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ショートショート「雨女と晴男」(約1000字)

「あれ? 雨かな」

 男は両手を広げて雨粒を確認した。

「参ったね……せっかくのデートなのに」

 男が肩をすくめると女は途端に顔を曇らせた。

「ごめんなさい!」

 急に頭を下げられたので男は慌てた。

「そんな……あなたが謝ることじゃないですよ」

「私のせいなんです!」

 彼女は顔を上げて言葉を続けた。

「私ってすごい雨女で……いつもこうなんです。嫌になっちゃう」

「雨女……ですか……?」

 男がきょとんとしているのを見て女は更に続けた。

「ごめんなさい、雨女なんて、非科学的で、信じられないですよね……」

「あ、いやいや、違うんですよ」

 男は会話を急ぐことなく、一度にっこりと微笑んで見せて、それから鞄の中の折り畳み傘を取り出して開くと、彼女の上に持っていった。

「僕はね、晴れ男なんです」

「え……」

 今度は女性がきょとんとする番だった。

「今日はちょっと雨女パワーに負けちゃったみたいですけどね」

 男はそう言って大袈裟に笑って見せた。

 女は何度か瞬きをした後、思い出したように傘の中で体を縮こまらせた。

「……あの……デート、どうしましょうか……? 私のせいで……こんな……」

「大丈夫ですよ」

 男は空いている方の手で胸を叩いた。

「僕はね、美味しいものを食べると空を晴れさせることができるんです。さぁ、ちょっと早いですけど、ランチにしましょう。こっちです」

 それから二人は相合傘をしながら飲食店へと向かった。

 そして雨音がかすかに聞こえる店内でゆっくりと食事をした。

 男は「たくさん食べれば食べる程よく晴れるんですよ」などと言って何品もたいらげた。

 デザートまで食べ終え食後のコーヒーを飲みながらしばらく会話を楽しんだあと、男は「そろそろどうだろう」と言って立ち上がった。お会計を済ませた後、男は外へ続く扉を開ける。それから女の方を振り返ってにこりと笑った。

 女も男に続いて外へ出て、そして空模様を見て顔を綻ばせた。

「すごい……」

 雨は上がり、雲間からは光がさしていた。

「晴男パワーですね」

 男は得意気な顔をした。

「あ……!」

 女が指差す方には大きな虹が掛かっていた。

「キレイ」

「……やっと笑顔になってくれましたね」

 男がそう言うと女は少し恥ずかしそうに顔を反らしたが、再び男と向き合って「はい」と答えた。

「雨女と晴男、2人でいたら虹女と虹男ですね」

 2人は手を繋いで歩き始めた。












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