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#009 日本企業の組織について考える(その2) - バーニーの内部資源理論

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今回は、日本企業の組織戦略に関する特集のその2、バーニーの内部資源理論に関してです。

(その1) - ポーターのポジショニング理論
・(その2) - バーニーの内部資源理論
・(その3) - チャンドラー「組織は戦略に従う」
・(その4) - アンゾフ「戦略は組織に従う」
・(まとめ) - 日本企業の強みを活かせる組織戦略を考える

どうしても一般的な経営理論の話が多くなってしまいますが、皆さんが現在お勤めの会社などに当てはめて、具体的な例を思い浮かべてみて頂ければと思います。

ジェイ・B・バーニー

バーニーさんは、1954年生まれ、カリフォルニア出身の経営学者さんです。イェール大学のご出身。

ジェイ・B・バーニー - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%BBB%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%BC

以下の3冊は、元になっているのが MBA のテキストということもあり、わかりやすく参考になるということで非常に評判が高いです。

競合優位性の理論(リソース・ベースド・ビュー)

バーニーさんの経営理論の話の中でよく出てくるのは、アメリカのディスカウントストア、ウォルマートケーマートの例。

ポーターさんのポジショニング理論によると、業界内で同じようなポジショニングをとればその業績も同じようにはるはずですが、ウォルマートは世界有数の企業になった一方、ケーマートは2002年に一度倒産してしまいました(現在はシアーズと合併して復活)。

この2社の違いを説明するためにはポジショニング理論だけでは無理があり、内部の資源にも目を向けるべきである、というのがバーニーさんの主張です。内部の資源としては「財務資本」「物的資本」「人的資本」「組織資本」の4つがありますが、最近は、それらの中でも特に「人」や「組織」に着目することが多いようです。

VRIO 分析

このバーニーさんの理論をフレークワーク化したものにVRIO分析があります。VRIO分析では、その企業の内部リソースを、以下の4つの観点で評価します。

・V: Value(経済価値)
そのリソースが何らかの経済的価値を生み出しているか。
価値を生みださないリソースは競争優位にはなり得ませんので、まずはこの観点で評価します。
・R: Rarity(希少性)
そのリソースが世の中にありふれたものではないかどうか。
例えば、この金属加工は世界中でもこの職人さんにしかできない、みたいな技術があるとすると、それは非常に希少性が高いです。
・I: Imitability(模倣困難性)
そのリソースが外部に簡単に真似することができないかどうか。
例えば、今はその職人さんにしかできない技術であっても、半年くらい練習したらすぐ身につく技術であるなら優位性にはなりにくいわけです。
・O: Organization(組織)
そのリソースを組織として継続的に活用できるかどうか。
例え社内に優れた技術があったとしても、その技術を商品化して販売するような組織が無ければ、技術の持ち腐れになってしまいます。

容易に手に入れることができないリソースとは

VRIO 分析が提唱され世の中に広まり始めたのは 1990 年代ですが、その頃と現在とでは環境が大きく変わりました。インターネットの発達で情報の流通が加速し、人材の流動性も高まりました。製造業においては、企画・設計・生産・販売の分業化が進み、技術の中心が中国の ODM メーカーに移ることで製品のコモデティ化がどんどん進んでいます。

こうした現代においては、技術や情報はすぐに真似され、人材は流動し、工場などの資産に関してはむしろ持たない経営の方が重要視されます。そのような中で注目されているのが、簡単には模倣されない組織資本である「企業文化」です
特長(希少性)のある「企業文化」を組織として継続的に活用し、経済価値に結びつける経営が求められています。最近、色々な会社で「○○ウェイ」といった行動指針を定義することが流行っていますが、こうした取り組みもその会社にしか無い企業文化をコアコンピタンスとして育てていこうとする取り組みの一つです。

以下、2つほど、日本の特徴的な会社の具体例をあげてみたいと思います。

(1) トヨタのカイゼン文化
以下のページには、「トヨタウェイ2001」として「全世界のトヨタで働く人々が共有すべき価値化や手法をしめしたもの」の一つとして「知恵と改善」が上げられています。

トヨタ企業サイト|トヨタ自動車75年史|企業理念|トヨタウェイ 2001 https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/data/conditions/philosophy/toyotaway2001.html

トヨタさんは、長い時間をかけて、社員全員に対してこのカイゼン文化を醸成させてこられました。結果、他の自動車メーカーにはできない、コスト削減や新技術開発が可能になっているのだと思います。
この企業文化は、例えばトヨタの社長さんや現場の優秀な技術者が他の会社に移ったとしても、移籍先の会社に同様のカイゼン文化を創り上げるのには相当な時間を要すると思います。これこそが「模倣困難性」を伴ったコンピタンスであると思います。

(2) ヤマハの、新しい文化を創造し続けたいという社員の意欲
ヤマハは、第4代社長の川上源一さんの「日本をもっと文化的に豊かな国にしたい」という強い想いのもと、海外の音楽、スポーツ、リゾート、などの文化を、楽器などの商品開発や音楽教室などのサービス開発を通じて日本に取り入れてきました。いまでもヤマハには、そうした想いを引き継ぐかのように、音楽や楽器、スポーツが好きで、プライベートの趣味に対して仕事と同じような情熱を注ぐ社員が数多く在籍しています。こうした、新しい文化を生み出すことに対して貪欲な社内文化が、他社に対するコンピタンスと言えると思います。

ポーターとバーニーの論争について

ポーターのポジショニング理論(ポジショニング派)と、バーニーのリソース・ベースド・ビュー(ケイパビリティ派)との論争は、現代においては後者の方が若干優勢という感じになっているようです。

ただ、どちらの理論を主眼に置くかは、自社の置かれた状況によって変わってきます。例えば、VRIO 分析の結果、他社との差別化に役立つような自社のリソースが特に見つからない場合、結局はポジショニングベースで戦略を立てることになると思います。
こうした、様々な要素を勘案した上で戦略立案のフレームワークを切り換える必要があるという状況は、次回以降まとめていく「組織は戦略に従う」vs「戦略は組織に従う」という話に繋がっていきます。

まとめ。

(1) バーニーは自社の経営資源を元に競合優位性を築こうとする「リソース・ベースド・ビュー」の理論でよく知られています。その理論を元にしたフレームワークとしては「VRIO分析」が有名です。
(2) ポーターが業界内のポジショニングを重視するのに対して、バーニーは同じようなポジションにいる企業間で業績に差が出るのは、その企業の経営資源が違うからである、という主張を行いました。特に、過去の歴史に培われた企業文化のような価値は容易に模倣できず、長期にわたってその企業の強みになることがあります。
(3) この、「ポジショニングを第一に考えるべきか」「自社のリソースを第一に考えるべきか」という論争が起きたのは2000年代ですが、その30年ほど前にも、チャンドラーによる「組織は戦略に従う」とアンゾフの「戦略は組織に従う」という2つの考え方に基づく議論がありました。次回以降、その辺りについてまとめていきたいと思います。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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