見出し画像

【備えあれば憂いなし】J3第16節 松本山雅×カターレ富山 マッチレビュー

スタメン

2連勝の松本はホームで富山を迎え撃つ。前節からのスタメン変更は住田将。現地にいた方からの情報によると、スタジアムでのファンサービスには顔を見せていたようなので長期離脱ではないはず。今季ここまで出ずっぱりだったので披露を考慮して休ませたか。代わって浜崎拓磨が11試合ぶりにスタメン抜擢され、稲福卓がベンチに入った。出場停止明けの安東輝が入ってこれていないことからも、ボランチの競争は激化しているんだと思わされる。

富山は7試合負けなし、6勝1分と非常に好調を維持している。際立っているのは堅い守備で、6勝のうち5つが1-0、いわゆるウノゼロ。ただ、スタッツを見てみたりすると、意図してウノゼロに持ち込んでいるというよりは結果的に1点をもぎ取っている印象が強いか。豪華な補強と裏腹に、思ったより得点数が伸びてこないのが悩みのタネかもしれない。


ひっくり返すのはお手の物

富山の基本スタイルは前線からの猛烈なプレッシング。その旗頭になっているのはキャプテンマークを巻く吉平で、彼の献身的かつ巧みなプレスは間違いなくチームの武器になっている。彼に連動してプレッシングに出てくるのが、A・シルバと姫野のインサイドハーフ。特に屈指の迎撃性能を誇るA・シルバは、積極的にポジションを捨てて松本の最終ラインまで出てくることが多かった。そして、これはA・シルバの独断ではなくチームで許容されているプレーであるようだ。呼応するようにアンカーの碓井が一列上がってA・シルバの空けたスペースを埋めていたし。

3バックの相手に対して2トップ+ボールサイドのインサイドハーフで同数プレッシングを掛けるというのは割と王道で、松本も今季何度か見せている形である。

ただし、松本に対してのハイプレスは諸刃の剣。

なぜなら松本には、高い最終ラインの背後に正確なフィードを蹴れる常田克人とカウンターの急先鋒となれる横山歩夢がいるからだ。横山歩夢をオフサイドに引っ掛けるのは難儀なので、パスの出どころである常田克人を抑えに行くのが妥当な対策。果たして富山も、松本の左サイドに対しての守備意識は高く、吉平かA・シルバが必ずマークに行くことが約束事だった。

その約束事が崩れてしまったのが先制点につながる17分のカウンターの場面。富山が前線に蹴り込んだ縦パスは通らず、ビクトルを経由してサイドチェンジを食らう格好に。富山は攻撃から守備への切り替えが間に合っておらず、吉平の懸命のチェイシングも虚しく常田克人は自由な状態。小松蓮が林堂に競り勝つと、ボールは横山歩夢へこぼれ、その様子を見た小松蓮はすかさず左サイドのスペースへ走り込む。ドリブルで持ち込んだ小松蓮には色んな選択肢があったが、シュートを選択。GKの手前でワンバウンドするシュートは、雨で濡れたピッチコンディションを考慮したクレバーな判断で、山田も弾かざるを得なかった。

17:47~の場面

富山としてはボールの失い方が悪く、一番警戒していた形でカウンターを打ち込まれてしまったのは致命的。逆に松本としては、プラン通りだったはず。
富山はインサイドハーフが最終ラインに出ていくのと同じくらい、富山のウィングバックも守備時に高い位置を取る。狙っていたのはウィングバックが空けたスペースで、特に右サイドの神山の背後は、横山歩夢の大好物。得点シーン以外にも、ロングカウンターの局面で富山の右サイドの背後を取れていた場面があった。

松本の攻撃が左偏重であることは、ぶっちゃけ数試合見れば明らかなので、富山側も織り込み済みだったはず。背後を突かれるリスクを抱えながらも、前線からのプレッシングがハマったときのショートカウンターにリターンがあると見込んでいたのだろう。たしかにリターンは大きいのだけど、それと同じくらいリスクも大きいチャレンジだったと思うけど。

