ゆっちゃん

※一部の詩は、媒体により不自然な改行となっていることがあります。

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哀しみの棲む家

 愛していても、二人は二人のままだった。 咲玖(さく)の薄い背をさすりながら、雪代(ゆきしろ)はそんなことを考えている。  誰かから特別に愛されてみたいと思っていた。そんなことは起こりえないと思っていた。二人で借りたアパートに燈が灯っていないのは、不在か哀しみの証明だった。不在なら何ということはない。再び灯せばいいだけだからだ。けれど、哀しみはなかなか灯せない。  咲玖はよく一人で壊れてしまう。粉々に、徹底的に。ばらばらに砕け散ったガラスを拾い集めるたびに取りこぼしが多く

    • 13. 落涙である私たちは

      君が、雨の日に限って雨水みたいに自然に隠れ家を後にするのを 5度見送って6度目に呼び止める決心がついた  雨の日を選ぶのは洗い流してくれる気がしたから  呼び止めないで欲しかった  雨水みたいに、何もなかったみたいに  また花に戻るつもりだったのに 目の前で人が傷つくことに傷ついて、傷ついている人を責めない理性が まだ私に残っていてよかった 君が君を嗤う姿に そんなもの捨ててしまえよって言っても君は救われない 一体君はたった一人で 何回雨に打たれてきた? 捨てられなく

      • 12. 音を塞ぐ

        崖下の親子をどう見ればいい? 愛する人の元へと一直線に駆けた 2人を何と言えばいい? 敵を殺し、味方を守れない戦場で その人は私の部下だった その人の戦死を伝えたとき 彼は私を責めもせず、ただ静かにうつむいた 怒りに何の意味がある? 悲しみは私を動けなくする 私は激情を動力にできない 立てなくなるわけにはいかなかった そのためには音だって捨ててよかった 両の耳を塞いで、刀を咥えてでも 私は立っていなければならなかった 敵の断末魔 味方の悲鳴 肉に刃が突き刺さる音

        • #4 海へ還る

          何海里進んでも、終わりの見えないような直線を太陽に向かって あなたは右から、私は左から歩き始めた。 人の一生はあまりに短く、 道半ばとも言えないほどの線上で 私たちは息絶える。 幸福なことに私たちにはそれぞれ 「次は私が歩きます」と言ってくれる人がいた。 死の論理に取り憑かれてはいないかと私が思った落日に 生の論理がそれほど正しいかとあなたが海を見る。 全てが一つに、たった一つになればとあなたが空を見る日に、 それは見果てぬ夢だよと私が地面に手をつく。 私が幼かった

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        哀しみの棲む家

          11. 音に曝す

          俺を庇って友が死んだ 俺を逃がして上官が死んだ 俺が殺した誰かの友を 俺が殺した誰かの大切な… 継戦のための補給は無かったし、 撤退命令は遅すぎた 奪われたことに傷ついている 奪ったことにも 傲慢にも 大国の蹂躙にもう一矢も抗えないこの国が、俺自身が、 憎くて、憎くてたまらなかった 俺はもう、立てない 隠れ家で聞いた雨音 その水の砕ける音 音だ、音が欲しい 砕け散る音でしか、俺はもう、立てない 最初は薄汚れた湯呑 次は意味を失くした徽章 隠れ家の窓硝子 廃

          11. 音に曝す

          10. 洗脳欲求

          「正しく洗脳されなさい」 「主体性を持ちなさい」 「周囲と足並みそろえなさい」 矛盾してると手を挙げる。 「染まれてないのね」と不気味に嗤う。 「正しく」洗脳されなければ、無力な子どもは生きていけない。 「正しく」生きていると、 それが「間違っている」と知る人たちから石を投げられる。 「この道を行きなさい」  用意された道しか行けない奴が 「自分で選んだ。そうでしょう?」  自分で手にしたわけではないくせに 「気づく必要なんてない」  駒としてしか生きられないくせに 「使

          10. 洗脳欲求

          #3 Requiem 5, 結びに代えて

          困ったことに、君はそれほど死を嫌がっていない。 これでよかった90% 心残りは10% まあ、許容範囲内かな、と君が笑うから 復讐の口実がひとつ減る。 復讐なんて愚かだね。 死者の無念を晴らすなんて、死者をわかったつもりでいる。 それに支えを見出さなければ、立っていられない悲しさも知らずに小石を蹴とばす、幼い日の私へ 「死者の無念を晴らす」は「会えなくなって淋しい」と同義語だよ。 「失ってみなければわからない」なんて使い古された言葉を現実にしてしまったね。 会えなくな

