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母になった瞬間のこと

ぷつん、とはりつめた空気がゆるんだ気がした。
強力なバキュームにおなかを絞られているような抗えない収縮と、股に大きなものが挟まっている強烈な違和感。それらが急になくなって、取り囲む助産師さんたちの空気感がふっとやわらかくなった。

わたしのお腹の中から出てきた彼は、泣いていた。
その声は想像よりもずっと力強かった。
彼から伸びるヘソの緒が、彼の動きに合わせてわたしのお腹の内側をひっぱるのを感じた。

助産師さんの手から、わたしの胸元にやってきた彼はもう泣いていなかった。
目が開いていなくて、しわくちゃで、ずっしりと重たかった。


君がわたしのお腹にいたんだね。
これからどうぞよろしくね。


かわいい、でも、いとおしい、でもない不思議な感慨だった。腕のなかの小さな命が、自分にとってこのうえなく大切なものなのだと、ただただ自然に受け入れていた。

子どもをかわいいと思えるのだろうか。母親としてお世話できるのだろうか。何ヶ月も悩んでいたのが嘘のようだった。

わたしから離れてすぐに、彼は指しゃぶりをはじめた。最初に着せてもらった服をあっという間によだれでびちゃびちゃにしてしまい、すぐにお着替えになった。
6ヶ月以降のエコーの写真はいつだって顔の前に手があって、写りのとびきり悪かった彼。やっぱり手が気になってしかたなかったんだね。


これからずっと、わたしは彼を愛しつづける。
すべてを受け入れて、信じつづける。

やがてそれをしんどいと感じる日がきても、はじめて出逢ったこの日のことを忘れたくない。

わたしたちは出逢うべくして出逢ったのだと、ごく自然に感じたこの日のことを。




最後まで読んでくださってありがとうございます! 自分を、子どもを、関わってくださる方を、大切にする在り方とそのための試行錯誤をひとつひとつ言葉にしていきます。