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【90分をデザインする】J2 第37節 松本山雅×町田ゼルビア マッチレビュー

スタメン

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松本は現在リーグ戦4連敗中。ついに最下位に転落してしまい、残留に向けていよいよ後がなくなってきている。今節は4人を変更。星キョーワァン・表原玄太・小手川宏基・伊藤翔がスタメンを外れ、野々村鷹人・外山凌・佐藤和弘・山口一真が名を連ねる。相変わらずスポットで先発起用される表原の評価がどういったものなのか謎は深まるばかり。2戦連続でメンバー外となった平川怜のコンディションは気がかりで、負傷離脱でないことを祈っている。主力級で言うと、大野佑哉・橋内優也・前貴之が離脱している。

昇格に向けて僅かな望みを繋いでいる町田はおそらく現時点でのベストメンバーと思われる布陣で臨んできた。センターバックに入った森下は第13節以来のスタメンで、リーグ戦の出場も14試合ぶり。ベンチに座る水本とともに古巣対戦となる。


ズレから生まれた先制点

メンバー表を見て、率直に後半勝負だなと思った。ベースは5-4-1で守備ブロックを敷いて失点しないことを頭に入れるのは直近数試合と同じで、相手の強度が落ちてくる後半に攻撃的なカードを切って畳み掛けるという流れ。ベンチに榎本樹・セルジーニョ・伊藤翔・小手川宏基・田中パウロ淳一と味変ができる選手を多く揃えているのは特徴的で、一方でスタメンの安東輝・山口一真・河合秀人あたりは走って死んでをするには適した人選である。

果たして、試合序盤から予想通りにブロックを組んで町田の攻撃を受け止めようとする松本だが、琉球や群馬とは少し違ったクオリティを持つ相手に戸惑いを見せる。町田もポジショナルプレーをベースとして配置を整理しているチームだが、攻撃には”縦への速さ”が強調されている。サイドハーフに吉尾・太田とスペースを与えられて最大限に力を発揮する選手を置いているのがその象徴。松本がブロックを完成させる前に攻めきろうとする町田の速さについて行けず、やや間延びした選手の間をボールが通過していくシーンが多かった。それでも圍謙太朗のビックセーブでゴールは死守していたが、主導権を握ったのは町田だったと思う。

先制点に繋がったシーンは、まさに町田らしさが詰まった攻撃の形。町田は攻撃の局面になると、サイドバックもしくはサイドハーフが大外で幅を取るのが約束事。大外に張ることで、相手の守備ブロックを横に広げ、空いたハーフスペースにサイドハーフか2トップが突撃する。

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10分の場面も、高橋がボールを持った時点で左サイドバックの三鬼が大外にポジションを取り、太田はハーフスペースに。高橋がドリブルで持ち上がってくるのを見て、河合は下川に対してマークに行くよう指示を出している。(8:47~)しかし、下川はハーフスペースに入ってきた太田にピン留めされており、三鬼へアプローチできない。それを確認した河合は、高橋と三鬼をひとりで対応する形になってしまい、どちらに寄せるか迷って中途半端な立ち位置となってしまう。

同時に、右HVの宮部は高橋から平戸への楔のパスを警戒して、ややポジションを上げる。平戸に対してガッツリ潰しに行くシーンは試合を通して何回もあったので、相当意識していたんだと思う。相手チームの10番でキャプテンマークを巻く選手が目の前に居たら燃えないはずはない。平戸に食いついた瞬間、最終ラインに少しズレが生まれてしまい、太田はそれを見逃さなかった。宮部と下川の間にできたギャップへ鋭いスプリントをすると、ズレが生まれていた最終ラインではオフサイドを取り切れずラインブレイクを許す。最後は逆サイドの吉尾に押し込まれて早い時間帯に先制点を献上してしまった。

▼GIFでつなげたものがこちら

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部分最適が生むスパイラル

失点した場面、河合・下川・宮部とそれぞれの判断は間違っていなかったと思っている。システムの噛み合わせの関係で、サイドバックとセンターバックをシャドーが頑張ってみなければいけないのは柴田体制から変わらない課題だし、下川が太田を離すことは難しかった。宮部も一番危険なバイタルエリアで仕事をさせない意識は問題ないし、開始早々に強烈なミドルを放っていた平戸への警戒度を高めていたのは納得できる。