          #3 Requiem 5, 結びに代えて

          #3 Requiem 4, 解釈する私を

          「たとえどんなむごい死に方をしても、自殺でも他殺でも事故でも、死ぬ直前まで私は生きて、満足して死にました。だからどうかつらかっただろうとか、苦しかっただろうとか、私を解釈しないでください。私を解釈することで、あなたの道を苦しいものにしようとするのはやめてください」 生きているときはそんな権利がないことを知っているのに、 死んだ瞬間、人は人から哀しみを奪う権利を得たと錯覚してしまう。 身勝手な私の遺書。 口がないのをいいことに、 聞こえないのをいいことに 苦しむ権利さえも

          #3 Requiem 4, 解釈する私を

          #3 Requiem  3, 星が星型なんて

          望遠鏡で見る星はたぶん歪な球体で、 星型の星なんて絵本の中にしか登場しないのに、 勝手にあれを「星型」なんて名付けるのは人間のエゴだ。 それに勝手にいい意味を与えて、 逆だったら悪魔崇拝だよなんて人間は身勝手だ。 人間を思いやる星があったとして、 その星の思いが私たちに届かなくても、星は満足するだろうか。 満足するかどうかなんて…やっぱり君も人間だねと咎められるだろうか。

          #3 Requiem  3, 星が星型なんて

          #3 Requiem 2, 閉じられたままの本

          5歳の君は、15歳の君より怖い瞳をしていた。 15歳の君は24歳の君より強い痛みをぶつける方法を知っていた。 24歳の君はもう声をあげて泣けない大人に育ってしまっていて、 そのページがまさか来年切り取られるなんて思いもよらなかっただろう。 明るい午後の日差しと一緒に思い出されるなんて癪だと、君はわざとらしく顔をしかめて、それからはじけるように笑うだろうね。

          #3 Requiem 2, 閉じられたままの本

          #3 Requiem 1, 子供は嫌い

          私は君のこと、苦手だった。 覚ったような子供は嫌い。 諦めたような目の子供も。 「この子をこんな目にした奴はどこの誰なんだ!?」と思い、 私たち大人だと気づいて死にたくなる。

          #3 Requiem 1, 子供は嫌い

          9. 死者の声

          他人の痛みを全部受け止めるなんて無理だよ。 海にだって限界は来ているし、 きっといつかは空も。 あたしは弱い。 でも、死ぬまで生きるを選んだんだ。 だから死者の声は聞かない。 君の痛みは聞いてあげるけど、受け取ってなんかやらない。 それでもいいなら、肩ぐらいは抱いてやる。

          8. 蝶々の君へ

          風に命を委ねる桜 夜空に同化する花火 農夫に踏まれゆく霜 温みに殺される雪 消えるきえるキエルキレイきれい綺麗 窓枠にもたれかかるようにして歓楽街を見ている。 嘲り?憧れ?無感情? 「なあ、どう思う?」 綺麗で、正しいと思うよ。 だって人生は一瞬の積み重ねだもの。 苦より楽を重ねるほうが私には正しく見える。 悲痛 怒り 諦め 嘲り 「悔しくはないの?」 何が? 「大義が否定されたこと」 大義があったとでも? 「人が死んだこと」 人は、死ぬものさ。 「俺たちはこんなに苦

          8. 蝶々の君へ

          7. 幸運を乗せて、彼女は

          むかしむかしの話です。 船がいくつも沈むよな 水が命を奪うよな 悲しい戦がありました。 悲しい戦のただなかで 唯一沈まず、浮き続け 多くの仲間と人間を 傷つきながら見送った 悲しい船がおりました。 その子は戦に負けた後 異国へ譲られ、名を盗られ いらなくなって捨てられて、 その地の海に沈んだそうな… 昔話を思い出す。 夜風が髪を撫でてゆく。 遠くなりゆく蝉の声 首に冷たい刃が触れる 沈んだあの子と同じ名の 少女が私に「来い」という カルミアの花が呼んでいる 「死を恐

          7. 幸運を乗せて、彼女は

          6. 滅びの一族

          死して償う 男の論理 果敢なく甘美な酒の味 奪え奪えと命じつつ 錦の脆さを知っている 報いは受けねばなりませぬ 受けても罪は消えませぬ 報いは受けねばなりませぬ 報いは受けねばなりませぬ 滅びの一族いつの日か 焼かれて堕ちると知っている―― 「あの家の者が火をつけて…」 「あなた以外の人たちは…」 ――一所に逝けると誰が決めた 独りで生きよと神が命ず 生きて償え 神の論理 紅く空虚な鉄の味

          6. 滅びの一族

          5. 生活

          肉体労働のいいところは 思考と運動が連続しているところだ 動きながら考え、考えてはまた動く 身体を動かすための思考 身体を動けなくするためではなく 繰り返し、繰り返し 日が落ちるころにはちゃんと 眠る準備ができている かつて人は、思考を断ち切る準備ができていた 朝、扉の外を満たす空模様を感じ 昼、休憩室までの道のりで花や虫が季節を歌う 夕暮れの風、匂い、一番星が 今日一日を生きられたことをただの愛で教えてくれる 生活 ただ終わるまでの繰り返しに小さな優しさを 愛