「フィスト・オブ・ノーススター」観劇感想2022①

 こんにちは、雪乃です。お久しぶりです。

 さて、今年もやってきました。「フィスト・オブ・ノーススター 北斗の拳」です。私は9月30日に東京公演千秋楽を観に行っておりました。

 参考までに、初演の感想のリンクを貼っておきます。

 私にとっては初めてのオーチャードホール。正面の入り口がどこなのかもよくわからず、
東急の本店をぐるぐるしているうちに気がついたら着いてました。公式サイト見たはずなんですけどね……?
 
 フィスト・オブ・ノーススター(以下アタタミュ)といえば、昨年12月に日生劇場で上演された、「北斗の拳」を原作とするミュージカル。初演時に「作曲が大好きなフランク・ワイルドホーンだから」という理由でチケットを取ったところめちゃくちゃハマり倒して原作を全巻購入し、千秋楽のチケットを追加して計3回観た作品です。
 ちなみにアニメを見てサウザー推しになった結果、スピンオフのギャグ漫画「北斗の拳イチゴ味」の既刊を電子で全部買っていました。よろしくお願いします(?)。イチゴ味はユダのエピソードで無想転生の解像度が上がるので読んでほしい。

 今回の再演では上演期間が初演と比べて短く、なんと初日以外はすべて平日というスケジュール。いっそ全通ししたいくらいには大好きな作品ですが、さすがに今週は仕事の方もバタバタしているので、千秋楽だけ観に来ることにしました。

 初演からブラッシュアップされ、さらにパワーアップしたアタタミュ。初演とは演出が変わったりシーンそのものが追加されるなど、初演を観た上でもさらに楽しめる再演でした。

 初演の時点でも膨大な原作をまとめ上げる脚本はすごくわかりやすかったのですが、再演は初演よりも「行」がより緻密に作り込まれ、行間を読みやすくなったことでわかりやすさが増していたように思います。

 というわけで、初演との違いの話からしようと思います。

 最も大きな変化があったキャラクターがレイ。初演で伊礼彼方さんと上原理生さんが舞台化で拾われることのなかった原作の要素を拾いつつ作り上げたレイは、再演では三浦涼介さんにバトンタッチ。
 初演にはなかった、原作の「女性のふりをして盗賊をおびき寄せる」というシーンが追加されていました。またレイが盗賊が拳法使いと見るや胸の傷の有無を確認するシーンもあり、妹を殺した男を探し続けるレイの執念や復讐に生きる人生の凄絶さを物語っていました。
 レイの描写が増えたことでケンシロウとの友情やマミヤとの関係性にも一層深みが出て、牙一族編やユダ編がなくとも物足りなさがなく、レイがより奥深く作り上げられていたのがすごく印象的です。

 またジュウザの歌う「ヴィーナスの森」では、初演では森がセットだったのですが映像に変更。初演も好きですが、変更後は前後のシーンとの接続が途切れなくなったので私は再演の方の演出が好きです。

 原作にはあったものの初演ではカットされていた要素が拾われていたりするなど、より「北斗の拳」らしさを出しつつも1本の舞台としてわかりやすくなるように作られた再演でした。

 では、キャスト別感想を。

 まずはケンシロウ!初演でもその演技とダンス力、そして伸びやかな歌声に圧倒された大貫ケンシロウ。再演でもますますエネルギッシュで素晴らしかったです。
 原作では回想シーンとして登場するシーンが本来の時系列順で描かれるアタタミュ。ゆえに舞台版のケンシロウは、物語開始時点ではまだ完成された主人公ではなく、持っている拳の力に心が追いついていないような、そんなある種の未熟さすら持ち合わせています。しかしその「未完成さ」があるからこそ、ケンシロウの精神的な成長と救世主としての目覚めが明瞭に描かれています。またそれが物語の縦軸として機能することで1本のお芝居としてすごくまとまりがあるものになっており、その「縦軸」の強靱さを裏付けるのはやはり大貫さんが演じているがゆえ。
 そんなケンシロウの目覚めを象徴するのがやはり1幕ラスト。もうこの振り付けは大貫さんにしかできない、と思わせてくれる、圧巻のソロダンス。ラオウの強大な力を前に、大切な人の命が失われる瞬間を目の当たりにしたケンシロウ。そんな彼を、内なる何か――宿命としか呼ぶほかないエネルギーが、体の内側から彼の意志さえも突き破るように、肉体を動かしていく。初演ではケンシロウの本能そのものが彼の体を借りて動き出す印象を受けましたが、再演ではケンシロウすら知らない未知の力さえ感じ取ることができました。

