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ぼうぼう頭も紙一重

かなり前から一度会いたいな、お話してみたいな、なんだったら飲みに行きたい!あわよくば友達になりたい!と図々しくも思っていた人がいる。

顔出しはしていないので勝手に想像をふくらませ、ロマンスグレーが似合うしゅっとしたおじさんと思っていた。そんなちょっとした憧れを抱いていた人にインタビューをする機会がきた。

最初、名前をみたときに

「いやいやいや、憧れの君ではない。そうに違いない」

と思ったのだが、取材依頼するときに書籍などを調べていくうちに憧れの君というのが発覚。

アポをとるために電話をするときも心臓が飛び出ちゃうんじゃないかというくらい爆発していた。電話の声はとてもおだやかで落ち着いていて優しい声音で超ジェントルマン!やっぱり、ロマンスグレーをきちんと整えた、しゅっとしたコートを着こなすおじさまなんだ!と期待値爆上がり。

取材当日は初めてのデート並みに念入りに洋服選び、なんだったら髪の毛にアイロンまであててスタンバイOK。チョメチョメを期待するとかそういうんじゃなくて、憧れの君に
「なんだ、このちんちくりんは!」
と思われないように、ちゃんとインタビュアーとして認めてもらいたい?なんの承認欲求なんだ?と自分で突っ込みつつ、当日を迎えた。

電車に乗り、空いている座席にちょこんと座り、気持ちを落ち着ける。ドキドキのみならず、自然と顔がニタニタしてしまい、かなり変な女状態になっているのでリラ~っクス、リラ~っクスと唱える。

すると、向い側に座っているおじさんに目が釘付けになる。おしゃれなかばん持っているのに、白髪交じりの髪はぼうぼう、右へ左へとふねこいでいる。隣の若い女の子がものすごくいや~な顔をして席を立つぐらいのふねこぎ。うん、わたしもあのふけでも出そうな頭が肩につくと思ったら立つな。

かばんとか靴はよさげなのになぜあんなにぼうぼう頭なんだろ・・・憧れの君とは程遠し・・・

なんて思っていたら駅に到着。
すると、ぼうぼう頭のおじさんも慌てて降りる。

おじさんの行先なんて興味もなかったのだが、目的地に向かうべく改札をでるとぼうぼう頭のおじさんがすたすた改札をぬけていった。
あれだけ寝てたのに、寝起きばっちりなんだなと感心。

すたすた歩くものの、信号で引っかかって結局一緒になる。それにしてもどこまで方角が一緒なんだと思いきや、取材先のビルに入っていくではないか。

まあ、もうここでおわかりかと思うが、ぼうぼう頭は憧れの君だったのだ。

先日、逝去された小澤征爾さんばりのぼうぼう頭。普通のおじさんだと、散髪をさぼっているだけ、髪を整えるのもめんどくさいほど生活がすさんでいるなんて思うのだが、小澤征爾さんや憧れの君となると、ノーベル化学賞なんかをとっちゃう博士のような気がするんだから不思議である。

憧れの君であればぼうぼう頭でふねこいでも、どうぞどうぞと肩を差し出すし、なんだったらお疲れを癒してあげたい。

インタビュー中も頭をかきかきしていたが、ノープロブレム。仕事の勲章のようにさえみえる。おじさんのぼうぼう頭は紙一重だ。

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