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黒の歌鳥があまりにも美しすぎた(前編)

※↑この曲を作るときに考えたストーリーです。聴いてから読むといいかもしれません。

主人公:菜々子(8)
母親:美咲(30)

母「償いのために天使になったこの人はその後ずっと天国でお仕事しました。めでたしめでたし」
菜々子「わー。おもしろかった!!」
母「菜々子は本当にこの絵本が好きなのね。」
菜々子「うん!だって悪いことをした人だけど、償う気持ちがあれば天使になってお仕事できるんだよ?神様って優しいよね。」
母「そうだね、でも悪いことをしなかったら働かなくても良いのよ?のんびり天国で過ごせるの。だから菜々子はこんな天使になっちゃだめよ。」
菜々子「うん。私もお母さんみたいにずっと優しい大人になるね。」
母「そう、ありがとうね。あっ!絵本読んでたらこんな時間だわ。菜々子もう寝ましょうね。」
菜々子「えーお母さんと寝たい」
母「お母さん、これから仕事あるからごめんね。今日も1人で寝て。」
菜々子「・・・分かった」
母「ごめんね、明後日の土曜日の夜はお休みだから。一緒に寝ましょうね。」
菜々子「本当!?約束だよ!!」
母「ええ、約束・・・」

そうして私は布団に入った。この6畳一間の畳の部屋。カーテンは気づいたらボロボロだったし、畳もきっと綺麗なんて物ではない。
当時小学2年の少女の私には何もなかった。服も週1でしか洗濯できず、友達という友達も居ない学校生活。
クラスメイトからの暴力はないものの心の中はズタズタにされていた。お金がないことなんて気にも留めていなかった。
だって、これが私にとっての日常だったんだ。
ここまで私の話を聞いてるあなたは「お前は誰なんだ」と思うでしょう。
自己紹介するとすれば私は菜々子です。生きていれば30歳、母と同じ年齢になれていたはずの娘の菜々子です。
そう、私はこの後死んでしまいます。
この話は私が当時を振り返りながら今思うことを伝えていければ良いなと思って書いてます。きっとそれが8歳の私に出来る最大限の償いだと思うから。

さて冒頭に出てきた絵本。この絵本は恐らく20回くらい読んでもらった2番目に好きな本です。私が7歳の誕生日の時母親が買ってくれた絵本なのです。
この絵本の概要を言うと、「生きている間、人の為に一生懸命働き働き働き、限界まで来てしまった主人公が最後に悪さをしてしまいます。それを見た神様が本来なら地獄に行くほどの悪行をした主人公に対して今までの苦労があるので目を瞑り償いをさせるために天使として労働させる」という話です。分かりづらいですか?
簡単に言ってしまえば、最後の悪さで今までのことが全て台無しになる。って話です。当時の私はこれの本質は理解出来ず、頑張ったご褒美に可愛い天使にしてくれる神様と言う人の為にやってくれる優しいおじさんだと思ってました。今では本当に酷い悪い塊にしか思えません。

次の話は学校でのことです。
菜々子「先生、翔太くんに虐められる・・・」
先生 「えっ、イジメ?具体的には何されたんだ?」
菜々子「えっと、もう学校に来るなとか死んでしまえとか」
先生 「そっか。けどそれは本当なのか?」
菜々子「えっ?」
先生 「だってあの翔太だろ?ずっと先生に対してもニコニコしてるし友達も多い。あの子がそんなこと言ってるなんて信じられないぞ。」
菜々子「けど、ホントに言われてるんです。ほんとうに・・・」
先生 「まあ先生の方でも注意してみるけど、現状を変えようとしたのか?」
菜々子「どう言うことですか?」
先生 「だってお前はずっと下向いてるだろ?そんな態度とられてたら翔太も何か言いたくなるんじゃないのか?」

ここからの記憶は曖昧です。
あの時の先生の目は忘れられません。死にかけた害虫を見る目と同じだった気がします。
今だったら私がその先生を同じ目で見るんですけどね。
当時殴られるなんてことはなく淡々と罵声を浴びせられてました。今でもその当時のことは思い出します。
翔太君だけじゃなくクラスメイトのほとんどが罵詈雑言を浴びせてきた。
そんな不快な言葉は私の心にずっと残ってずっと笑っていた。心にずっと痣が残る。
まだ殴られた方が外傷が残って先生も取り合って。
いや、あのゴミ教師は自分の保身ばかりで結局味方は母しかいなかったんだと思う。まあ心配させたくなくて母には一切相談もしなかったんですけどね。
暴言を吐かれるくらいなら放って置いて欲しかった。
そんな時間、無駄だと分からない餓鬼だから仕方ないのかもしれないが、
暴言を吐かれる行為が嫌なんだ。敵意が向いてることが嫌なんだ。逃げれなかったことが嫌なんだ。

