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#008 日本企業の組織について考える(その1) - ポーターのポジショニング理論

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4月になりました。日本の会社ではこの時期に組織変更が行われることが多く、普段お付き合いのある会社の方々からも「名刺が新しくなりました」みたいなお話を伺うことが多いです。

経済ニュースなんかを見ていると、特に今年は大きな動きが多いように感じます。
例えば以下のニュース、私自身も40代後半なので、決して人ごとではありません。

富士通半端ねえ、45歳以上に早期退職含むジョブ再配置拡大 - orangeitems’s diary
https://www.orangeitems.com/entry/2019/03/18/122217

経営は SWOT 分析に始まり SWOT 分析に終わる」のエントリでも書いたとおり、組織形態や人事制度はその会社の経営戦略に応じて都度変更していく必要がありますので、こうした取り組みは非常に重要です。

しかし、特に日本企業の場合、この「組織は戦略に従う」という理屈だけで組織変更を行ってしまうと、効果が出ないだけでなく、その会社の強みを失って組織ががたがたになってしまう危険性もはらんでいたりします。

このあたり、日本企業の組織戦略を考えるにあたって参考になりそうな話を、今回から5回シリーズでまとめてみたいと思います。

・(その1) - ポーターのポジショニング理論
・(その2) - バーニーの内部資源理論
・(その3) - チャンドラー「組織は戦略に従う」
・(その4) - アンゾフ「戦略は組織に従う」
・(まとめ) - 日本企業の強みを活かせる組織戦略を考える


前半4回は退屈なエントリになりそうですが(すみません…笑)、5回通してまとめてみることで、自社の強みを活かせる組織作りについて考えるきっかけになればと思います。

マイケル・ポーター

ポーターさんは、1947年アメリカ生まれの経営学者です。超有名。
最初の大学は、プリンストンの航空宇宙機械工学科だったのですね。その後ハーバードに進まれたようです。

…にしてもハーバード大学の Web サイト、なんというか独特の風格がありますね。
Harvard Business School https://www.hbs.edu/Pages/default.aspx

ポーターさんが提唱された経営学のフレームワークとしては、ファイブフォース分析バリューチェーン等がありますが、基本的には、他の業界や、他の会社との違いを意識することで、収益性の高い企業を作っていこう、という視点が中心になっているように思います。

大変有名な学者さんなので、書店に行けば原著の翻訳はもちろん、素人にもわかりやすいように解説した解説本がたくさん出版されています。

これとかはお勧めかと。↓

気合いの入っている方はこちらも。↓

今回は、それらの理論の中から、特に企業のポジショニング(業界の中でどういう立ち位置に立つと収益性が上げられるかという考え方)に関するものを2つ取り上げたいと思います。

ファイブフォース分析

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ファイブフォース分析とは、自社の置かれた状況を以下の5つの観点(脅威)から分析するという手法です。
試しに、セブンイレブンの社長になった気持ちで考えてみましょう。
(コンビニ業界に特に詳しいわけではないので間違っているところもあるかと思いますが、そこはご容赦下さい。業界の方、コメント頂けると嬉しいです。)

(1) 同業他社の脅威
ファミマなど。
(2) 新規参入の脅威
既存のコンビニチェーン以外に、同様の形態の店舗が新しく参入してくる脅威。
ここは、既存大手コンビニチェーンの最適化がかなり進んでいることもあり、今後新規参入してくる企業ってそんなに多くないんじゃ無いかと予想します。
(3) 代替品の脅威
Amazonフレッシュとかイオンネットスーパーあたりの通販系がここに来るでしょうか。今はまだコンビニの店頭より価格が高いですが、配達に関するコスト削減に何かイノベーションが起きたりすると、大きな脅威になってくると思われます。高齢化の進んだ地域など、お客さんが出歩きにくい場所などでは特に大きな脅威になりそうです。
(4) 売り手の脅威
商品のメーカーや卸売り業者などとお店との力関係になってくるのですが、ここはコンビニチェーン側の方が強いような気がします。一つ脅威になりそう(もうなっている)のは労働力問題。人手不足でアルバイト確保に店舗側が大きなコストを払わないといけない状況は、売り手側の脅威の一つだと思います。
(5) 買い手の脅威
コンビニがないと生活できないような人も多い現代の状況では、コンビニに対する需要はなくならないように思えます。他の脅威に比べると買い手の脅威はそんなに大きくないのではないでしょうか。