 ユリア。東京千秋楽のユリアはMay'nさん。初演からの続投でうれしいです。
 初演の制作発表で披露された「氷と炎」でその歌唱力に圧倒され、May'nユリアの歌声を聞くために初演ではチケットを追加し、ゴールデンウィークの日比谷のイベントにも足を運んだくらいには大好きなユリアです。
 ケンシロウへ抱く、1人の人間としての等身大の愛と、慈母星の宿命を持つ存在としての、世界そのものを抱きしめるような愛。その2つを内包する繊細で柔らかな表現と圧倒的な歌唱力が再演でも遺憾なく発揮されていました。
 「死兆星の下で」で見せる姿は、荒廃した世界を月明かりのような清らかさで包み込むような、慈母星としてのユリア。「この命が砕けようと」では、命をかけてでも愛する人を守り抜きたいと決意を固めるユリア。慈母星としてまとう光の奥、あるいは南斗最後の将としての鎧の奥で静かに、しかし確かに燃え上がる熱を感じられるユリアでした。
 そして大好きな「氷と炎」!このナンバーで、ユリアが完全に「成る」のがすごく好きなんですよ。静かに燃え続けた炎が、ユリアが自身の残り少ない命を実感したことで、まるで超新星爆発のように燃え上がる。ケンシロウを愛する人間として、慈母星の宿命を持つ人間としてのユリアを経たからこそ完成する、命を得た愛としてのユリア。愛そのものがユリアという生身の肉体を得たことで時代が切り開かれる、そんな感覚を覚えるシーンでした。

 ラオウ!千秋楽のラオウは福井ラオウです。初演時からより磨き抜かれた気迫に安定の美声。これぞ世紀末覇者という風格に満ちたラオウでした。猛獣のような獰猛さと覇者たらんとする冷酷さ、そして何よりも北斗の長兄としての格を持ち合わせた福井ラオウ。そしてそんな彼がユリアに抱いた思い。愛ではなく支配だと言い切るラオウ、もう1周回って誠実。
 ただそこに立っているだけでも他を圧倒する強さはありつつ、そんな強さがケンシロウを前に少しずつ揺らいでいく、その過程にあるのはやはり愛と哀しみ。かつて命をかけて弟トキを守り抜いたラオウ。拳を磨けば磨くほどに犠牲を厭わぬ冷酷な鋭さを身につけ、そして硬くなっていった彼の心の内側が垣間見えるのが、やはり「兄弟の誓い」の後のトキとの戦い。彼にも確かに愛はあるのだと思える大好きなシーンです。体を愛えよ、と弟に声をかける姿を見ると、やはり「北斗の拳」における愛とは本能的に誰かを慈しむ気持ちなのだと感じることができます。

 トキ!トキ役は初演の加藤和樹さん・小野田龍之介さんから小西遼生さんにバトンタッチ。再演から参加の小西トキ、めちゃくちゃトキでした。日本のミュージカル界、なんでトキすぎる役者がすでに3人いるんだ。
 小西トキは、どんなときも自分の足でまっすぐに立つような、揺るぎない強さを持つトキでした。人としても拳士としても、そしてラオウの弟、ケンシロウの兄としても、とにかくブレることのない強さを持ったトキ。
 そんな小西トキですが、世紀末を生きる強さはありつつも、どこか常に銀色の光をまとったような存在。カサンドラに囚われているシーンでは、トキがいる空間だけ空気が違うようにすら見えたほど。「これが『銀の聖者(トキの外伝のタイトル)』か……」と思いました。「銀の聖者」、まだ読んでいないので読みたいです。
 初演では、ラオウに対して祈り願う静謐な曲という印象を受けた「願いを託して」ですが、再演ではむしろトキの覚醒の曲という印象。このシーンで思い出したのが、「ジーザス・クライスト=スーパースター」の「ゲッセマネの園」。ナンバーが属する文脈も意味も演出何もかもが違うはずなのですが、「願いを託して」のシーンのトキは兄弟の運命のみならず世界を背負っているようにすら見え、またそのようなトキだからこそ、ケンシロウに愛を託して散っていく姿に説得力がありました。

