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作る過程もトークも料理のスパイス

20代のころ、会社のセレブ風秘書たちがトイレで何気なくしゃべっていた会話にびびったことがある。

「機内食ってまずいから食べられないよね。私、ラウンジかレストランで食べてから搭乗する」

まずい?!あんなにおいしいものが???

ちなみに私はこのセレブ風秘書たちの会話に入っていたわけでなく、ドラマにありがちな、おなかを壊して一番奥のトイレでうなっていたときに盗み聞きしていた会話である。

長距離フライトの楽しみが機内食だった私は、おなかをすかせて飛行機に乗るのが定番。長距離フライトであれば、朝、夜のほかデザートに軽食まで無料で食べ放題だったし、アルコールも飲み放題。お金払ってるしね~とばかりに、元を取らねばと貧乏根性丸出しで、食べて飲んで大いにフライトを楽しんでいた。

ニューヨーク行のフライトで横にのったアメリカ人のおじさんが、Chicken or Beefとスッチーに聞かれ
Both(両方)
と笑顔で答え、本当に2つ提供され、食べている姿を目撃したときは、

機内食っておかわりできるんだ!

とさらに味をしめ、バリバリ食べ散らかしていた。ちなみに、余っているときは食べられるけど、満席のときは両方どころか選べずに必然的に余っている方がくることもあり。

食べても食べてもおなかが満たされず、何もしない機内でも与えられるものはすべて受け取り、完食していた20代。質より量でお店を選んでいた私だったがさすがに40歳を超えてくると、油っこいものやスイーツを食べすぎると胃もたれするようになった。
若かりし頃、このくらいの量で満足できる体であれば、もっとモテたかもしれないのに・・・という話はおいておいて。

飲む量も食べる量もそれほどいらないとなれば、量より質。
おいしいものをゆっくり時間をかけて食べたいと思うようになってきた。

そんな大人の階段を登り始めた(←遅いけど)私が親や友人にすすめたいお店が「和肉食堂www」だ。

「食堂」「www」に騙されてはいけない


いっちょ前に

「料理は量より質ですよ」

なんて大人の女風を吹かせていたら、

「お!じゃあ、会員限定の大人の隠れ家に行くかい?」

と誘ってくれたおやじさん。

へえ、どんなお店ですか?と聞いた店名が和肉食堂www

食堂って言われると、どうも安いのうまいの早いの~というイメージがあるし、wwwもふざけてる感じがしないでもない。いや、人は外見で判断しちゃいけないっていうし、店名だけで判断しちゃいけない。

場所は大阪の心斎橋。古びた4~5階建ての細長いビルが連なる東心斎橋のビルの4Fにお店はある。

これまた狭いエレベーターに乗って4階にいくと目の前に達筆な「和肉」とwwwを組み合わせたアートのようなロゴがドーンと出迎えてくれた。

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細長い入口を抜けた先には、L字カウンター。

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8席のみの特別感。これぞ、まさに大人の隠れ家。

テーブルには謎のQRコード

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これはなんぞや?という表情でわかったのか、店主が

「メニューになります」
大人の隠れ家風の店はメニューはスマートにってやつですね。

メニューといっても選ぶのではなく、本日のコース料理の内容。
和肉食堂wwwはコース料理一択のみ。完全に大人のための大人による大人の食事処だ!

とうとうこんなところで食べられるようになったかあたし!とにんまり。

ちなみに、料理の準備を始めるシェフに
「wwwって料理でたくさん笑っちゃってくださいって意味ですか?」とすっとんきょうなことを聞いたら

w:つながりの輪
w:粋な和食の和
w:笑顔(わらう)のわ

なんだそう。失礼いたしました。

旬の食材を感じる、味わう


カウンターのお寿司屋もほぼ行ったことがないのに、こんな上品な空間で食事をいただくなんて、どういうお作法が必要でしょ?なんてもじもじしていたものの店主はそんなことはおかまいなく、にこにこしながら見せてくれたのが、稚鮎。

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「今が旬の稚鮎をこれから揚げていきますね」

料理する前に食材を見せてくれるにくい演出。
しかも、「旬」というパワーワード。

私「和肉にはこだわりがあるんだろうなと思って来たんですけど、旬の食材と織り交ぜた料理が出てくるんですね」

シェフ「和肉だけだと飽きちゃいますよね(笑)。季節を感じてもらいたいなと思って、旬の食材と和肉を組み合わせたものを提供しているです。
コース料理一択ですけど、定番メニューを抑えながら、毎月旬なものを模索してメニューを変えています」

たくさんのメニューの中から選ぶの楽しいが、コース料理一択で次々とシェフおすすめが出てくるのもこれまた楽しい。

ついつい物珍しくて、カウンターの中にいる店主にあれやこれやと話しかけてしまうものの、いやな顔せず、しかも手は止めずにきちんと答えてくれる。これができる男の仕事ってやつです。

カウンターには店主ともう一人のシェフの2名体制。

パチパチっとおいしそうな音を響かせて稚鮎を揚げるシェフと食材を美しく芸術的に盛り付けていく店主。

一つのものが出来上がっていくさまを見ているだけでわくわくするし、美しく盛り付けられた料理の味わいを想像するのも楽しい。

稚鮎は、抹茶塩をまぶして揚げているのでそのままお召し上がりください」

と出てきた1品め。

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青紅葉なんかを飾っちゃったりして、目でも季節を感じられる。

稚鮎は揚げたててカリカリ、鮎独特の内臓の苦みはちょっとしたスパイス効果な感じで食べやすい。

ジュンサイは食感シャキシャキ!
鱸の昆布〆ユッケを食べたときに、驚いた顔をしながら食べていたら

弾力あるでしょ?昆布で〆ると淡泊な味わいに深みが出るんですよ

そうそう、それ!なんでこんな味なの?と聞こうと思ってました!
かゆいところに手が届く、いや口に届く。

笹の葉は飾りかなと思い、ご馳走様して箸を置くと

「あけてみてください」

と言われたのでいわれるがまま開けてみると

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わ、和牛!!!