こうして見ていくと、コンビニ業界で生き残っていくためには、(1) 同業他社 (3) 代替品 (4) 売り手(労働力確保)、の3つが大きな課題だと言えると思います。
具体的には、ネットスーパー系の動向に注意を払いつつ、労働力の確保を命題として、同業他社と競争していく必要がある、ということになります。
ここ数年いくつかのコンビニチェーンが合併・統合しているのは、合併することで同業他社の脅威を消そうとしているのでしょうし、セブンミールという宅配サービスを始めたのは、ネットスーパー系の動向を横目で見ながらどう対応していこうか探っている状況なのだと予想します。

大切なのは、こうしたフレームワークに当てはめてみることで、これまで気がつかなかった脅威に気がつくことができる、という点だと思います。日々の業務の中では、直接の競合である同業他社以外の脅威にはなかなか気がつきにくいです。フレームワークには、これまでとは違う視点を与えることで新たな気付きを得る、という効果があります。

3つの戦略

ポーターさん、こうして行った分析を元に立案する戦略として、大きく以下の3つのパターンをあげられています。
こちらも、セブンイレブンの社長になった気持ちで私なりに考えてみたいと思います。ファイブフォースのうち、(1) 同業他社への脅威、に対して、どういう戦略を取ることが可能でしょうか?

(1) コストリーダーシップ戦略
とにかく安く売る戦略。流通コストや仕入れコストを下げたり、プライベートブランドを導入することで同じ商品をファミマより安く売ることを考えます。
(2) 差別化戦略
高くても買ってもらえるようにする。美味しいコーヒーやロールケーキなど、ファミマには無いような商品を高い利益率で提供します。「セブンプレミアムゴールド」というブランドで高い食パンを売ったりしてるのもこれでしょうか。
(3) 集中戦略
お客さんを絞り込む。うーん、コンビニではこの戦略はあまりとられないように思います。顧客を絞らないことでたくさんの店舗を出店し、物流や仕入のコストを下げるのがメインの戦略だからだと思います。
この集中戦略の参考になりそうな例としては、ローソンが「ナチュラルローソン」という健康志向のお客さんに絞った(と思われる)店舗を出店していますが、そんなに成功している感じもしませんね…

こうして見ていくと、フレームワークに当てはめて考えていくことで、もれなく効果的な戦略を考えることができるように思います。実際、コンビニチェーンの戦略も、素人目には上のフレームワークでかなりの部分が説明できているように思えます。

ポジショニング戦略を実行することの難しさ

…と、ここまで見てくると、ファイブフォース分析も3つの戦略もとても素晴らしいように思えるのですが、実際の経営はそんなにうまくいくとは限りません。
なぜなら、戦略は、実行されて始めて経営の役に立つからです。実行できない戦略は何の役にも立ちません。

近年特に問題になっているのは、環境の変化が早すぎて、分析→戦略立案→戦略実行、のサイクルが、環境変化のスピードに追いついていないことです。
例えば、上のコンビニの例。「人手不足」という大きな外部環境の変化に対して、戦略の立案と実行のスピードが追いついていないように見えてしまいます。

同じような話はどの業界にも起きていて、例えば私がよく知っているコンシューマ家電の業界でも、バリューチェーンの変化(チップメーカーや中国・台湾系ODMといった、売り手の脅威の急激な増大)に完成品メーカーがついていけず、戦略の見直しを頻繁に迫られる状況になっています。

こうした、VUCA な時代においては、また別の観点での戦略立案が必要になってくるはずです。
次回はその「別の観点」についてまとめてみたいと思います。

まとめ。

(1) ポーターという経営学者さんは、ファイブフォース分析やバリューチェーンなど現代の経営に役に立つ多くのフレームワークを提唱されています。その理論を要約した書籍なども多数出版されているので、一度は目を通しておくと良いと思います。
(2) ファイブフォース分析では、5つの競争要因をベースに市場構造を評価し、その構造にあったポジショニングを目指すような戦略を立てます。まず外部環境に主眼を置き、その外部環境に対応するような戦略を立案するところに特徴があります。
(3) 市場構造の変化が早く、自社の戦略立案と実行のスピードが外部環境の変化に追いつかない場合、ポーターのポジショニング戦略がうまく効果を出せない状況が発生します。そのような状況へ対応する為には、別の考え方もとりいれながら戦略をたてていく必要が生じます。


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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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