ゴルゴ13とビートルズと金髪先生
私は高校生まで両親、弟、母方の祖父母そして、母の弟(おじさん)と住んでいた。
おじさんとは、おじさんが結婚するまでの3年ほど同居した。おじさんといっても20代前半で、サラリーマンをしながらバンド活動もこなす若者。部屋には無数のコードがゴロゴロ転がり、同じような見た目のギターがずらりと飾られていた。
壁一面を埋め尽くす棚には楽譜のほか、枚挙にいとまがないほどの漫画もずら~りと並び、興味のかたまり小学生だった私には秘密基地のようなものだった。
部屋に充満するたばこの臭いをかがないように、鼻にティッシュを詰め込みながら部屋に忍び入り、ギター片手に一人バンドマンごっこをしたり、漫画棚に陳列するDr.スランプアラレちゃんを読んでは笑い転げていた。アラレちゃんはあっという間に読み終わり、次は何を読もうかな~と物色するも強面の絵面の漫画ばかり並ぶ。どうも惹かれる漫画がないと思いつつも、目に留まったのが「ゴルゴ13」。ルパン三世に似た絵面とゴルゴと13の関係性が無償に気になり、読み始めた。
ゴルゴ13が世界への扉を開いた
かわいい盛りの小学女子が読む漫画ではなかったが、この漫画が私を世界という大舞台へ導いてくれた。
ナチスドイツ、イギリスポンドの偽造、ゴルゴ13とかいうわけわからん名前など、内容は意味不明だったけれども、異国の風景や主人公の顔のホリの深さが際立つイラストにのめりこんだ。
時間を忘れて読みふけり、帰宅したおじさんに部屋に入って遊んでいることがばれ
「俺の部屋に勝手に入るな!あと、女の子がこんなもん読むな!」と怒られていた。
ドイツという名前の国には、日本では見たことがないとんがったごつごつした装飾の建物(おそらく教会)があり、ホリが深くて、眉毛が太くて、体が大きい人がいる!
ゴルゴ13の内容よりも、異国情緒たっぷりのイラストを見て、海外へ思いをはせた。
ビートルズで英語熱開花
さらに海外熱を高めたのが、おじさんの部屋から流れてくるビートルズ。
ドアに耳をくっつけ、一生懸命聞きとろうとするも何を言っているのかさっぱりわからない。日本語しか知らない少女が初めて、異国の言葉に触れた瞬間だった。アップテンポだったり、聞かせるメロディーだったり、歌詞がわからないなりにもビートルズの音楽は聴いていて心地よかった。
おじさんがいないときは勝手に部屋に入れるけど、いるときに部屋に入ると怒鳴り散らされるから、ベランダからこっそり盗み聞きをしていた。
お気に入りは、Hey Jude。なんで好きだったかというと、この歌だけ日本語っぽく聞こえるフレーズがあったから。
♪ヘイジュード、小麦パン~♪ いわゆる空耳アワーというやつだ。今でも、小麦パンに聞こえてしまう不思議な曲。ヘイは問いかけ、ジュードは名前っていうのは英語がわからないなりに察知したものの、なぜ小麦パン???とものすごく気になったものの小学生には調べようもない。おじさんに聞いたら、またうるせ~とか言われるだろうし・・・
とジュードと小麦パンの関係性にもやもやしながら、中学校入学。入学前の教科書類調達のときに英語辞書をゲット。お母さんもビートルズファンだったこともあり、ヘイジュードの歌詞を調べてもらい、小麦パンが
don’t make it bad
ということ知る。
英語を勉強する前だったため、熟語もわからず、一語ずつ辞書をひく
おい、ジュード、悪くない
悲しい歌もよくなる
思い出せ、彼女を自分の心に
よくなり始める
みたいに訳したはず。無茶苦茶な訳だったものの、なんとなく失恋したけど頑張れというエールのような歌詞といったのを感じ取り、一人感動した。
英語の文法の勉強は好きじゃなかったが、英語歌詞の翻訳にどっぷりとはまったおかげで、英語の成績はうなぎのぼり。
そうなってくると欲がでてくる。
「外国人と英語でぺらぺ~らと会話したい」
今のように英会話教室なんてしゃれたもんはなく、秋田のド田舎に外国人なんているわけもない。英語をしゃべる機会は皆無。
いつになったら外人と英語で会話できるんだろうと悶々としていた中学2年生のとき、チャンスは突然やってきた。
ミシェルと奇跡の会話が成立
中学時代の英語教師は
「ディス イズ ア ペン」
