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ADHDの不登校(自己コントールが苦手)

 「不登校は問題行動ではない」の記事の反響が大きかったので、しばらく不登校をテーマにしてこれまでの臨床経験から得られたものをシリーズで記事にしていきたいと思います。

 発達障害の特性のあるこどもは、どうしても不登校になりやすいと言えます。自閉スペクトラム症、ADHD、学習症のいずれもそうです。前回は自閉スペクトラム症の不登校(集団が苦手)について書きましたが、今回はADHDの不登校について考えてみます。

 ADHDの特性については「発達障害を考えるときのキホン2 〜ADHD(注意欠如・多動症)〜」に書いていますが、不注意・多動・衝動性という特性は、学校での学習や集団活動において支障がでてしまうことがあります。ADHDのこどもは、行動力があるという点は強みと言えますが、特に低学年では「授業中ずっと座っていられない」「気になることがあると教室を飛び出してしまう」「だしぬけに話を始めてしまう」「授業に集中しにくく、他の子にちょっかいを出してしまう」など、自分の行動をコントロールするという点で支障をきたしやすいです。

 ADHDの特性については「不注意」の問題と「多動・衝動性」の問題と、大きく二つにわけて考えることができます。そして学校生活で困ってしまう要因としては、どちらかと言うと「多動・衝動性」の問題の方が大きいと言えます。「多動・衝動性」が強いこどもは、じっと座って居られなかったり、教室を飛び出してしまったりと、行動面の問題が多くでてしまうので目につきます。また怒りっぽかったりおしゃべりが過ぎることも多く、他の子にちょっかいを出したりして、自分だけでなく他の人を困らせてしまうことも多いため、学校の先生方も教室運営上、なかなか大目に見ることが難しくなります。その結果、友達と喧嘩になってしまったり、先生に怒られてしまったり、どうしてもトラブルが多くなります。すると本人もだんだん嫌な気持ちになってしまって、落ち込んでしまったり、とても反抗的になってしまったりして、学校にどんどん居づらくなってしまいます。

 それに比べると「不注意」の特性は、他の子に影響を与えてしまうことは少ないのですが、逆に自分が困ることが多くなります。つまらない授業には集中できないので学習に支障をきたすようになったり、忘れ物や失くし物が多くなったりするので、ADHDであることを理解してもらえていないと、やはり先生に叱られることが増えてしまいます。学習面だけでなく、大事なプリントを出し忘れる、親に伝えるべきことを伝え忘れる、スケジュールが把握できていないなど、いわゆる「管理をする」ということがとても苦手なので、大人のように計画的に生活を送ることができません。それは、「その瞬間瞬間を精一杯生きる」という素晴らしい特性とも言えるのですが、現実的には本人も親も先生も困ってしまうことが多くなります。

 同じようにADHDのこどもには「段取りをする能力(専門的には実行機能と言います)」に苦手さがあり、一度集中して好きなことを始めてしまうと、ご飯やお風呂など、生活のタスクをこなすためにそれをやめて、気持ちや行動を切り替えることも苦手なので、生活リズムも乱れやすかったり、夜更かしが多くなったりします。すると朝が起きられず、学校の準備が間に合わず、登校班に遅れ、友達を待たせてしまって気まずくなるなど、やはり学校やクラスでの居心地が悪くなってしまうのです。

 実際は不注意も多動・衝動性も併せ持っているタイプが多いので、このような困り事が合わさって起こってきます。

 親や先生から見ると、大事なことを忘れたり、やるべきことをやろうとしなかったりする場合、どうしてもその子が分かっていてもズルをしてやっていないのではないかとか、ある種の倫理観が欠けているように見えてしまいます。特に他の子に迷惑がかかってしまっている場合などは、敢えて強い言葉でいうと「性根を叩き直さないといけないのでは!?」と感じて、感情的に叱ってしまいがちです。特に社会で仕事をしているお父さん方は、世代的な考え方もあいまって、「甘やかしていてはダメなのでは」と考え、ひたすら厳しく接してしまいがちなところがあります。ただ大人側のこの作戦はあまり上手くいきません。自分としてはさほど悪気なく特性から行動して叱られ過ぎたこどもは、とりあえず叱られないようにするために次第に「うそをつく」ようになります。ADHDの子供にこどもにとっては、とりあえず嫌な思いをすることを避けることを優先するための当然の作戦といえます。

 しかしそんな「うそ」はすぐにばれてしまうものなので、それを知った親御さんや先生は、さらにその子の人格にまで心配になってしまい、さらに厳しく叱ってしまうという悪循環に陥ります。これが続いてしまうと、次は親子のコミュニケーションのチャンネルが閉じてしまうことになります。こどもは事実を語ってくれなくなってしまって、問題を解決する糸口がつかめなくなってしまいます。こういった状態になると、二次的にとても反抗的になったり挑戦的になってしまうこどももいますし、逆にとても落ち込んで心を閉ざしてしまうこどももいて、やはり学校に行くのが難しくなってしまうことが多いです。

 ADHDの特性による問題は、本人の倫理観の問題ではなく、能力的な苦手さの問題です。もちろん生活上の問題があれば、それを放っておいて良いわけではありません。なぜそれが問題なのか、解決してできるようにしていくにはどうしていけば良いのか、それにあたって先生や親としては「こんな風にサポートしてあげることができるけどどうする?」といったように、冷静に、穏やかに、だけど解決していく必要があることとして、声をかけてあげることが大切です。それは本人の人格的な問題ではなくて、ADHDの不注意・多動・衝動性の問題として本人から切り離し、本人と親と先生で一緒にその特性に基づく問題を解決していこうという同盟を作ることが大切です(問題を「外在化」すると言います)。こどもは「むやみに叱られることはない」といった安心感があれば、失敗を隠すことなく話してくれるようになります。ただこの時に「できるようになるべき目標」は、年齢相応のものではなく、それよりもう少しハードルが低いものにしましょう。管理をより効率的にしたりするために使えるツールは使いましょう。部分的にはやるべきことを免除してあげましょう。一緒に取り組もうと決めてた問題に上手く対処できるようになるという体験を積ませてあげることの方が、年齢相応の管理能力を身につけるよりも優先です。程よいハードルを飛んで成功する体験を積むことが、次へのモチベーションに繋がり、ひいては生きていくための力の源になるのです。


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