思い出ばかり話していても仕方ないので、ここまで出てきてない父親についてです。
父は私が生まれる前からいませんでした。
母が妊娠し、中絶できない期限を過ぎたあたりで女を作り逃げました。
だから私を堕ろすことができずに産んだそうです。父親について聞いたことがありました。
母は一度も父のことを悪く言わず「お父さんは天国にいったのよ」と言っていました。
実際私が死んでガラスで隔ててる地獄から「お前の父親だ」と名乗る死人から話しかけられたことがあります。
その時に逃げた先のことを聞きましたが、地獄に飛ばされただけ神様に感謝して欲しいと思いました。
私は22年間天国にいますが、未だにあの父が許せません。

こんなマイナスな話ばかりでは気持ちも滅入ると思います。
面白い話を聞いていただきましょう。

菜々子「お母さん、お腹すいた」
母「ごめんね、今家にこれしかないの」
菜々子「えー、私の嫌いなピーマンじゃん。他のが良い」
母「苦手なのは分かるけど他には何もないからねぇ。食べてたら案外美味しいかもよ。」
菜々子「んー」
母「お母さんは好き嫌いの無い子が好きだけどなあ」
菜々子「分かった、食べる」
母「偉いわね」
菜々子「じゃあ食べるよ。」ガブっ
母「よく噛んでよく噛んでそしたら美味しさが出てこない」
菜々子「あっ、美味しい。食べれるよ」
母「そう、良かった。これで好き嫌い無くなったわね。」
菜々子「・・・うん」

私が好き嫌いを克服した思い出に見えるでしょうか?
実際は今もピーマンが嫌いです。
母親を心配させたく無いから必死に克服したフリをしました。
するとどうでしょう。その日を境にピーマンしか出なくなりました。
驚きでしたね。余計嫌いに拍車がかかりましたが、母に嘘をついてしまったので誤魔化して食べました。
ただ、お母さん。生でしか出されなかったのはきつかったです。

面白い話で和んだところで次の話です。
これはとある公園に行った帰りです。
その日は夕方から雨が降るらしいからと傘を持って母と行きました。
菜々子「公園楽しかったね!!」
母「そうね、菜々子。」
菜々子「あのお花可愛かったね。あの、」
母「カタバミのこと?そうね、可愛い花よね。」
菜々子「そう、カタバミ。やっぱりお母さん物知りだね。」
母「たまたま知ってただけよ。」
菜々子「あのお花、お母さんみたいに可愛い花だね。」

この後母は雨が降ってきたので傘をさして2人で帰りました。
変わったことと言えば母の頬に雨が流れていたことでしょうか?
唯一休みが取れた日に私が公園に行きたいとせがんだせいでなかった傘を買っていた母。
「ボロボロだから雨で濡れてしまうね」と幼い私でも分かる嘘を言う母の顔を見上げることしかできませんでした。
そのような嘘をついてしまう母ですが、この人の優しさが私の中で出てくる暴言や軽蔑も解かしてくれてました。
そんな優しさの具現化のような母を、一度だけ怒らせたことがありました。

菜々子「お母さん」
母「・・・」
菜々子「お母さん」
母「何?」
菜々子「大丈夫?」頭を撫でようとした。
母 「触らないで!!」
菜々子「!!・・・ごめんなさい」
母 「・・・あんたなんて・・・産まなきゃ良かった・・・」
菜々子「・・・え?」
母「!!・・・ごめんなさい。菜々子ごめんね。今日はお母さん疲れてるから、放っておいてくれる?」

私はこれの答えが分からずに、そっとしておくことしかできませんでした。
今思えばこの日からの母はずっとおかしかったです。何を話しかけてもずっと上の空。仕事にも行かずボーッとしていました。
この出来事から1週間後母が突然帰ってこない期間がありました。

