見出し画像

自閉スペクトラム症の不登校(集団が苦手)

 「不登校は問題行動ではない」の記事の反響が大きかったので、しばらく不登校をテーマにしてこれまでの臨床経験から得られたものをシリーズで記事にしていきたいと思います。

 発達障害の特性のあるこどもは、どうしても不登校になりやすいと言えます。自閉スペクトラム症、ADHD、学習症のいずれもそうですが、まずは自閉スペクトラム症の不登校から、少し掘り下げて考えてみましょう。

 自閉スペクトラム症の特性については「発達障害を考えるときのキホン3〜自閉スペクトラム症(ASD)〜」に書いていますが、「相手の気持ちが分かりにくく、コミュニケーションが苦手」と「こだわりが強くて臨機応変な対応が苦手」という特性は、どちらも集団活動には不向きといえます。ただその特性は、一人で何かを突き詰めて取り組んだり考えたりすることについては、強みになることも忘れてはいけません。

 しかし学校はそもそも集団活動をしていくことを目的の一つとしているので、自閉スペクトラム症のこどもにとってはどうしても難しい環境です。社会の中で生きていくためには集団活動は避けては通れないことなので仕方がないのですが、本来なら自分の「レベル」に合った集団で練習できるのが望ましいですね。でも日本は年齢に応じた「学年」によって一律に進級していくシステムで、「学力」も「社会性」も年齢が同じであれば「ずれ」を生じることなくみんな同じレベルにあることが前提になっています。そのため、学力的には遅れがなくても社会的には苦手さがあるような、発達障害のあるこどもには厳しい制度です。以前、海外から日本に来られたお母さんが診察で「日本は学年が年齢で上がっていって、ついていけなかったら支援学級になるんですね。私が住んでいた国では3年生を一年でこなしきれなかったら、もう一回3年生ができました」とお話され、目から鱗だった経験があります。確かにそれが当たり前であれば、別に気にすることもないですし、むしろよりインクルーシブな教育だなと感じました。

 さて、自閉スペクトラム症の不登校には、大別して二つのタイプがあるように感じます。

 一つは比較的低学年のころから「こだわりが強くて臨機応変な対応が苦手」という特性のために、みんなと同じように授業や活動がこなせず、そもそも学校というカリキュラムが馴染まないタイプです。どちらかというと特性のはっきりした男児に多い印象で、本人は学校に行きたくないと思っていることを、そんなに気にしていなかったりします。自分の興味のあることだけをやっていたいタイプなので、なぜみんなと合わせて学校で座って興味のない勉強をしないといけないのかと思っています。こういったタイプのこどもには、学校での勉強や活動が実は本人の興味のあることにつながっていることを伝えるなど、学習や登校することが本人にとってのメリットになることを伝えてあげるのことが有効です。多くのこどもたちのように「学校に行くのがあたりまえ」だから、学校に行ってくれるわけではありません。大人が一人の大人に向きあって、その理由をきちんと説明してあげるような感覚が大切です。

 もう一つのタイプは、比較的高学年になってから「相手の気持ちが分かりにくく、コミュニケーションが苦手」という特性のために、徐々に複雑になってきた友達関係についていくことが難しくなり、自分が孤立してしまっていることが辛くなって不登校になってしまうタイプです。どちらかというと特性としてはそこまで強くない女児に多い印象で、学校に行けないことに不全感を感じていることが多いです。他のこどもたちと仲良くやっていきたい気持ちはあるのですが、うまく相手の気持ちが理解できなかったり、日本的な「阿吽の呼吸」でのコミュニケーションができないため、本人もとても辛い気持ちになっていることが多いです。こういったタイプのこどもには、具体的にコミュニケーションで困ってしまった場面について、相手がどう思っていたのか、自分はどういう声をかけてあげればよかったのかといったことについて、具体的に教えてあげることが大切です。いわゆるソーシャルスキルトレーニング(SST)を放課後等デイサービスなどで受けることも有用ですし、親御さんが状況を聞き出して「コミック会話」などの手法で解説してあげてもよいでしょう。

 もちろん実際は、このいずれかにはっきり分かれているわけではなく、二つのタイプが混じっていることの方が多いですし、さらに不安の強さやADHDの傾向なども影響していることが多いです。しかしこのような要素があることを、まずは周囲の大人が理解しておくことは大切です。なぜなら本人はまだこどもなので、自分がどうして困っているのか、なぜ学校に行きたくないのか、言葉にして教えてくれるとは限りません。しかし周囲の大人がこうした要素をがありうることを理解していれば、本人の困っている理由を一緒に考えてあげるときの道しるべとなります。

 発達障害のキホンについては以下の動画でも解説しているので、ぜひご覧ください。


もし記事が皆さんの役に立ちましたら、サポートしていただけると嬉しいです。いただいたサポートは、筆者が理事長を務める摂食障害支援を行うNPO法人SEEDきょうとに全額寄付いたします。