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【欲張りの代償】J2第40節 松本山雅×レノファ山口FC マッチレビュー

スタメン

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松本は前節出場停止だった河合秀人と佐藤和弘が復帰。セルジーニョを含めて逆三角形の中盤を構成する。これに伴い、ボランチに入っていた前貴之が右ウィングバックにスライド。名波監督になってからは両翼のファーストチョイスだった下川陽太がメンバーから突如外れている。おそらく負傷離脱ではないかと思われるが、リリースが出ていないので詳細は不明。また、細かな離脱を繰り返していた橋内優也も帰ってきており、DFリーダーとして最終ラインを統率する。

対する山口は、前節と同じスタメン。来季加入内定で現在は慶応大学在学中の橋本健人が左ウィングバックに入る。大学でのプレーを見る限りはJ1級のタレントではあるのだが、こういった選手を引っ張ってこれるのは山口の強み。連敗が続いていた時期もあったが、直近5試合は2勝2分1敗と上向き。

この試合の前段階で松本は勝点32で最下位。残留圏の金沢とは勝点差が5となっている。残り試合が3試合で、最大で9しか積めないことを考えても、本当に崖っぷちと言っていい。仮に松本が3連勝したとしても、他チームが勝点を獲得すれば上回れずに終わる可能性も十分にある。他力本願をするしかない状態だが、そもそも目の前の試合に勝たなければ、その権利すら掴めない。


あえて配置を被らせる

監督が変わっていると言っても、ベースは霜田さん・渡邉さんが構築してきたポゼッションサッカーが根付いているチーム。選手が適切な立ち位置を取りながら、配置で殴ってくる印象がある。肝になるのは中盤の主導権争いで、ここで上回れれば少なくとも決定機を与えることはなく、逆にカウンターで相手ゴールを脅かせる計算が立ってくる。

中盤を制圧するために松本はあえて山口に配置を被せにいく。3-4-2-1に対して、3-5-2でボランチをインサイドハーフが捕まえる形。アンカーの脇を回遊するシャドーがうざったく感じるが、今季散々やられているので、そこも織り込み済み。

ボールサイドの山口CBにインサイドハーフが、ボランチにはアンカーの佐藤が、シャドーには松本CBがそれぞれ一列上がって対応することで、確実に人を捕まえる守備を披露。いわゆる縦ズレを連動して行っているのだが、山口は前半を通してずっと苦労していたように思う。

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再現性を持って行えていたのは、山口がウィングバックから中央のボランチorシャドーへ付ける横パスをインターセプトする形。ウィングバックの選択肢を横パスか、独力での縦突破に限定できているからこそ中央で大胆にパスカットが狙える好循環が生まれていた。逆に山口は、パスが各駅停車で、テンポが思うように上がらなかったのが歯がゆかったはず。理想はダイレクトプレーを織り交ぜて、松本に寄せる間を与えないのがベターな解決策だったと思うが、選手の距離感が遠くて実現できずにいた。

今季、同様の守備をトライしたのはこれが初めてではない。ボールを握りたがる琉球を相手にも行ったが、そのときはダイレクトプレーの連続に付いていけず、ひたすら後手に回り続けた。前半上手く行っていたように見えたのは、松本の守備の練度が向上したというよりは、相手のクオリティによる部分が大きかったと思っている。


生まれたズレに再び被せる

ほとんどやりたいサッカーができずに終わった山口は、後半立ち上がりから配置に修正を加える。ダブルボランチ+2シャドーから、佐藤をアンカーに据えて池上と田中をインサイドハーフで組ませる3-5-2に変更。高井と草野が前線に2枚張るようになった。

既に図解したように、松本があえて山口の配置に合わせてきたところを、システムを変えてズラしにいった格好だ。松本の狙いを外すと同時に、マーカーを外して、中盤を解放したい意図が見て取れた。

60分くらいまでは、立ち位置を変えた山口が中盤の主導権を取り戻す。プレッシャーが掛かりづらくなったところで、田中や佐藤が前を向いてプレーできるようになり、ボールを松本陣内深くまで運ぶ場面が増えた。その流れからセットプレーも獲得しており、山口陣営としては得点を取るのも時間の問題だと思っていたはず。

逆に松本は配置で殴られているのでジリ貧状態。そこで名波監督も手を打ってくる。河合に代えて安東輝を入れて、中盤をダブルボランチへ変更。配置をズラした山口に対して、再び被せるような修正を加えたのだ。この交代によってゲームは膠着状態に。アウェイという点と順位を考えれば勝点1でも御の字である山口は様子見の構えを見せるが、勝利が絶対条件のホームチームが先に動く。阪野豊史と古巣対戦の田中パウロ淳一を入れて、より攻撃の色を濃くしていく。

