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【曲紹介】 キミらしく生きて

作詞:宏川露之、ein himinn 作編曲:ein himinn
vocal:初音ミク
収録作品:キミらしく生きて

「〇〇らしく」という言葉が苦手です。
もとい、「〇〇らしく」という言葉をたやすく使う人が苦手です。

もしも僕が「キミらしく生きて」良いと言われたら、1日中寝たり好き勝手したりして過ごすはずです。でも実際はそんなことできるわけもなく、ありふれた今日を生きていくしかないのです。

志が高く、背中を押すような力強いメッセージも勿論大切ですが、たまには平凡で退屈な「キミらしさ」を讃える応援歌があっても良いのではないでしょうか。これはそういう曲です。
(ein himinn)

□歌詞
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「自分らしさ」とは「誰からしさ」でもあります。誰とも重ならない「らしさ」なんてほとんどないからです。
だからといって、自分だけの「らしさ」を作り上げようと、プロフィールに「自分らしいもの」を列挙しても、むしろ無数のありふれた「らしさ」に「自分らしさ」引き裂かれるだけのように思えてなりません。

そんな、アイデンティティをめぐる闘争に終止符を打つような言説はあちこちに転がっています。歌の分野で言えばメッセージソングの形をとっていることが多いでしょう。
でも、僕自身、ただあるだけの自分を肯定してくれるような歌や言葉を信じることはできませんでした。

キミは生きている それだけで キミらしい
その日々の挫折すらもまた キミらしい
終日ベッドの上でも キミらしい
呼吸さえしているなら キミらしい

この歌詞に僕のメッセージソングへのイメージをまとめました。
何かをしたいと思っていても、何もできずにいる自分。そんな自分を肯定してくれるような言葉は、むしろ呪いのようでもあります。
自分を知らない人が自分に向けて語った風の「キミ」なんて言葉ほど疑わしいものはないです。

では、アイデンティティとどう向き合えばいいか。その答えに据えたのが、下の一行です。

諦めて 強がって もう一度 「ワタシ」 から やり直して

まずは失っていた人称を取り戻すところから全ては始まるのだと思います。
(宏川)

□音楽
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ユキニフルの音楽をざっくりと動と静で分けた場合、後者の方が多い印象ですが、この曲は珍しく動的でダイナミックな部類に当てはまると思います。
その理由の一つが語感で、特にサビではメロディに対して歌詞がすっぽり収まるような気持ちの良さを意識しています。

実際に口に出してみるとリズムのフローが生まれるような感覚があるはずです。ブレスポイントがほとんどない曲なのでそもそも人間が歌うのはかなり困難ですが。

それと、この曲では随所で転調を行っています。
自分らしさとはいったい何なのか、四苦八苦しながらそれを見つけようとしている心象が伝われば幸いです。
(ein himinn)

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