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【詩集】たいようフレア

理想を完璧に遂行するために
毎夜毎夜と劔を研いでいる
不穏な音に鳥たちは身を潜め
虫たちの聲だけがひびく
わたしの荒唐無稽な話を嗤うように
それに安堵するのはわたしの頭である

わたしもわたしを嗤う
この無意味な理想と拙い計画に
わたしの後ろに立つ死神はわたし自身である
わたしに、わたしを止める術はなかった
日に日に鋭くなるのは、神経と劔である

虫たちの聲に怯えている
ひとつの音が意識へ干渉し、
わたしの心臓を何度も刺した
わたしは次から次へと病を拾い上げてゆく
震える指に、劔は掴めない、病が口を塞ぐ

仰向けになり、明け方の天井を見上げる
脈拍が、直接脳を揺らしている
理想は、泡沫であることを知っている
全て知っているから、理想だけを抱いていられる
全てが理想であるから、先にわたしは刺されたのだ

刺殺体になったわたしを見下ろしている死神
その顔はわらってはいなかった
その顔はあわれんではいなかった


【パーフェクト】




かつて、
わたしのほんとうとは、コップ一杯の水であった

今見ている夢は、
かつてよりも極彩色へと近づきつつある

太陽が触れる
わたしの肉体は爆発して
わたしの魂は爛れて
わたしの心は焼けて
わたしの意識は消失する

まもなく訪れる、たしかな終わりに、
わたしは、歩くスピードが上がる

歌をうたう、でたらめで、苦情のきそうな音質で
終末のお知らせを、聞かせないように、

太陽は、わたしだけを目掛けて、
もう一度、わたしだけを燃やして欲しい
わたしに、もう一度、命乞いをさせてほしい


【フレア】




冥土のラウンドスケープ
砂漠よりもあつくて
北極よりもさむくて

この地を歩く、淡々と歩く、
変わりゆくものたちを横目に

時間は距離のようで、わたしは一方向のみ
冥土は四方八方、わたしを監視する幾億の目
恐怖はない、疲労もない、淡々と進む距離、
それは、時間、わかない食欲、不要の眠り、

取り上げられてしまった
わたしの罰は失うことであり
失うことすら失えば、
わたしの行き先は変わるだろう

それを考えるのはわたしではないのだから、
足取りは一定を保つ、この先を未来と呼ぶのは
まだ、顕界に居る者たちの業である

冥土のラウンドスケープ
変化を見せてゆく

嗚呼、鬼たちが見つめている
あゝ、閻魔は今日も苦しんでいる

わたしよりも心をいためている
わたしは、淡々と歩きながら、
冥土のラウンドスケープを認識し、
歩行距離の分だけ、生み出している

わたしの業の分だけ、
生み出されてゆくのだとすれば、
幾億もの監視の目は、鑑賞の目だと知る

失いつづけて、生み出しつづけ、
わたしの距離に、誰かが息切れを起こし
わたしの行き先は歪み出した

五常は、未だ、遠くに感じる
距離は、既に、罰の分を過ぎる


【カルマ】




あくなき死への能動とは
まぎれもない生への執着

頭は痛いまま
今日も瞼は落ちてゆく

最近、からだが遠いのです
だから、沢山の氷が必要でした

誰ともなく話し出す正午
今日はひときわ弱気になって
とめどもなく話したくなっている

今ごろ、滝のそばを這っている蛇
今ごろ、駐車場を横切っている猫
今ごろ、アスファルトの上で吠えている犬
今ごろ、街路樹の巣を壊されているカラス
今ごろ、この青空のしたで希望を歌っている童女

そういう話ばかりをしていたい
わたしの肉体からとおいところの話をして
わたしの呼吸にちかいところに戻って
わたしの意識にちがう波形を送って

退屈に慣れてゆくように
涙に溺れてしまえるように


【ドライアイ】




勇気はいらない
希望もいらない
夢も見ない
期待も捨てる
わたしに宛てられた手紙は破棄しよう

だから、私の心臓を動かすだけの音を喰べる
なにも、なにも、棄却、焼却、焼失
悲しみすらも夕焼けに捧げ、
心臓の音だけ。存在の確定。
目覚めるたびに、演出を繰り返す天使。
わたしは、祈らない。

空になるには、わたしには、あらゆることが、
否、すべてが、揃い過ぎていた

幸福である
捧げるものが尽きぬことは
幸福である

空洞は、
この身が滅んだ時にあらわれる
愛は、
声も言葉も信じられなくなったときにあらわれる

そうした青写真が、今でも輝いている
信仰、狂信、同調、調和、すばらしい時間の経過

もとめるフィナーレを用意するには
時間を積み上げなければならなかった


【フィナーレ】




忘れていたことを
花火と共に思い出して
感嘆の声を上げる有象無象
の、一部であるという自覚

ああ、この花火に眼を背けて
そう、この花火の音が不快と
正直になれたのならば
正直になれたのならば

眼を背けられ、不快であったのは
わたし自身であるという真実に
怯えて、正直になれない
日和見てきに、笑って

わたしはわたしを
好きか嫌いか判断がつかなくなった
わたしはわたしを
否定も肯定もできなくなった

漂う、地球の上で、重力に従い、漂う、
光るものを魅せるには、
宝石ひとつ持ちあわせず、
言葉の価値を見兼ねる質屋、
それを気まずく、見守るわたしの、
手の震え、止まらぬ冷や汗、毎夜の悪夢、

快も不快も抱きしめてみたい腕が、朽ちてゆく
負けたのはいつものことで、
数えることをやめただけで、


【フィクション】

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