試合を動かしたのは松本。右サイド深くでスローインを得ると、パス交換からボールを受けた安東が強引に反転。マークに付いていた田中を振り切ると、DFが2人寄せるのをもろともせずにグラウンダーのパスをペナルティエリア内へ供給。ニアで相手よりも先に触ったセルジーニョがネットを揺らして先制に成功する。セルジーニョは松本復帰後初ゴール。大事な一戦で、喉から手が出るほど欲しかった得点を奪ってみせた。


シメにメイン料理を頼むタイプ

さて、リードしたところで時計の針は75分。松本としては、ここからどう試合を締めくくるかを考えるかと思われた。ところが、久しぶりにタオマフを振り回せるSEE OFFでボルテージが上がったスタジアムに押されるように、松本は前に出る。得点が入って選手の動きにキレが出てきたことも追い風となり、前線からプレッシングを敢行。1点を守り切るというよりは追加点を狙いに行く姿勢を見せる。

ベンチは鈴木国友と野々村鷹人の交代を準備しており、高さ対策をして逃げ切る算段だったと思う。しかしピッチ上では、まるでスコアレスかのようにリスクを賭けるプレーを連発しており、やや意図が噛み合っていなかった感は否めなかった。

すると、案の定というべきか、86分に立て続いたコーナキックから渡部に押し込まれて失点。ニアでフリックされ、ファーで合わされた時点でほぼ詰みだった。個人的に改善できた余地があったとすれば、ファーでフリーになっていた高井のところか。マーカーは田中パウロだったはずだが、完全に外してしまっており、軽率だった。

彼自身、必死にゴールカバーに入っており、高井のシュートをブロックしている点は評価できる。ただ、それ以前にシュートを打たせない守備ができたのではないかとも思えるので悔やまれるところ。池上がクロスを上げる段階で、かなり距離を空けてマークしていたのが気になる。見る限りではマンマーク守備だったようだし、せめて手が届くくらいの距離に立つのがセオリーなはず...。あまりセットプレーの守備に入るタイプではないので(どちらかと言えば、カウンター要因として前線に立たせたい)、慣れない動きだったのかなと思ったり。まあ擁護するばかりではいられないチーム状況なのだが。

DAZNで観戦していた僕も含めて「今日は勝てるかも!」と思っていたサポーターの熱が一気に冷めてしまった感は否定できず、効果的な反撃を見せることはできず。このまま1-1で引き分けに終わった。


総括

これで千葉戦から9試合勝利なし。3分6敗といよいよ厳しい状況に追い込まれてきた。直近数試合ずっと同じことを書いている気もするが、試合に臨むプランAは見えたし、試合中の選手交代の意図も理解できた。しかし、結果がついてきていない。あと一歩、やられてはいけない部分で競り負けていたり、もったいない失点の仕方をして勝点を落としてしまっているのは非常にまずい。

また、今日の試合に限って言えば、リードした状態でリスクを取って前に出た選択には疑問が残る。ベンチの意図が果たしてどれほどピッチ内に伝わっていたかは計りかねるが、少なくとも0-0で推移していた時間帯よりも、先制してから追いつかれるまでの数分間のほうが明らかに前からの圧力を強めていた。気持ちが高ぶっていたのと、スタジアムの雰囲気に流されてしまったのかもしれないが、それで勝てる試合を落としてしまっている事実は重い。

複数得点を期待できるチーム状態ではない以上、リードを奪ったら割り切って守り切る姿勢を貫いても良かったのではないか。守りきれる保証もないだろうと言われたらその通りなのだが、時間帯と相手との力関係を考えた際に、どちらの選択のほうが勝点3に近かったか。今となっては結果論でしかないが、振り返る余地はある気がしている。

シーズンも残り2試合。今日引き分けたことで、いよいよ落とせる試合はなくなった。松本は2連勝がマストで、かつ残留争いのライバルが勝点を落としてくれるのを祈るしかない。J3の2位以内に宮崎が滑り込んでくれて降格枠が1つ削れる展開に賭けるのが現実的な落とし所だろうか。

次節は、残留争いの直接のライバルとなる相模原。負ければシーズン終了となる大一番。今年何回も落としてきた”シックスポインター”。今こそ松本の誇りを見せてほしい。


One Sou1


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