 シン。千秋楽のシンは上田シン。初演では一度しか拝見できなかったので、再演で続投になって嬉しいです。ダンスもお芝居も素敵ですが、「キャラクターの声」と「生身の人間の声」がちょうどよいバランスで両立しているあの声が初演から好きです。
 初演で作り上げた野心に溢れたシンの強さはそのままに、ユリアを前にしたときに出る素の部分というか、「KING」でいられなくなるシンがすごく好き。(「KING」という名称は舞台版では未登場ですが、シンを表す言葉としてこれ以上のものが見つからないので使っています。)
 ユリアの名前を叫ぶシーンの、あの喉が破れてしまいそうな叫びを始め、シンはユリアを前にするとユリア以外はもう何も見えなくなるというか。ユリアという存在だけで心に抱えられる感情のキャパシティが満たされてしまうところが、殉星の宿命を背負うシンらしい愛なのかな、と思いました。ケンシロウともラオウとも違う、ジュウザとも違う、彼なりのユリアへの愛。彼にとってはユリアがすべてで、ユリアこそが世界。与えうるすべてを与えることでしかユリアへの愛を表現できない、そんなシンの愛の解像度がすごく高かったです。
 そんなシンは、原作との違いが最も大きなキャラクター。原作では序盤で退場してしまうのですが、舞台では終盤まで登場します。
 舞台版のシンは、ラオウの陣営に属する人物。この行動に至った理由が、「愛するユリアが望む平和を実現できる『巨木』にラオウがなり得るかどうかを見極めたいから」というもの。ユリアへの愛をシンが生きる駆動力とする、原作の根底にある要素は押さえつつも舞台版のオリジナル要素の文脈が繋がっている点は、初演から好きなポイントのひとつです。

 レイ。三浦涼介さん、拝見するのは3回目。1回目は「1789 バスティーユの恋人たち」のロベスピエール、そして2回目は松竹版「るろうに剣心」の四乃森蒼紫役。私はロベスピエールを演じたときの「誰のために踊らされているのか?」のダンスがとても強く印象に残っています。あのシーンを観るためだけに帝劇通いたかった……!「るろうに剣心」でもアクションのスピード感やお衣装の着こなしがすごく素敵で、アタタミュの再演でレイ役に決まったと知った時はとても嬉しかったです。
 レイは前述の通り、初演と比べても登場シーンの増えたキャラクター。初演時は原作のエピソードが想像できるような余白を残したレイでしたが、再演では描写が増えたことで、アタタミュ版のレイとして、アタタミュのみでも完結するキャラクターになっていました。密度の高いレイだったと思います。
 再演で新たに追加されたシーンでマントを脱ぎ捨てた瞬間、完全に「北斗の拳の登場人物」が現れる凄みにまず圧倒されました。2次元から抜け出てきたようなビジュアルから「北斗の拳」の世界観が直球で出力される迫力たるやすごかったです。復讐に生きるレイが今まで歩んできた道の壮絶さが、限られたシーンでもしっかりと描かれていました。
 そしてレイといえばマミヤとの関係性。ケンシロウやマミヤと出会った、乾いた大地に水が沁み込んでいくような「過程」がしっかりと作り上げられたレイですが、マミヤとの関係もレイを描写するための「行数」が増えていたので、行間――描かれていないがあったであろうシーンが初演と比べて格段に想像しやすくなっていました。
 レイとマミヤは互いに痛みを背負いながら、少しずつ心を溶かし合っていくような関係性。マミヤに対して抱いている感情はすごく義星らしくて、恋かもしれないけれど恋ではなくてどこか不器用で。マミヤが戦うことや彼女の生き方は否定せず、ただマミヤが笑顔でいられることを願う優しさ。どこまでもまっすぐで、義星らしいレイでした。
 一番好きなのは、ラオウの闘気で倒された際に自分を心配するマミヤを見て「優しい顔できるじゃないか」と言ったシーン。このシーンだけで涙腺崩壊。書いているだけで泣けてきます。レイの愛が痛いほどに伝わってくる、彼なりの最大限の愛の言葉が響きました。