問題なのは部分最適になってしまっていること。個々の判断は間違っていないのだが、それぞれ向いている方向がちょっとずつ違うので、チーム全体として見るとズレが生じてしまっている。選手はめちゃ頑張っているのに、何でか上手く行かないという感覚の原因はここにあると思う。ブロックを敷いただけでは、ピッチ上に人を並べたのとほぼ同義。チーム全体としての方針が浸透していないと、せっかくブロックを組んでも互いの距離感が遠かったり、ズレが生まれてスペースを空けてしまったりする。

これってサッカーに限った話ではなくて、一般社会でもよく起こる話だと個人的には思っている。利益を最大化する!というゴールは一緒なのだが、営業部とマーケティング部、経理部の考えているアプローチが全然違くて、それぞれ独自の戦略で動いていたので途中で歯車が噛み合わなくなるという。後から修正しようと思ってもなかなか難しくて、会社全体のエネルギーが分散してしまうという結果に。最初に、全体の方針を固めて、それに則って各部署が戦略を考えればよかったはずなのだけども。僕が所属していた会社の話。

今の松本のピッチでも多分同じようなことが起きている。失点しない!というゴールは共通認識なんだけど、その目的を達成するためのアプローチが個々の選手でズレている。それぞれは100%のパワーを出しているのに、力を出す方向が違うので、お互いに相反して全体で見ると50%くらいにパワーダウン。まずはチーム全体の意思統一が最優先だと考えている。”ブロックを組んで守る”よりもう少し具体的に、相手サイドバックには誰がアプローチするのかくらいに決めてあげると、選手も自分の仕事に専念できるんじゃないかと。力を発揮する方向性さえ間違えなければ、元々の能力は高い選手が集まっているのだから、数段大きなエネルギーを出せると信じている。


圧倒的な二人が含む町田の脆さ

前半9分と早い時間帯に失点してしまった松本だが、この日はズルズルといかなかった。失点直後に選手が円陣を組んで気持ちを立て直し、やるべきことを整理。これはちょっとグッと来た。

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飲水タイムを挟んで全体が落ち着くと、システムを3-1-4-2に変更してかみ合わせの悪さを解消しに動く。相手サイドバックに対してはインサイドハーフが出ることで統一すると序盤ほど簡単にやられる場面は少なくなっていく。

それでも町田のターンが永遠と続いていたのは、高江と佐野が組むダブルボランチが絶大な存在感を発揮していたからに他ならない。中盤のセカンドボール争いでは常に優位に立たれ、特に佐野海舟には名前の通りこぼれ球を回収され続けた。彼の予測の鋭さから来るポジショニングの良さ、一歩目の速さはJ2トップクラス。高江はボールを貰ってから捌くまでのリズムが良く、僅かなタメを調整することでテンポに変化を出すプレーは繊細で見ていて惚れ惚れするほどだった。

しかし、強烈なダブルボランチだからこその脆さも町田は抱えている。中盤のフィルダーが掛かっている際には隠されているのだが、実は最終ラインは晒されるとやや脆さが目立つ。守備では1on1の勝負に持ち込んで封じると言うより組織で守ることを重んじていて、ビルドアップ能力などの攻撃面の性能を重視する傾向にあるのは監督の好みだろう。また、スタメン二人の実力が抜け出ているが故にボランチの3枚目が定まっておらず、かなり長い時間引っ張らざるを得ないという課題もある。松本陣営も織り込み済みで後半勝負を目論んでいたのは高江と佐野が疲れてくるのを待っていたから。彼らがパワーダウンして中盤のフィルダーが機能しなくなり、町田センターバックが晒される状況をずっと我慢強く待ち続けていた。なので前半シュート0本に終わった事実もさほど絶望的ではなく、むしろ1失点に抑えて後半の逆襲に向けた布石を打ったという見方ができると思う。


悔やまれる2失点目と反撃の狼煙

ハーフタイムを挟んで松本は2枚替え。伊藤翔と榎本樹を入れて前線に高さと力強さを補強する。前述の通り、後半途中から相手の最終ラインと勝負できるだろうという見立てでフィジカル勝負が得意な2トップをチョイス。

名波監督にとって誤算があったとすれば、町田のパワーが落ちる前に2失点目を喫してしまったことだろう。佐藤のパスミスからショートカウンターを食らってしまい、後手後手な守備から最後は吉尾に得意の角度からシュートを沈めらてしまう。速さと決定力を兼ね備えたサイドハーフを揃えている町田の真骨頂とも言える攻撃の形で、型にハマってしまうとファウルでも止まらないくらい破壊力を持っている。自分たちが攻撃のフェーズに移ろうとして奪われたのが痛すぎた。