という日本人的な発音だったため、カセットテープの発音とどうしてこんなにも違うんだ!とちょっとなめていた。
自分で発音できないくせに、
「ビートルズはこうじゃないんだよな~」
といっちょ前に文句垂れていたら、なんとカナダから本物の外国人がやってくることになった。
初めて生で外国人をみたときの衝撃は忘れられない。きらきら輝くリカちゃん人形のような金髪。ビー玉をはめ込んだような青い目。ゴルゴ13と同じくらいの彫りの深さに、秋田美人もびっくりの透き通るような真っ白い肌。
まさに天女が舞い降りたかのようと書きたいところだが、ビヨンセ並みのゴージャスバディーだったため、お尻のでかさのわりに足首が細いというアンバランスバディーにもびっくり。
黒船来航で江戸の人たちが、初めて外人をみて七転八倒したときはこういう気持ちだったのかと江戸時代にタイムスリップ。
早く自分のクラスに来てくれないかな~と首をなが~くして待つこと1週間。
ミシェルがいよいよわがクラスにやってきた。
「ハ~イ!アイムミシェル。ハウアーユー?」
とカセットテープとビートルズでしか聞いたことがない本物のイングリッシュを聞いて身震いした。
「あ~これが本物の英語だ。すごすぎる。しゃべりたい!」
と思うも、40人の生徒がいるクラスで一対一でしゃべる機会なんてそうそう訪れない。なんとかしてしゃべれないものか?と、恋しくて仕方がないミシェルの顔を見つめただけで授業が終わった。
その後もなんとかミシェルとしゃべれないかとミシェルの周りをウロチョロしてみる。すると、さすがにいつもうろうろし続ける女子生徒が気になったのか、目があうようになってきた。ミシェルが
「は~い!」と言いそうなシチュエーションもあったが、今度は話しかけられたら、なんと答えたらいいのか?と不安になり、ウロチョロはし続けるも、目が合うと逃走するというわけのわからない行動をし続けた。
そんな怪しい動きをし続けるも、ミシェルの滞在はたった2週間。私の恋は成就しないのか!と嘆いていたミシェル最終日に奇跡は起きた。
日直だった私は、担任に日直簿を渡しに職員室に向かった。英語担当だった担任は、もちろんミシェルとも仲良し。私が職員室にいったまさにその瞬間、二人が立ち話をしていたのだ。
ああああああ!こんな急にビッグチャンスが訪れるとは!どうしたらいいんだと、頭の中でいろんな考えがぐるぐると駆け巡り、右脳と左脳が大暴走をしつつ、茫然と立ち尽くしていると
「ハ~イ!ホワットアー ユー ドウイング?」
ミシェルから声をかけられた!どうするべ?どうするべ?この場をどう乗り切れば?と大混乱。すがるように担任に目を向けると、ただニヤニヤするばかり。
落ち着けゆきんこ。ドゥーイングがつくとどんな意味になるんだっけ?Whatは何だから、なんの用だよ?とかそんなんだな!と意を決して、初めて外人に英語で返答したのが
「アイ ウォント トーク トゥ マイティーチャー」
すると、すぐさまビッグスマイルとともに
「オーケー!ゴーアヘイド」
と言って、立ち去った。ゴーアヘイドの意味がよくわからなかったのだが、夢にまでみた外人とのおしゃべりに心臓バクバク。しかも、どうやら通じた模様。その高揚感がばっちり顔に出ていたのか
「きちんと英語で答えてましたね!グッド!」
と担任からお褒めの言葉。
ミシェルとの会話とは程遠い、ちょっとした挨拶ができたただけなのに、自分の英語力にすっかり自信がついた。
いつか海外に行って、巻き舌を駆使して、かっこよく外人と英語でトーキングしまくるぞ!と決意したミシェルとの英語あいさつ。
10数年後、ニュージーランドにわたり、ぺらぺ~らとまではいかないまでも、外人たちと仕事をし、アフター5に飲みにいけるまで成長した。ただ、ずっと文法の勉強は嫌いだったため、友人たちに
「ゆきんこの英語って文法めちゃくちゃだし、なんか古臭い言い回し多いし、聞いててかなり面白いんだけど、言いたいことはめちゃくちゃ伝わるんだよな~。単語のチョイスがいいんだろうね」
と褒められた気がしないコメントをいただいた。言い回しが古いのはビートルズの歌詞が先生だからに違いない。
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