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~原点回帰の信州松本Football~J2第12節 松本山雅VSアビスパ福岡 レビュー

スタメン

スタメン

松本はクラブワーストの5連敗中で迎えた一戦。
怪我で離脱していた杉本と橋内が復帰。久しぶりに攻撃のキーマンである杉本とセルジーニョが共演を果たした。また、1トップには本来ボランチの選手であるアウグストを起用。阪野・鈴木・久保田といった今までスタメンで起用されていた選手をベンチに置く采配を見せた。

一方の福岡は、3試合勝ちなしとこちらも波に乗り切れていない印象。前節から実に7人を入れ替えてこの一戦に臨む。前節途中出場から得点を決めている遠野、久しぶりにチャンスをもらったファンマの2トップは破壊力を秘めており要注意である。


違いを見せた杉本とセルジーニョ

まず、試合開始15分ほどを見て感じた僕の印象は「なんか今日は違うな」であった。これは良い意味である。違うなと感じたポイントは攻守にあるのだが、まずは攻撃面からみていきたい。

攻撃面での違いは、ボール奪取後のつなぎがスムーズだったことだ。連敗中の松本の課題として、せっかくプレスを掛けてボールを奪ったにも拘らず、自分たちのパスミスによって相手にボールロストする点があった。結果的に、自分たちの時間を作ることができず慌ただしく常に守備に追われ続ける試合展開になっていた。

この課題は前節から少し改善の兆しを見せていた。大きな要因はセルジーニョの復帰だ。そして今日は杉本とセルジーニョとボールの収まりどころが2つになったことで、より安定してマイボールの時間を作ることができていた。

杉本もセルジーニョも決して上背がある選手ではなく(むしろ小柄な選手だ)、フィジカルに優れていてDFを背負ってのプレーを得意としているわけではない。2人が優れているのはポジショニングだ。相手最終ラインとボランチの間にできるスペースを常に意識していて、絶妙に相手がマークに付けないポジションで”浮いた”状態を作れていた。例として、前半19分のシーンを見ていただくと、ボールを受けるセルジーニョと、ボランチの背後にポジション取りをして何度も首を振ってフリーな状態を維持している杉本がよく分かる。

杉本とセルジの立ち位置

さらに、彼らは試合の流れの中でできるスペースに流れて受ける動きにも長けている。今日は福岡の4-4-2と松本の3-4-2-1のかみ合わせだったため、ミスマッチが起こりやすい前提があった。例えば、松本が最終ラインでボールを回している際に、福岡が前からプレスを掛けに来たとする。2トップで左ストッパー(常田)と中央のセンターバック(橋内)へ寄せて右ストッパー(乾)へ追い込んだとすると、次にプレスに出てくるのは福岡の左サイドハーフ(菊池)だ。すると、本来菊池が位置していたスペースが空くことになり、そこへ杉本がスルスルと下りてきてボールを要求するシーンもあった。

杉本の立ち位置②

福岡の4-4の2ラインが思った以上にコンパクトさを維持できておらず、杉本とセルジーニョにスペースを与えてくれていた側面もあった。ただ、いずれにしろ狭いスペースを見つけて、的確にポジション取りを行い、受けてからキープして時間を作る存在が松本を変えた要因だ。


福岡の攻撃と松本の狙い

そんな松本の攻撃に対して、福岡の攻めはシンプルだった。攻撃時には両サイドハーフの菊池と東家が内側に絞り、大外はサイドバックに使わせるというものだ。サロモンソンと湯澤というアップダウンを繰り返せて単騎での突破もできる両サイドバックの特徴を生かした作戦だろう。なので、サイドでは1対1の攻防が繰り広げられ、ファンマめがけてクロスを上げてくるかコーナーキックを獲得してセットプレーにつなげるという狙いだったように感じる。

福岡の基本的な組み立て

対する松本は、今季継続している縦横にコンパクトな守備陣形を作りながら、サイドはウィングバックに託す形が多かった。実際に吉田も高橋も1対1で後れを取る場面は少なく、最低限の役割は果たしていたように思う。また、中にクロスが上がってきたとしてもファンマに対しては3バックで挟むように対応していたため、それほど脅威ではなく、どちらかというと自由に動き回る遠野の方が厄介だった。

そして、この日の松本はサイドバックを高い位置に上げる福岡の攻撃を逆手に取り、背後にある広大なスペースでアウグストやシャドーが受けて起点を作ることもできていた。

松本のカウンター時の狙い

福岡に攻め込まれる場面もあったが、決定機と呼べるものはそれほど多くなく、どちらかというと奪ったらチャンス!という意識の方が強かった気がしている。それくらい、自分たちの意図をもって守備時も動けていたように感じた。