60分過ぎに松本は再度2枚替えを敢行。田中パウロと小手川を入れて、カウンター一本槍からボールを握ることもできるメンバーにシフトチェンジしていく。何度も繰り返しで恐縮だが、予想通りこれくらいの時間から町田がペースを落としたこともあって(たぶん2点差になったことも影響していると思う)、中盤で時間を作り出せるように。

榎本の得点はそんな流れから生まれたもの。ラストパスを供給した小手川の位置は、前半だったら佐野に潰されてしまっていたはずだが、アプローチが遅れていてパスを出す隙があった。ボールを受けた榎本はセンターバックと勝負。エリア内に持ち込んで右足を振りたくなる場面で冷静に切り返し、逆サイドのサイドネットに左足で流し込んで反撃の狼煙を上げる。DFの重心と見極めて深い切り返しを選択できたことからも、彼のコンディションが非常に良くて、かつ自信をつけていると感じさせるゴールだった。ヘディングだけではなく、エリア内でのフィニッシュ精度も上がっているとなると、覚醒のときは近い。


追いすがる松本

2点差の余裕から一転、焦りの色が見える選手に対してポポヴィッチ監督は長谷川アーリアジャスールとドゥドゥを投入し、守り切るのではなく3点目を取りに行けというメッセージを送る。対して松本も最後の交代カードをセルジーニョに使って、さらに攻撃のギアを上げに行く。

交代が先に当たったのは町田の方だった。カウンターの流れから右サイドでボールを受けた長谷川はDFとGKの間に鋭いグラウンダーのパスを供給。かろうじて圍が弾いたこぼれ球に反応した佐野が左足で叩き込んで松本を突き放す。ファーで町田の選手がフリーだったので触らずとも決められていたと思うし、圍は責められない。オウンゴールを誘発するような長谷川のクロスが絶妙で、佐野のシュートも利き足ではない左足でゴール左上隅にコントロールされていたのだからノーチャンス。個のクオリティを見せつけられる格好となってしまった。

僕はバックスタンドで観戦していたのだが、3点目が決まって町田サポーターもどこか安心したような空気が流れていた。75分という時間帯と今季アウェイで複数得点を挙げた試合が2試合しかないという事実を加味すれば、ほぼ試合は決まったと思った人も多かったはずだ。ただ、松本の選手は全く諦めていなかった。前半から飛ばしていた町田を尻目に、フレッシュなセルジーニョを中心に押し込んでいく。

森下のハンドで得たフリーキック。キッカーのセルジーニョがエリア内に入れたクロスに対して、高橋を振り切った榎本がヘディングで合わせる。叩きつけるお手本のようなヘディングシュート、手前のDFの頭を超えて落とすクロスの質も高かった。再び1点差。DAZNには映っていなかったが、ゴールを決めた後に手を叩いて味方を鼓舞する榎本の姿は逞しかった。正直、ちょっと泣いた。

たまらず町田は水本を入れて5バックに変更し、試合をクローズしにかかる。右サイドを中心に最後まで攻めの姿勢を貫き、小手川が決定機を迎えるがシュートは無情にもゴール左へ。1点差を埋めることができず試合終了。3失点以上を喫したのは今季12試合目。5連敗となってしまった。


総括

90分を通してのゲームマネジメントはほぼ完璧だったと思っている。交代カードの切り方も納得感があったし、事実として2点を奪っている。それでも3失点を喫してしまったのは、純粋に力負けだと認めざるを得ない。チームとしての練度で積み上げてきたものの差が出てしまった格好だ。

途中で書いたように、選手個人はすごく頑張っている。決して気持ちが足らないとか、モチベーションが低いとかは思わない。一方で1+1が1.5くらいになってしまっている現状も受け入れなければならない。全体が統一されれば、上積みできる伸びしろは残されていると感じるし、まだ短期間で修正が効くとも思っている。

また、榎本が2ゴールを叩き込んだのは紛れもなくポジティブな要素だ。間違いなくチームで一番調子が良い選手だし、彼を最大限に活かすことが残留へのキーポイントだと言ってもいい。あえて先発ではなく切り札としてベンチに置き、相手が疲れてきた時間帯にぶつけているのも、チームの攻撃頻度が多くなると同時に榎本が優位に立てるお膳立てをしているんじゃないかと。

落ち込んでいる暇はない。中3日ですぐに新潟戦がやってくる。僕の予想としては、琉球戦に近い構図になるはずで、焦れずに耐える時間帯が長くなるだろう。後半勝負に持ち込める駒が揃ってきているのは証明しつつあるので、まずは失点しないこと。

聖地アルウィンで好きにはさせない。

そんな気持ちを見せてほしい。


One Sou1


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