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『窓ぎわのトットちゃん』で知った、戦争の身近さ


「子育ての参考に」のつもりが

1月20日、7歳と5歳の息子と『映画 窓ぎわのトットちゃん』を観に行った。「窓ぎわのトットちゃん」といえば黒柳徹子さんの有名なベストセラーだが、私は原作を読んだことがなかったし、『徹子の部屋』も恥ずかしながら、ほとんど見たことがなかった。

でも、SNSでたまたま映画の予告編が流れてきて、そのトットちゃんの様子がうちの次男と似ている気がして「何か、子育ての参考になるかも?」と足を運んでみたのだ。

ハッとさせられる美しい映像。そしてトットちゃんの動きや話し方。次男とそっくりだ、と思った。

映画も終盤に差しかかったころ、次男が騒ぎ出してしまった。お隣に座っていた老夫婦が涙を流しながら見入っていたので、申し訳なくなり、私たちは途中退出。最後まで観たそうにしていた長男にはかわいそうなことをしてしまった。(あとからトットちゃん関連の記事や口コミを見ると、「この映画はそうしたお子さんも最後までいて大丈夫」という意見が多かった)

それからもトットちゃんのことが忘れられず、映画のストーリーブックを購入。本当はもう一度映画を見たかったけど、札幌では上映が終了していた。もっとしっかり、トットちゃんのことが知りたい。そう思って、原作の書籍を購入した。

▲原作は講談社から何種類か出ていて、私が購入したのは『講談社文庫 窓ぎわのトットちゃん 新組版』

まるで、幼いトットちゃんが歌いながら書いているかのような黒柳徹子さんの文章。だけど、原作も映画も、トットちゃんが小学生のころで終わっている。「続きが知りたいな」と思っていたら、なんと、スマホのタイムラインに「続・トットちゃん」の本があるとのWeb記事が飛び込んできた。私はすぐに購入した。(単行本は文庫本より高いのでいつも少しためらうのだけど、このときは迷わなかった)

それはもう夢中で読んだ。次男の子育ての参考に……とかは、もう考えていなかった。

夕飯のとき、つい食べながら読んでしまうこともあって、長男と次男も「それ、なんの本?」と聞いてくる。「トットちゃんの続きだよ」と答えると、長男が「ぼくも読みたい!」と言う。その日から、長男への、『続 窓ぎわのトットちゃん』の読み聞かせが始まった。

▲もうすぐ2年生になる長男だけど、寝る前の読み聞かせはずっと続けている。子どもと遊ぶのが苦手な私が、唯一楽しんでできることだ。それまでは絵本しか読んだことがなく、大人向けの単行本を「読んで」と言われたのは初めて

私と長男が興味をもったもの

長男が興味を持ったのは戦争だった。もともと、学校の友達か誰かにロシアやウクライナの話を聞いたのか、「戦争って何?」と聞いてきたことがあった。怖がりやの長男だから、日本は大丈夫なのか気になったようだ。

私も、トットちゃんの中には、トモエ学園、小林宗作先生、トットちゃんのママ……と気になる要素が複数あったけど、ここまで足早に読み進められたのは、黒柳徹子さんの描く戦時中の光景が、今の日本と似ている、と感じたからだと思う。

私は、戦争というのは、終戦前には絶えず起きていたものなのだと思っていた(本当に無知で恥ずかしい)。でもトットちゃん一家は、今の私たちみたいに、ごく平和な日常を過ごしていたのだ。その日常が、じわりじわりと戦争に冒されていく様子が、他人ごととは思えなかった。

映画、原作、原作の続編……と一気にトットちゃんに触れて、私の中ではいろいろなことが変わった。

まず、食費が減った。なぜかというと、「食べ物を無駄にしたくない」と心から思うようになり、食材を捨てなくていいように気をつけて買い物をするようになったから。“戦争が始まると、急に食べ物がなくなる”ことへの衝撃は大きかった。

世の中の見方も変わった。たとえば、日本には今も、男性がはたらき、子育てと家事は女性……という構図が根強くあると思う。少し前まではそのせいで男性がすごく叩かれていて、それを私も「うん、わかる」と思った時期もあった(今、夫は私よりやっている)。でもトットちゃんを通じて、「男性だから」というだけで兵隊にされ、言葉にはできないほど辛い経験をしてきた男性たちの姿を知った。女性たちは、自分が食べるのをがまんして、兵隊になる男性たちの食事をつくっていた。

1945年。トットちゃんに何度も出てきたのでもう忘れないが、戦争が終わったのは、今からたったの79年前である。100年前、200年前とかではない、79年前……。国じゅうで、兵隊になる男性たちが「バンザーイ!」と見送られていた日から、まだそれしか経っていないのだ。日本が今も完全に変われていないのは、そのときの名残なのだな、と納得した。

そして、怖くなった。今の日本は、本当に戦争にならないのだろうか。夜寝る前、長男にトットちゃんを読み聞かせていたとき、「ぼくも大人になったら兵隊にならなきゃいけないの!?」と長男。私がびっくりして「絶対に大丈夫だよ」と答えると安心していたけど、そのあとも、「本当に『絶対』なのだろうか」と考えさせられた。

また、せっかく平和な今を生きている子どもたちを必要以上に怖がらせたくないので、戦争にまつわる話には、今後慎重に触れさせたいと思った。

『窓ぎわのトットちゃん』との出会いは、私の人生の分岐点かもしれない。戦争のことだけじゃない。今は亡き、黒柳徹子さんのお母さん・黒柳朝さんの生き方に今、大きな勇気をもらっている。朝さんも、自身のエッセイ本を何冊も出されているのだ。

本にしておくこと、文字にしたためておくことの大切さを実感する。黒柳徹子さんと朝さんが本を出してくれていたおかげで、私は37歳という年齢にして、知らない世界を知ることができた。私もまた少しずつだけど、日常を書いて残そうと思う。

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