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『プロ野球16球団拡大構想』〜書評♯1〜

今後の野球界が、ますます楽しくなっていきそうだ。王貞治の掛け声もあり、プロ野球セ・パ両リーグを合わせた現12球団から16球団へと、チーム数を増やす構想が水面下で進んでいるというからだ。

本書は、日本の文化とも言える「野球」の歴史を紐解き、野球界の今後の発展に期待が込められた本である。

野球が日本に伝わったのは1872年(明治5年)「ちょんまげ頭」がまだ残る時代に、アメリカ人教師ホーレス・ウィルソンが教育の一環として学生に「ベースボール」を教えたのを起源とし、その楽しさに魅了された人々が多く、野球人気に火がついていった。

野球人口が増えていくと、1920年にプロ球団が誕生し、その後も続々とチーム数も増えていきプロリーグが発足。戦後にはGHQによる後押しもあり、プロ野球黄金時代へと入っていく。

ここで著者の紹介をしておく。著者の安西巧は1983年に日本経済新聞社に入社後、企業取材の第一線で活躍した編集者であり、野球史をはじめ球団経営の裏側まで事細かに調べられた内容に感心させられる。

例えば、2004年「球界再編」では近鉄バッファローズとオリックスブルーウェーブスの球団合併を好機と見て、8〜10球団に球団数を減らし、1リーグ化を提唱する読売新聞社オーナーのナベツネこと渡邉恒雄をはじめとする経営陣と元ヤクルトスワローズ捕手の古田敦也が会長を務めていた日本プロ野球選手会との軋轢などの数々の人間ドラマが描かれている。

また、日経新聞編集者として様々な経済視点を持ち合わせており、横浜スタジアムを不動産物件として見たならば、土地は国有地、スタジアム(上物)は横浜市に所有権があり、施設の運営権は横浜市や大手企業など多数いて、権利関係が複雑な「面倒な物件」と言ったりとおもしろ発言もとびだす。

著者が強調しているのが、「モノ消費」から「コト消費」へと価値観が変化していく世のなかで、野球観戦は「コト消費」にうってつけであり、地方創生への一歩でもあるということだ。

4球団新設によって各地で観戦できる機会が増えれば経済効果に期待できる。ただ、一時的な盛り上がりだけではチームが存続していくことは難しく、やはり安定した球団運営があってこそ。

そこで広島カープが観客動員数を増やすだけでなく地域を巻き込んで地元経済を、盛り上げてきた実績を好例として挙げている。

ーー”マツダスタジアムでは2019年に年間観客動員数が222万人に達している。広島市の人口が当時約117万人である事を考えると地域人口の2倍の観客が足を運ぶ経済インパクトはかなりのものだ。

マツダスタジアムはアメリカメジャーリーグにある「ボールパーク」を参考に、「ちょっとびっくりテラス」を外野席に設け、そこではバーベキューやお好み焼きを食べながら観戦を楽しむことができる。そして球場の造りは選手との距離感も近く一体感のある空間となっている。

今はコロナで当時のように戻るにはもう少し時間がかかりそうだが、当時は球場の外でもパブリックビューイングで地元ファン同士が老若男女問わずに飲食やコミュニケーションを楽しんだりとお祭り気分になれる。

カープファンとなった女性が東京から広島への移住を決意したというから「カープ愛」恐るべしだ。

この様な、広島の取り組みを参考に、新球団をみんなの手で作り上げていくことで、カープファン女性のように球団に愛着をもつ人々も多くなり発展していくのではないだろうか。

少子化によって、野球人口も減少していく事が避けられない一方、球団数が増えて裾野がひろがるということはプロ野球選手になれる可能性も広がり、夢を持つ子供たちも増えていくことになるのは喜ばしいことだ。

球界全体のレベルは下がっていくことは否めないが豪快なホームランや剛速球を見て驚くだけが全てではない。

白熱した接戦試合にこそ感動が生まれ、それが醍醐味だと思う。泥くさく頑張ってプレーする少年野球や高校野球の甲子園がいい例である。そして時には珍プレーで笑わせてくれたりするのもご愛嬌ではないだろうか。

「ボールパーク」で楽しく観戦させてくれる球団が増えることに、野球ファンの一人として今後の動向から目が離せない。

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