 そしてマミヤ。初演の松原凛子さんから、清水美依紗さんにバトンタッチしたこのお役。清水マミヤ、今回が初ミュージカルということですが、それをまったく感じないほどにはマミヤそのものでした。
 マミヤは原作とは描かれ方が異なるキャラクター。原作のマミヤはヒロイン性の強いキャラクターとして描かれていますが、舞台版マミヤは、世紀末を生きる1人の人間として立つ存在という印象を受けます。
 マミヤのカッコよさをそのまま声にしたようなまっすぐな歌声と、マミヤの傷や痛みをしっかりと掬い上げ、目を背けない嘘のないお芝居がすごく印象的。「心の翼」で響かせるマミヤの第一声から「抗いようもなく」のレイとのデュエットまで最高。
 レイとの関係も、ストレートな恋とはまた違う、痛みから始まる唯一無二の関係性。
テンポよく描かれていますが駆け足感はなく、むしろあの限られたシーンしかないとは思えないほど、丁寧に織り上げられていく関係性を堪能。レイがミュージカル版のみで完結するキャラクターになっていたのは前述の通りですが、マミヤもまた、あくまでアタタミュ版のマミヤとして完結しています。もちろん原作で補完すればより多様な解釈もできるんですが、令和ナイズされたキャラクター像としてはほぼ完璧と言ってもよいのでは。
 清水マミヤ、すごくよかったのでぜひエポニーヌを演じてほしい……!

 バット。バットは初演からの続投だったので、また渡邊バットを拝見することができました。今回も本当に、バットが目の前にいたよ。すごい。初演からバット過ぎてすごかったけど。
 もう何をしていてもバットそのもの。作画、あまりにも「北斗の拳」すぎません?
 再演のバットは、初演よりもより、子供から大人になっていく過程が明確に描かれていました。
 最初の頃のバットは、自分のことで手一杯。自分一人だけを生き延びさせるのだけでも精一杯のバット。世紀末という時代にあっては、きっともうそれだけでいっぱいいっぱいなんだろうなと自然と思えるようなバットでした。
 そんなバットがケンシロウやリンやレイ、マミヤと出会って、育ての親のトヨと再会する。そしてラオウを前にトヨは倒れ、レイもまた帰らぬ人に。先に逝ってしまった人間から託され、受け取りながら、自分以外の人生も引き受けて成長していくその過程。すべてのシーンを血が通ったバットの人生として生きてくれるその姿には、もはや信頼しかありません。というわけでこのバットでアタタミュ第2部はまだですか?ずっと待ってるんですけど……。

 トウ/トヨ。初演の白羽ゆりさんから、AKANE LIVさんにバトンタッチした2役です。トウは幼いころからユリアのお付きとして育ち、ラオウに思いを寄せ続けた女性。一方のトヨはバットの育ての親であり、なおかつマミヤの村で暮らす皆の親のような存在でもあります。
 まったく違う2つのお役ですが、初演の白羽さんに引き続きAKANE LIVさんもさすがの演じ分け……!別人が演じていると言われても全く驚かないほど同一人物に見えませんでした。
 役どころは違うものの、トウにもトヨにも共通していたのが、過去がとても想像しやすかったこと、トウがユリアと一緒にいる場面は限られているものの、幼いころからユリアのために生きてきたことがよく分かるトウ。一方のトヨも、バットと一緒に暮らしていた時期がちゃんと想像できて。余白はありながらもその余白を適度に埋めてくれるトウ/トヨでした。
 ラオウの本心がユリアに向けられていることを痛いほどに理解しているからこそ、ラオウの心が自分に向けられることは望まない。愛されなくとも愛することだけは命をかけてやる。そんなトウの生き様は激しくてどこか儚い。自分の胸にラオウの剣を突き立てて命を断つシーンは圧巻でした。

 リン。千秋楽のリンは、再演から参加の桑原さんでした。プログラムを見たところ出演歴に「アナと雪の女王」と記載されており、帰ってからアナ雪のプログラムを確認したところ、ヤングエルサ役でお名前のクレジットが。ディズニープリンセスを演じていたことも納得の透明感と芯の強さを持ち合わせた歌声とお芝居が印象的でした。
 リンが出演している中で一番好きなシーンは、やっぱりダントツで「最後の真実」。拳王軍に怯まず従わないリンの強さに周りの大人もまた勇気を得て、拳王軍に立ち向かっていく力強いシーンです。
 歌詞のひとつひとつの言葉を丁寧に真摯に紡ぐようなリンの歌声に始まり、最後もまたリンの歌声で締められる「最後の真実」。曲の最後の「選ぶ」の部分では、声で拳王軍を射抜くようなまっすぐな強さが忘れられません。
 今をまっすぐに見据える視線と歌声の強さと、エネルギーに満ちた指先。それらすべてで表現された「リン」という人間が、とてつもなく大きな存在として舞台に立っていました。