結果的に、富山のプレッシングをひっくり返した17分のカウンターを起点に得たコーナキックから先制に成功する。ニアで逸らしてファーで詰めるという形は練習していたようだし、ニアに正確で速いボールを供給できるという点で、浜崎拓磨というキッカーの存在は大きかったかなと。優秀なキッカーありきでデザインされた形なので。

それにしても菊井悠介はよく枠へ飛ばした。半年弱観測した結果としては、彼は止まっているボールを蹴るより、ダイレクトボレーのような多少ラフなボールに合わせるほうが上手い。動いてるボールをミートするのが上手というか。難易度が高いシュートの方が決定機になるって、つくづくサポーターを魅了してくれる選手である。向上心が強いみたいだし、難易度Sランクのシュートしか決めない。みたいな縛りプレイをしているんだろうか。普通に全部決めてくれてええんやで。


放置することの功罪

攻撃面では富山の狙いをひっくり返すことに成功していたが、守備面では少し苦労していた印象。
というのも、富山の独特な2トップを警戒しすぎるあまり、ピッチの一部で不都合が生まれてしまっていた。

富山の2トップは、吉平が積極的に裏抜けをして相手の最終ラインを押し下げつつ、相棒の川西は非常にフリーダム。大抵、インサイドハーフやアンカーの位置まで降りていって組み立てに参加している。ただ、これは分かっていてやっていること。川西が降りてくる反面、A・シルバが前線に顔を出すことも多く、いい塩梅にバランスを取れるような人選になっている。

富山の独特な2トップ

試合後の監督コメントでも言及されていたが、この日の松本は「中盤に降りる川西を無視する」ことを徹底していた。中盤が数的不利に陥っていようとも、3バックの誰かが付いていくことは決してなかった。これは正解で、仮に大野佑哉が川西に付いて行ってしまうと、最終ラインに生まれたスペースを吉平やA・シルバに使われていただろう。

川西が降りていくスタイルに既視感を覚えた方も多いかもしれないが、まさに昨季のセルジーニョシステムそのもの。セルジーニョが降りてきてパスの出し手となる代わりに、中盤の選手が前線へ飛び出していく。相手がセルジーニョを警戒して付いてきて、守備のバランスを崩してくれたら思うツボである。
その点、この日の松本は「川西を無視する」という極端な手段を使って守備のバランスを崩さないことを実現した。昨季の松本が、ただただセルジーニョが最終ラインに落ちてきて前線の枚数が減っているだけという現象に陥ったように、富山も川西が降りた分だけ前線の迫力が薄れてしまっていたのは否めない。

そんな中で松本が何に困っていたのは、富山の攻撃陣と最終ラインの人数ミスマッチ。富山の両ウィングバックが上がってくると、引きずられるように松本のウィングバックも押し下げられてきてしまう。そうすると、吉平・神山・松本という3人に対して、松本は5バックで対応しているような構図に。

2人も余らせて守っている状態なので、奪ったとしてもカウンターの威力は半減。いわゆる”後ろに重たい”状態だ。

後ろに重たい守備

こうした状況をピッチ内の選手はいち早く察知しており、前半18分ころにパウリーニョが最終ラインの枚数を減らすことをベンチに提言している。後ろに重たい構図は30分を経過しても変わらなかったので、前半35分ころに4バックへ変更している。富山が川西を除いた3枚しか前線に配置しないのであれば、守備は4枚いれば十分という考え方である。


先鋭化する川西システム

降りてくる川西が無視されている状況と、前半35分に4バックに変更されたことで、富山としてはやり方に工夫をする必要があった。プランAが見切られた中で石崎監督が決断したのは、プランBへの切り替えではなく、プランAをより尖らせることだった。

プレッシングで効いていたA・シルバと姫野を下げ、後半頭から末木と高橋を投入。特徴的だったのは高橋の起用で、高橋と吉平で2トップを組ませることで川西をインサイドハーフへ下げる。もともと2トップに配置していても中盤に降りてくるのだから、最初から一列低い位置に置いてあげようと。そして高橋に最前線で張らせることで、前線の枚数が不足してしまう問題を解決しようとした。

