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【詩集】くびなし

わたしの落としたわたしのあたまで
子どもらは蹴鞠をはじめている
ぽーんぽーん
青空のしたは実に、実におだやかで
わたしのあたまは心地よく飛び上がる
ぽーんぽーん
ああ、そろそろ日の沈む時刻
子どもらは夢中に蹴り上げる
ぽーんぽーん
赤蜻蛉が飛ぶ
ずるり、ずるり、皮がめくれる
ぎゃあ、ぎゃあ、
子どもらは悲鳴をあげて散り散りになる
ぎゃあ、ぎゃあ、
あれは、だれの、しゃれこうべだ
皮のめくれて、緋染の地面に
ごろ、ごろ、
ごろ、ごろ、
重たいしゃれこうべが揺れている
わたしの頭は天たかく舞い上がり
満月とかさなりあい
子どもらの帰宅を見守り
ごろ、ごろ、
ごろ、ごろ、
首の上のない着物のわたしが
しゃれこうべを蹴りながら帰ろうとする
ああ、あしたも、とびたい、
ぽーんぽーん
かるい、わたしは、とびたい、
重たい、骨を、置き去りにして、
月夜と共に、過ごしたい


【くびなし】




考えることのすべてが種になり花になるとするのなら、ここより広い花畑などなかったと思う。涙もでなくなり、傷口の箇所もわからないまま、茎からあふれ、鋭い葉にすれて、血液のかわりのものが花の栄養になる。ふかぶかと息をして、この香りに埋もれて、今日こそ誰かのまぼろしの手を握り、二度と目覚めぬことを希って。


【香炉】




般若湯を飲んで揺れる真夏
同じ行をいったりきたりして
綱渡りみたいな今日を思った

わずらう人の顔はみな能面
おくゆかしい説教から食み出る
ふくらみすぎた世間体の袈裟は

いくつの煩悩を抱きしめても
この身を川底に沈めることは出来ない
ふところに小銭をつめて身投げのひとつ

おもえども六文銭すら無いときている
蝉時雨の下にぎーこぎーこと筏に乗る
船頭さんが死神であればよいとほろ酔い

ぼくは、地獄にいくだろうねえ

おおきな声で言ってみた
みなみなおくゆかしく笑っている
まるで殿様になったような心地がする

ぼくは、地獄にいくだろうねえ

能面たちが覗き込む
なにも恐ろしくは無い
この本の貸し主の顔を忘れて

あしたも真夏、彼岸は先か


【ばちあたり】

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