 ジュウザ。千秋楽のジュウザは、再演から参加の上川さん。劇団四季時代に「リトルマーメイド」のエリック役で拝見していた方です。あのディズニー映画から抜け出てきたかのような王子様がジュウザになると思っていなくてびっくり。しかもこの千秋楽、ラオウが「美女と野獣」のビーストですからね。ディズニープリンスが世紀末で戦っているという夢の共演。
 上川ジュウザ、すごく良かったです!初演の伊礼ジュウザ・上原ジュウザはともに大型犬のような愛嬌があるジュウザだったのに対し、上川ジュウザは猫のよう。気まぐれで自由で、捕まえようとするとするりと逃げてしまって、誰かの「唯一」にはなってくれない。だから追いかけたくなる。モテる理由がよく分かるジュウザでした。
 そんなジュウザですが、この作品で唯一、第4の壁を超えることのできる方です。要はメタ要素のあるアドリブを一番自由にできる役どころなのですが、これが本当に面白くて。四季出身ならではだったり、千秋楽であることを意識したようなアドリブがあり、めちゃくちゃ楽しかったです。
 アタタミュの中でも最も盛り上がるナンバー「ヴィーナスの森」。観客席を全員ヴィーナスにする勢いのジュウザ様がすごく素敵でした。ヴィーナスたちのダンスも、エネルギッシュでアクティブ、でも艶やかさがあって最高。
 そして南斗最後の将の正体を知ってからは一転、ラオウのもとへ闘いに赴くジュウザ。インストゥルメンタルのみの「ヴィーナスの森」をバックに、あくまで自由な「雲のジュウザ」らしさを失わない、しかし確かに熱い戦い。最後の一瞬まで熱く生き切ってくれる姿がかっこよかったです。

 リュウケンは、初演の川口竜也さんから宮川浩さんにバトンタッチ。リュウケンは物語開始直後の「北斗神拳!」という台詞を担うお役。世紀末救世主伝説の幕開けを告げるうえで、これ以上ないほどの貫禄と存在感を持ったリュウケンに心を掴まれました。
 重みのある渋い声で「北斗の拳」の世界へ観客を誘ったかと思えば、実は拳王軍の侵攻隊長役もされているのですが、その姿のギャップたるやもう。しかも侵攻隊長役では「あべし!」という断末魔と共に散っていくポジションなので、もはや1人で「北斗の拳」という作品を体現していると言っても過言ではないような気がしてきました。
 ……と、ここまで書いてプログラムを改めて確認したら村人と囚人もされていたんですね。完全に1人北斗の拳。
 ラオウとトキを崖から突き落とした時のリュウケンやラオウの夢の中にいるリュウケンまで、すべてのリュウケンが持つ原作から抜け出てきたような質感と実在する人間にすら思えてくる絶妙なバランスはやはり職人技でした。

 そして忘れてはならないのが、青年ラオウ&青年トキ!青年時代の2人は初演から続投。もうこの2人しか考えられないと思うほどにぴったりなキャスティング。青年ラオウを演じる一色洋平さんの強靭なフィジカルから繰り出されるアクションと力強い台詞回しはまさしくラオウそのもの。ただその瞬間を精一杯に生きる、いやそう生きざるを得なかった、そうでもしなくては生き延びられなかったラオウの青年期の解像度が高く、「兄弟の誓い」では涙が止まらなかったです。
 青年トキ役の百名ヒロキさんは、ピュアな歌声と立ち姿で、純粋に兄を想い生きてきたトキを体現。ラオウが道を誤ったときにはその拳を止めようと誓うシーンでは、世界にラオウとトキ、たった2人しかいないのではと思えるほどに完成された世界を見ることが出来ました。

 とりあえずキャスト別感想はここまで。本当は演出や照明についても書きたいのですが、あまりにも書き終わらないので別の記事で書こうと思います。あと実は配信の視聴チケットを購入しておりそちらもすでアーカイブを見たので、配信のほうも後で感想をちゃんと書きたいです。

 本日もお付き合いいただきありがとうございました。



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