菜々子「ただいま。ごめんね、友達と遊んでたら遅くなっちゃ・・・。あれ?お母さん今日はお仕事ないんじゃなかったはずじゃ。どこかに出かけたんだろうか?
痛っ!!うわっお皿が割れてる。・・・片付けよう。・・・えっ。私の大好きなお皿も割れてる」

この後3日間母は帰ってきませんでした。学校はあったのでどうにか給食で倒れることはありませんでしたが、私は母のことが心配でまともに眠れませんでした。
先生に相談しようかとも思いましたが、もうこの時には周りの頼れる大人が母のみになっていました。
数日後

菜々子「明日から冬休みに入るのにお母さん全然帰ってこない。お金も食べ物もないからどうしたらいいんだろう。今日帰ってこなかったら・・・。
あっ、前にお母さんが困った時は交番に行きなさいって言ってた。お昼すぎても帰ってこなかったら交番にいってみようかな。」


私はまだ頼れる大人が居た可能性に安心し眠ってしまいました。その時見た夢は未だに忘れられません。

7歳の夢の中、俯瞰で見ていました。3、4歳頃の私。いつも通りの部屋に母と2人。母が私に絵本の読み聞かせをしていました。
いつもの天使の絵本はまだなかったので、何の絵本なんだろう?私は不思議に思い近くに行きました。
そこには「なきごえ」というタイトルがありました。物心つく前だから覚えてはいなかった。けど、絵本を読む母の声を聴いてるとどこか懐かしい気分になる。

絵本の内容は様々な鳥たちが集まっている場面のようです。それぞれに特徴があり黄色い鳥は喜んだ時にだけ鳴き声が出せ、赤い鳥は怒った時。青い鳥は悲しい時。そして橙色の鳥は楽しい時に鳴くことができます。
そんな感情を持った時にだけ鳴くことが出来る鳥たちのところに仲良しな2羽の白と黒の鳥がきました。白い鳥は本当に可愛らしく早く飛ぶことができます。しかしどれだけの感情を持ったとしても声が出せません。
それに対して黒の鳥は何をとっても普通。見た目も飛ぶ速さも普通。何てことのない鳥と見た目が完璧な鳥。4色の鳥たちは2羽と仲良くなろうとしました。
仲良くなるきっかけにと白と黒の鳥とみんなで合唱をすることになりました。それぞれの鳥が昔感じた感情を思い出し鳴き始めました。
白の鳥は気分だけでもと口パクで歌いました。皆そんな可愛らしい様子を見て、それに対する黒の鳥がなきません。「どうしたの?」そう尋ねると黒の鳥は昔の思い出話を始めました。
小鳥の時、お前は普通だ、何にも取り柄がないと。色んな友達に言われた。その時白い鳥が助けてくれたそう。何の特徴もないなら私の綺麗な鳴き声をあげる。そうして白の鳥は全ての声を失い、黒の鳥はあまりにも綺麗な鳴き声を手に入れました。
しかしそこから今に至るまで黒の鳥は一度もなきませんでした。「何で鳴かないの?」そう聞かれた黒い鳥はこう答えました。「僕は今ないたらそれは白い鳥への申し訳なさ、悲しい時の泣くになるから僕はまだなけない。」と言いました。

それから2年後、大空に飛ぶ1匹の黒い鳥は全ての感情がつれていかれそうなほど綺麗ななき声で旋回していました。昔から知ってる鳥たちは白い鳥の鳴き声に聴こえ、声を失ってから知った鳥たちは悲痛な泣き声に聴こえました。
普通の黒の鳥は心の中を白い鳥に染められ白い鳥の為にずっとずっと泣き歌い続けました。

そんな話でした。母は私に「この黒い鳥みたいに人の為に泣くことが出来る人になってね」と物心ついてない私にいっていました。
覚えてないないですが、何だか懐かしい気分になりました。
しばらくそんな懐かしさを感じていたら揺られて起こされました。
菜々子「んん?・・・お、お母さん!!」
母「ごめんね、ごめんね。」
菜々子「お母さん、どこ行ってたの?」
母「ごめんね、ごめんね」
ずっと抱きしめられ私も泣いてしまいました。

その時の母は謝罪以外の言葉を言いませんでした。ただあまりにも髪の毛がボサボサだったので2人で銭湯に行きました。
母が泣いていたことより一緒にお風呂に入れたことが嬉しかった。

この日を境に母は一度も仕事に行かなくなりました。



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