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旅行記 ヨーロッパ短期旅行第八話

目がさめると何か騒ぎ声が聞こえた。3人組の日本人の男たちが着替えや充電器を盗まれたというのだ。それもそのはずである。私がいま泊まっているのは12人部屋の一番安い部屋である。おかしなやつが紛れこんでも仕方はない。私は自分のものが盗まれていないことを確認した後、ホテルの前にあるムフタール通り沿いで朝ごはんを買うことにした。通りにはお惣菜屋やパン屋が軒を連ねておりなかなか楽しい所である。パン屋に入ると何匹かのハチが私の方へ飛んできた。ディジョンのパン屋と同じく、このパン屋もハチに寛容なのだ。たまらず逃げだす私を見てフランス人のおばちゃん達は大笑いしている。ハチとパン屋の関係性は最後まで分からなかったがおいしいバケットのサンドイッチと露天で売られていたグリルされたチキンとその肉汁の染み込んだポテトを購入し、ホステルのロビーにある椅子に座り食べた。フランスもイタリアと同じく美食の国なようだ。ハーブの使い方や食材の組み合わせ方は見事だ。
今日はパリの郊外へ行くことにしていた。郊外と言っても電車で50分ほどかかるのでけっこうな距離である。私はホステルを出るとTGVで最初に着いたリヨン駅へとメトロで向かった。最初は苦手だったメトロだったが二回目に乗ると意外なほど楽しく、しかも便利であることが次第に分かってきた。確かにデンジャラスな所はあるが乗るにつれてだんだん癖になっていく。リヨン駅へ着くと在来線に乗り換え、窓側の席に座った。列車が動きだすと次第に景色は都会から緑多い郊外の景色へと変わってきた。見える家々も緑に埋もれるように建っておりキャンピングカーがあったり、畑があったり、都市生活に比べゆとりを感じた。50分経つとフォンテーヌブロー駅に到着した。ここからバスに乗り換えて15分程で今回の目的地フォンテーヌブロー宮殿に着く、バスから見えるフォンテーヌブローはとても落ち着いた町でレストランのテラス席には地元の人々が座りのびのびと談笑していた。宮殿の前にバスが到着し、降りると門の前に芝生が広がり何人か若者が気持ちよさそうに寝そべっていた。このフォンテーヌブロー宮殿だがナポレオンが自らの力を誇示するため大改修を行ったことも有名である、そして周囲を取り囲むフォンテーヌブローの森は王族の狩猟の場にもなっていたそうだ。宮殿に入るとその広さに圧倒される。調度品は華やかで、豪華だがルーブル宮殿に比べてどこか落ち着いているように思えた。宮殿内にはナポレオンの玉座や軍服などゆかりの品が数多く展示されている。フォンテーヌブロー宮殿は郊外にあるため、観光客の数が少なく、ゆっくりと見学できるのも魅力である。宮殿をでると広大な庭園が広がっており、大きな泉が宮殿を映しだしていた。庭園ははるか先まで続いており、遠くまでその美しいシンメトリーを維持していた。私は大きなプラタナスの木陰に腰を下ろした。宮殿と庭は見事に調和し、フランス人の高い美意識を感じじた。人の声はほとんど聞こえず取りの声と鯉の跳ねる音だけが聞こえた。欧米人の作るものは自然を支配するものであり、日本人の作る建物は自然と調和する建物を作るとよく言うが、これ程自然の景色と調和した建物を私は日本でもあまり知らない。自然へのアプローチに違いはあるにせよ、自然との美しい調和についてはどの世界の人間も等しく追及するのではないだろうか。私はそのまま芝生の上で眠りについてしまった。起きた時間が何時だったから分からないが夕方だったと思う。美しい自然が私の時間感覚を狂わせていた。バスに乗り駅まで行ったあとパリ行きの電車に乗った。電車の中は静かだった。本を読む人もいれば景色を見ている人もいた。私はパリまでまた眠ってしまった。あまりにも心地よく、気づいた時には近くの席の人に起こしてもらっていた。
パリに到着したあと私はメトロですぐにホステルまで戻った。明日はいよいよ帰国が迫っていたのだ、一通りの準備はしておきたかった。部屋に戻ると大概の荷物はまとめ、洋服やらその他のものを片付けた。最後の夜なので酒でも飲みたいと思い、ムフタール通り沿いのビストロに入った。店主は気さくなおじさんで私のことを温かく迎えてくれ、しかも英語が喋れる店員を担当につけてくれた。飲み物と食べ物を注文して待っていると私の鼻に一匹の蛾がとまった。店主はそれを見て「パピヨン!」と言った。フランスでは蛾も蝶もパピヨンと呼ぶらしい。日本では蛾は蝶と明確に分けられる。そう蛾ではダメなのだ、、
頼んでいたアルザスの白ワインとハムとポテト、その他に野菜のスープなどがテーブルの上を華やかに飾った。どれも最高に美味しかった。特にワインは最高で、余ったら誰かにあげようと思っていたが一人で飲み干してしまった。勘定を済ませ店を出る時、店主のおじさんは温かく私をハグしてくれた。ホステルまで歩いていると通り沿いは優しい灯りが溢れていた。まるでゴッホの絵にでてくるカフェテラスのような優しい光だった。酔いも回ってホステルの部屋に着くと私はすぐに寝てしまった。明日はいよいよ帰国だった。

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