松本山雅らしさ、とは

僕が感じた「なんか今日は違うな」という感覚の守備面については、一言でいえば松本山雅らしさが出ていたからとなる。「球際で身体を張る」「攻守にハードワークする」「粘り強く最後まで諦めない姿勢」といった部分は、反町監督の就任後から植え付けられて、松本山雅のアイデンティティとして根付いてきたものだ。そんなひたむきな選手の姿にスタジアムに集ったサポーターは心を打たれ、例え負けを喫したとしても背中を押し続けてきた。

正直なところ、そういった姿勢は年々薄れつつあったように思う。それは、かつてはJ2初挑戦で常に挑戦者で格下の立場で闘わなければいけなかった側面や、クラブの財政規模もありテクニックに優れた選手を多くそろえることが難しかった側面もあった。しかし、2度のJ1昇格や平均観客動員数の増加、スポンサーの増加などもあり松本山雅は決して格下と呼ばれるクラブではなくなってきた。それに伴って、失ってしまったものもあったはずだ。

この試合では、そんな忘れかけていたものを思い出したかのようだった。全員が献身的に走り回り、前線の選手もスライディングでのブロックを見せたり、攻め込まれても最後は粘り強く守り切る姿勢....これこそが松本山雅の根底に流れているアイデンティティなのだ。

試合後の塚川のインタビューや、布監督をはじめとした公式のコメントでも、「粘り強く」「11人全員で」「泥臭く」「ひたむきに」といった言葉が多く出ていた。それだけに、チーム全体で改めて意識して臨んだということなのだろう。そして、勝利という結果につながった。


布監督が見せた巧みなマネジメント

結論、個人的にはこの試合布監督は70分以降に得点を奪って勝ち切るイメージで臨んでいたと思う。

まずは阪野・イズマと1トップの駒は揃っているにも拘らず本職がボランチであるアウグストをFWで起用。両サイドもアップダウンが繰り返せて守備も一定計算できる高橋と吉田を選んでいることから、守備から入ることが念頭にあったはずだ。福岡に攻め込まれる場面やセットプレーこそ多かったものの、0-0の時間を長く続けることが今日のスタメンに求められた役割だったと予想する。

そして、65分以降にベンチに置いていた阪野・鈴木・久保田を立て続けに投入。この選手交代こそがチームのギアを上げるスイッチで、1点を取りに行くぞという監督からのメッセージだと感じた。前述のように狭いスペースでボールを受けてチャンスメークする役割を得意とする杉本、セルジーニョは試合の頭から起用しても輝けるはず。逆にスペースがあるオープンな展開で活きる阪野や鈴木、イズマを相手も疲労してくる後半30分以降にぶつける。交代策について大枠はこんなところだろうか。途中から投入される選手は使われる側で輝くタイプが多いために、フレッシュな使う側の選手として久保田も投入するイメージだ。

そして、見事にスタメン組は粘り強く福岡の攻撃を跳ね返し続け、交代から入ったメンバーが前線をかき回しながら最後の一刺しで試合を決めた。布監督としても会心の勝利ではないだろうか。

これまで主力選手の負傷が重なり、限られた選手の中でやりくりすることを求められていた布監督。それがこの試合は、ほぼベストメンバーがそろった状態で臨むことができ、選手交代で変化をつけられる駒が手元にあっただけに、本来の布監督の策士ぶりが発揮されたということだろう。負傷者が立て続く前までは、たしかに選手交代で流れを引き寄せる展開も多かっただけに、もしかすると今後も同様の試合が出てくるかもしれない。

そう、サッカーは90分間で闘うスポーツであり、前半で得点しなければいけない縛りはない。最後に相手よりも多くネットを揺らしていればよいのだから。


まとめ

劇的な展開で悪夢のようなトンネルから抜け出した松本。相手を圧倒したわけではないが、自分たちのやろうとしたミッションを遂行して勝利を手にした経験はチームに勢いと失いかけていた自信を与えるはずだ。

そして何より、忘れかけていた松本山雅らしいハードワークと粘り強さを表現できたのは今後に向けて非常にポジティブな要素だ。怪我人も続々と戻ってきており、ここから巻き返す準備は進んでいる。

新しいエッセンスと松本山雅らしさの融合。もしかすると今季の松本が挑むべきテーマはこれなのかもしれない。
俺らと追い求めよう、信州松本のFootballを。


ではまた。

俺達は常に挑戦者
One Sou1


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