しかし。一貫して松本が「川西を無視する」という姿勢を貫き通したことで、富山はもどかしい展開が続く。どうにかして松本のボランチや最終ラインの選手を引き出して崩したいのだが、松本が我慢強くブロックからでてきてくれないので、ボールは握れども決定機を作り出せない。マテウス・レイリア、ルイス・エンリケとった選手を次々に投入するも、松本のブロックをこじ開けられず。

マテウスと川西が左サイドに流れてプレーするのを好むと事前にスカウティングしていたのだろう、彼らと対面する浜崎拓磨の運動量が落ちてくるとすかさず稲福卓にバトンタッチ。さらに、ボランチの左右を入れ替えてパウリーニョを右に配置する気の使いよう。結果として、右サイドで躍動していたA・シルバを早い段階で下げてしまったことも富山の攻撃が左サイドに偏った原因になっていたし、松本の守備はやりやすくなった印象だった。

この試合でピックアップしたい選手は外山凌。特に4-4-2にシステムを変更して左サイドハーフに入ってからのプレーは圧巻だった。彼は左サイドライン際を掛け上がって、正確なクロスを供給するのが一番の武器。キャリアを遡ってみても、大外を任されることが多かった。それが故に、サイドハーフとは名ばかりで、内側に入ってきてインサイドハーフのような振る舞いを求められる4-4-2のサイドハーフに配置された時はやや驚きを感じたものだ。

しかし、彼は僕の不安を良い意味で裏切ってくれた。下川陽太とのスムーズな連携で、大外と内側のレーンを使い分けて富山のプレッシングを撹乱。ハーフスペースに顔を出してボールを引き出し、攻撃の起点を作ってサイドチェンジにつなげるプレーはさながら佐藤和弘。これほどまでに違和感なくプレーできるとは。外山凌にとっては新境地を開拓している真っ最中だと思うし、チームにも様々な選択肢をもたらしてくれるチャレンジ。下川陽太との併用も現実的になってくるし、ペナルティエリア角あたりから内巻きのクロスを供給してファーで小松蓮や榎本樹が合わせる…なんて形も想像できる。今後が非常に楽しみだ。


総括

事前に準備してきたことを出し切った勝利、名波監督が饒舌になるのもわかる。ちょっと色々喋り過ぎな気もするけど。笑

最終盤に川西に決定的なシュートを放たれたが、それ以外に決定機を作らせなかった守備はさすが。何度も裏抜けを狙っていた吉平を完封した大野佑哉は、愛媛戦の悪夢を振り払うことが出来たのではないだろうか。

今季の松本は、相手をスカウティングして長所/短所を炙り出し、それに合わせて自分たちの出方を変えていく。なので、富山のようにチームとしての枠組みが明確な相手の方がやりやすいのかもしれない。逆に愛媛戦に象徴されるような、何をしてくるかわからない相手は苦手としている。試合が始まるとまず相手を観察して対応する時間を必要としてしまうからだ。愛媛のように相手のクオリティが高いと、適応するまでの間に失点を喫してしまい、取り返しの付かないことになってしまう。

一方で、相手のやり方が明確な場合には、しっかりとスカウティングがハマっているのも事実。シーズン折り返しを目前に控え、ここからは2周目の対戦に入っていくことを考えれば、分析材料が多くなってくるのは追い風になる。

あとは蓄積する疲労との付き合い方を間違えないことが大事なってくるだろう。相手に合わせて自在に変化できるのは、自分たちが豊富な選択肢を持っているからこそ。負傷やコンディション不良などで、起用できる選手が限られてきてしまえば、戦い方の幅も狭まってしまう。この試合で住田将が外れたように、1シーズン通して戦った経験のない選手たちは適度に休息を与えつつ、最後まで走りきってほしいものだ。


俺達は常に挑戦者


Twitterはこちら


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?