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#010 日本企業の組織について考える(その3) - チャンドラー「組織は戦略に従う」

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今回は、日本企業の組織戦略に関する特集のその3、チャンドラーの戦略論についてです。

(その1) - ポーターのポジショニング理論
(その2) - バーニーの内部資源理論
・(その3) - チャンドラー「組織は戦略に従う」
・(その4) - アンゾフ「戦略は組織に従う」
・(まとめ) - 日本企業の強みを活かせる組織戦略を考える

一般的な企業では、4月などの定期的なタイミングで組織変更が行われることが多いと思います。例えば、国内市場が縮小することがわかっているため今後は海外市場のシェア拡大を目指そうとするような場合、国内営業のメンバーを海外営業に異動させるでしょう。
私が昨年受験した中小企業診断士試験においても、その2次試験、事例1(組織・人事)では、事例企業をもとに、ある戦略を実現する為にはどのような組織や人事制度を構築していくべきなのか、その提案能力が問われます。

今回は、このチャンドラーの組織論について簡単にまとめたいと思います。

アルフレッド・チャンドラー

1918年アメリカ生まれの経営史学者さんです。MITやハーバードのご出身。

アルフレッド・チャンドラー - Wikipedia

1962年、MITで教鞭を執られていたころに出版された "Strategy and Structure (邦題「組織は戦略に従う」)" の中で、GM社やデュポン社の例を出しながら、事業の内容や成長に応じて組織をどう変えていくべきかについてまとめられています。

例えば、一つの会社で複数の事業が成長していった場合、単一の組織でそれら複数の事業を進めていくのは困難なので、事業部制のような組織に変えていくべきである、といったことが書かれています。

(↑ 有名な本なので、自分で買わなくても図書館とかにあるかと…)

中小企業診断士2次試験、事例1にみる戦略と組織との関係

上でも書いた中小企業診断士の試験においても、毎年、この「組織は戦略に従う」という観点が問われています。

1事例80分 x 4事例で行われるこの筆記試験、4つの事例にはそれぞれ以下のテーマが設定されており、
・事例1: 組織・人事
・事例2: マーケティング・流通
・事例3: 生産・技術
・事例4: 財務・会計

これらのうち、事例1の試験が「戦略にあった組織とはどうあるべきで、どうやったら作れるかを提案する」能力を問う試験になっています。

例えば、前回、平成30年の事例1の試験問題は以下ですが、
https://www.j-smeca.jp/attach/test/shikenmondai/2ji2018/a2ji2018.pdf

・第1問: A社の競争戦略について
・第2問-設問1: A社がB2Bをメインにしていた組織面の理由
・第2問-設問2: 「複写機関連製品事業」の事業特性について
・第3問: 複写機関連事業が先細りになった頃に行った組織改編の目的について
・第4問: 今後社員のチャレンジ精神を維持していくための人事施策について

という問題を通して、A社の戦略の変遷と、その戦略に対応した組織の作り方について問われています。

例えば、上記の第3問「組織改編の目的」に対しては、A社の事業環境・事業戦略をふまえ、既存事業が先細りになる中、品質管理と生産技術という全社共通部門については更なる効率化と能力向上を、開発部門については事業毎に部門を分けることでスピードアップと結果責任の明確化を計る、という提案ができるかどうかがポイントになります。

ちなみに、上記以外の過去問も以下のページで公開されています。ご興味ある方は合わせてご覧ください。

中小企業診断士試験問題
https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html

新規事業を立ち上げる際に重要となる組織・人事戦略

上記の試験に出てきた事例企業でも環境エネルギー事業などの新しい事業への取り組みを進めていますが、私も、これまで自社の業務の中で新規事業の立ち上げに関わることが多かったです。

そうした経験の中で、特に新規事業を立ち上げる際に重要だと思う人事・組織上のポイントが2つあります。

(1) 営業の評価基準、KPI を適切に設定すること
新規事業の立ち上げ時は、既存事業のようにルート営業で効率的に売上を立てることは難しく、飛び込み営業で小さな利益を少しずつ積み上げて行く必要があります。
こうしたフェーズにおいては、社員の評価を「売上金額」や「営業効率」で行ってしまうと、優秀な人ほど新規事業に関わるのを避けるようになります。既存事業の売上1000万円と新規事業の売上10万円とでは、後者の方が価値があることも多いのです。
人事制度としてはこうした差を正しく評価できる KPI を設定する必要がありますし、組織としてはこうした状況をきちんとコントロールできるような仕組みを作る工夫が必要があります。

(2) 限られた情報の中でもっとも確率の高い意志決定を素早く行えるようにすること
新規事業の立ち上げ時には、少ない情報を元に、その時点で最も確率の高い意志決定を素早く行う必要があります。
既存事業では、これまでの経験と十分な情報を元に、最もリスクの小さい意志決定を行う事が求められることが多いため、同じ稟議ルートや権限規定を適用してしまうと、時間をかけたあげく最も筋の悪い意志決定を行ってしまう可能性が高くなります。
明文化された情報や実績が無い状況では、現場の情報を肌感覚で掴んでいる現場の担当者が最も正しい意志決定を行えるはずなのですが、既存事業の意志決定ルートだと、現場から遠い上司が会議室で意志決定してしまう状況になりがちです。現場に権限を委譲する意志決定に関わる人の数を減らす、などの施策が必要になってきます。

こうやって書くと、(1)(2)どちらも非常にあたりまえのことのように思えるのですが、実際にはこうした間違いにはなかなか気づきにくいものです。

「戦略にあった組織を作る」ことはとっても難しい

さて、チャンドラーの本を熟読して、戦略に合致した組織の青写真を描くことができるようになったとします。
しかし、本当に難しいのはここから。新しい組織にアサインするメンバーを間違えてしまうと、その組織はまったく機能しないまま、その次の組織変更でまたもとの組織に戻さざるを得ないようなことが頻繁に起こります。

こうした失敗の原因は、新しい組織にアサインされたメンバーが過去の経験や実績を捨てられないことに起因します。
このあたり、「戦略を元に組織を作る」という考えに対して提示された「組織に合わせた戦略をたてる」という考え方を、次回まとめてみたいと思います。

まとめ。

(1) チャンドラーが1962年に書いた「組織は戦略に従う」という本において、事業環境や事業戦略に合わせて組織を作り替えていくことの重要性が説かれています。この理論は、現代の経営においても組織戦略論の中心的な役割を果たしています。

(2) 例えば新規事業。既存事業の組織や人事制度のままで新規事業を行おうとすると、小さな成功が評価されにくい、意志決定が遅くなる、などの弊害が生じます。

(3) とはいえ、現場のリソースや力量を無視して組織を作ってしまうと、現場がその組織変更についていけず、結果として組織が機能しない事態に陥りがちです。その辺りについては、次回のアンゾフ編でまとめてみたいと思います。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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