「うちは八重山郷里牛を使っているんですよ。たたいているので甘味があっておいしいですよ」

美しいビジュアルに目が釘付けになり、シェフの言葉をスルーしてしまったので2度同じことを言わせてしまった。
口の中でとろける和牛のうまみ。おいしすぎて、目をあけてられず天を仰いでしまった。

全部一口サイズなのに、少しずつ目で舌でゆっくり味わったからか1品目から大満足。

イケメンウェイターが美しく盛り付けられたお皿を丁寧にサーブしてくれるのももちろんいいが、一つ一つの食材や調理法を見てから食べると味わいに深みが増す。

美術館や博物館もただ単に見るだけよりも作品の背景などを理解してから見るとより深く作品に感情移入できるし、楽しみ方も変わってくるというもの。

料理もただおいしく食べるだけじゃなく、食材の特徴、産地、シェフが考え抜いたスパイスの調合、揚げ時間や盛り付けなどそういったものを見聞きしながら食べるとまた違った味わいになるんだなと新たな発見。

コース料理のあれこれをダイジェストで


あんまりネタばらししちゃうとお店にいく楽しみがなくなってしまう&出し惜しみするためにこの項は写真でどうぞ(笑)

八重山郷里牛生春巻き

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うまみが強い部位三角バラといくらの組み合わせ。三角バラが生春巻きにそって巻かれているのがわかるだろうか。チリソースではなくピリ辛ポン酢でいただく。

穴子と山菜のグラタン

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グラタンなのに濃厚さはなく後味さっぱり。なぜなら魚介スープが入っているから。お見事!


wwwロール(わわわロール)

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店名が入っているということで店主懇親の肉ロール。
食べたらわかるワサビ菜と肉コラボのすごさ。

ぐい飲み味噌煮込みスープ

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味噌汁?肉スープ?の融合!

15年熟成?!肉じゃが

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おもちのような食感のじゃがいもの中にまさかの肉じゃが!


グラタンコロッケサンド

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肉みそとマスタードとコロッケが三位一体。
このサンドイッチ、ほかでは食べられまい。

八重山郷里牛肉みそ煮込み&かけるグラタン

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ホワイトソースを混ぜたチーズをとろりとかけバナーで仕上げる一品。じゅるじゅるっと焼けていく音と香りが食欲をビンビンに刺激してくる。
目の前で仕上げるってのが、セレブっぽくてなぜか背筋ぴ~んとして出来上がりを待ってしまった。

出てくるたび、食べるたびに驚きの連続。食べている途中も次の料理に取り掛かる店主の手の動きが気になって仕方ない。

質問もしたいし、ゆっくり食べたいし、店主のパフォーマンスもみたいし忙しいのなんの。嬉しい悲鳴です。

牛肉といったらすき焼き

牛肉といえばステーキだが、分厚いのは歯にはさまるし、嚙み切れないものもある(←安いの食べてるから)すき焼きのほうが好き。

と思っていたらメインに出てきちゃいました!待望のすき焼き。

しかも、切りたて一番とばかりに目の前で豪快にカッティング

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この断片。たまらない!

鉄なべに美しい和牛を並べて割り下をそろりそろりと入れてくと

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鼻腔をくすぐるどころか、鼻の奥まで刺激してもう待てない!ジュージューという音まで芸術作品。

赤彩卵という甘味旨味がこゆい卵にくぐらせて

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言葉になりませぬ。入れ歯でも食べられる柔らかさ。

卵はもったいないので、最後に卵かけご飯、いや、卵にご飯をトッピングして混ぜ混ぜして食べた。

〆のデザートまで抜かりなし

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こだわりの食材のバックグラウンドを聞いたり、シェフ渾身の味付け、盛り付けを目で楽しんだり、出来立てほやほやを舌で味わったり、食事というのは時間をかければかけるほど味わい深いものになるんだなとしみじみ感じたコース料理。

実はフランス料理など、一品ずつゆっくりサーブされ、最後のほうにメインが出てくるようなものが苦手で、ちょっとずついろんなものをあっち食べこっち食べする迷い箸的な食べ方がお好みだったが、ようやっとコース料理のよさを体感した40代(←遅い)

一人カフェは得意でも、一人ごはんになんとなく抵抗を感じてあまり積極的に一人外食はしてこなかったが、シェフと対話型のカウンターごはん、これからマイブームになりそうな予感。

次なる野望は、何も言わずとも食前酒が出されちゃう常連客という肩書。ちなみに、和肉食堂wwwは会員制。といっても一休や食べログにも掲載されているため、会員じゃなくとも予約はできる。

初回のコース料理のお値段14300円、それに会員証:3300円

最初の来店時はちょいとお高いが、一度会員になってしまえば永久会員。2回目以降は11000円也。

11000円であのクオリティーの和肉が食べられるのはお得。大人の階段を登ってみたい人、自粛後は自分へのご褒美にいっちょ奮発してうまいもん食べたい人はぜひに!


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