狙い通りに右サイドバックの小川大に渡る。そこへ中美と高橋がもうプレスを掛けると、焦った小川大は山田へパスを出すも、狙っていた久保田がカットするという流れだ。

松本の守備が成功した場面

サイドへ追い込んでボランチのところで奪うという、布監督の狙いがばっちりハマっており、思わず僕も唸ってしまった。しかし、問題はここからだ。ボールを奪った久保田は高橋へ繋ぐのだが、ここで素早い攻守の切り替えを見せた磐田の選手たちに囲まれてしまいロスト。再び磐田の攻撃ターンが続くことになってしまった。

あまりにも勿体ない。それに尽きるのだ。奪うところまではしっかりとチームとして思い描いたとおりにできているのに、その後が全く何もないという状況にやりきれない思いだけが募る。当然、磐田のネガティブトランジションが非常に良かったというエクスキューズは付くが、それにしても90分通して、いや今季通してずっと抱えている課題には違いない。

連戦が続く中でリカバリーに時間を割いてしまい、なかなか攻撃面の戦術の落とし込みができていないのかもしれない。ただ、ハーフタイムコメントで布監督は「奪ったボールを自信をもって動かすこと」と語っていたようなので、ある程度はビルドアップに関しても仕込んでいるのではないかと考えている。それを選手がピッチ上で表現できていないのであれば、要因は連敗で失いかけている自信なのか、主力を多く欠く中での連携不足なのか、はたまた選手の質の部分なのか。いずれにせよ、サッカーというスポーツは野球やアメフトのように止まることなく流れていく競技である以上、攻守は一体で良い守備は良い攻撃から生まれる。磐田相手にもしっかりと自分たちのやりたい守備は表現できていただけに、そろそろ次のステップへ進んでもよいのではないだろうか。


まとめ(今サポーターがすべきこととは)

これでリーグ戦は4連敗。調べたところ、4連敗は2015年のJ1リーグ2ndステージ第5節~8節にかけて(川崎1-3、仙台1-3、名古屋0-1、柏0-2)以来5年ぶりとなる。J2リーグだけに限れば、クラブ史上初だ。

未曽有の不調にあえいでいることは間違いないだろう。ただ、ひとつ考えていただきたいことがある。こうなることはシーズン開幕前に想定内ではなかったか、と。下記ツイートでも書かせていただいたが、松本山雅というクラブは監督交代に慣れていない。

J2昇格以降一貫して反町康治という稀代の名将に指揮を任せ、ここまで大きくなってきたクラブだ。そのクラブがJ参入後初めて監督交代という壁に直面している。

世界中を見渡してみても、長期政権からの監督交代が順調にいった例は多くない。むしろ失敗している例の方がすぐに思い浮かぶ。当然のごとく結果が出なければ、前任者と比較され批判される。長期政権からバトンを引き継ぐというのは難しいことなのだ。

だからこそ、そんな難しい仕事を引き受けてくれた布監督には最大限のリスペクトをするべきだと思う。そして今僕たちができることは、布監督を、布監督のもとで闘っている選手を、布監督に託したクラブを、信じて後押しすることのはずだ。

今こそひとつになろう。


俺達は常に挑戦者
One Sou1


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