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ロゴの「マーク」はあったほうがいいの?なくてもいいの?

こんにちは、三宅佑樹(@yuki_miyake)です。
普段はビジュアルデザインやクリエイティブコンサルティングを通じて企業のブランドづくりやサービスづくりをお手伝いしています。

デザインの仕事を始めて9年ちょっと。これまで、100まではいかないかもしれませんが、数十個のロゴをデザインしてきました。


ロゴは、幾何学的な形や有機物を図形化したマーク(シンボル)と、組織などの名前を記述した文字(ロゴタイプ)とで構成されます。

場合によってはマーク(シンボル)が無く、文字(ロゴタイプ)だけの場合もあり、それはそれで特に問題なく運用されていたりします。

そこで、ロゴをデザインする際にしばしば悩むことになるのが、「マーク(シンボル)は必要なのか?」「どういう時はマーク(シンボル)があったほうがよくて、どういう時は無くても大丈夫なのか?」ということです。

一般的に分かりやすく伝えるためにここまで「マーク」と書いてきましたが、グラフィックデザインやCIの専門的には「シンボル」と呼ぶことが多いので、ここから以下は「シンボル」と呼んでいきます。

多くの場合、デザイナーはロゴデザインを依頼されると、対象の企業や商品が属する業界・市場の先例を調べ、それをもとにシンボルの有無をどうすべきか判断することが多いと思います。

ただ、これでは「先例に従っている」というだけになってしまうので、もっと論理的に説得力のある判断をしていきたいと思い、このテーマについてじっくり考えてみることにしました。

結論を先に書くと、シンボルがないと/あると絶対ダメだ、というケースはほとんどないですが、あったほうがよいケース、ないほうがよいケースというのはある、と言えます。

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有名企業のロゴを分類してみると・・・

有名企業のロゴを分類してみると、だいたい以下の6つのケースに分けられます。

①シンボルあり→シンボルとロゴタイプがセットで使われることが多い
②シンボルあり→シンボルとロゴタイプが別々に使われることが多い
③シンボルあり→セットで使われることも、別々で使われることもある
④ロゴタイプの先頭の文字がシンボルとして使われる
⑤シンボルなし→ロゴタイプの周り/一部に装飾が入る
⑥シンボルなし→ロゴタイプの周り/一部に装飾が入らない。文字だけ。

それぞれのケースに当てはまる有名企業のロゴをいくつかピックアップして並べてみました。(※あくまで生活者として日常的に目にするときの感覚に沿った分類です)

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スタバ、LV、アップル、ナイキ・・シンボル単体で展開されるロゴ

6つのケースの中でも特に、ブランド論やシンボルに関する議論の中でよく話題に上がるのが、スターバックス、ルイ・ヴィトン、アップル、ナイキといった企業の「シンボル単体で展開されるロゴ」のことです。

スターバックスは2011年1月、創業40周年の節目にシンボルのリニューアルを発表。それまで緑色の「セイレーン」(人魚)の周りを囲うように配していた「STARBUCKS COFFEE」の文字を消し、セイレーンだけのデザインに変更しました。

ハワード・シュルツ会長・創業者がリニューアルの意図を語った動画("A Look at the Future of Starbucks")では、「未来にふさわしい形に進化する」「コーヒーを超える自由と柔軟さ」といった言葉が登場します。

コーヒーショップという従来のイメージを薄め、お酒の提供など(イブニングス事業は本国のアメリカでは終了してしまいましたが)、コーヒーではない商品の展開をしやすくすることであったり、ビームスとのコラボによって作られた「STARBUCKS TOUCH The Drip」のように、日常に身につけるアイテムにロゴを展開しやすくするなど、イメージの刷新事業領域の拡張などが背景にあることが窺えます。

アップルも、事業環境の変化に伴って2007年に社名を「アップルコンピュータ」から「アップル」に変更しましたが、シンボルの使い方としては遥か以前から、社名を併記せずにあのリンゴのシンボル単体で展開されていました。1984年のスーパーボウルで放送されたマッキントッシュ発売を知らせる伝説的なCMでも、最後のカットは黒背景の上にレインボーカラーのリンゴを単体で(文字無しで)配置したものになっています。

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シンボルのない会社が多い日系エレクトロニクス企業

ソニー、パナソニック、東芝、シャープ、キヤノン、リコーなどなど、日系のエレクトロニクス企業には、なぜかシンボルのない会社が多いです。

どうしてこうなったのか。「明確な理由はなく、業界の慣例的にいつの間にかそうなった」というのが一番可能性が高い気もしますが、もし何か論理的な理由があるのだとすれば、以下の点が考えられると思います。

(1)家庭製品、オフィス製品ともに、室内に溶け込むものが求められやすく、ロゴが主張しすぎないことが重要だったため、シンボルが作られなかった。

(2) シンボルは特定の世界観を伝え過ぎることがある。テクノロジーはあくまで道具で、それを使う人自身が自分の世界・生活を作り上げるための黒子であるべき、という考えから、シンボルが作られなかった。逆に特定の製品カテゴリーでターゲットがはっきりしている場合、製品ブランドとしてシンボルを作るようにした。(例えばソニーのブランド「ウォークマン」にはシンボルがある)。

(3) シンボルはかなりシンプルに作らないと、文字に比べて古くなりやすい。歴史の蓄積や伝統が好印象になる業種ならよいが、テクノロジーは常に新しい印象を与えることが大事になるため、シンボルは無いほうがよい、ということになった。(※ただし、アップルのようにシンプルで無地のシンボルにすることによって、これはある程度は防げると思います。)

こうした理由が背景にあるのか、それとも特に理由はないのか、はっきりとは分かりませんが、業界の代表的な企業が揃いも揃ってシンボルがない、というのは非常に面白い現象です。

ちなみに海外のエレクトロニクス企業では、
【シンボルあり】アップル、ゼロックス、ファーウェイ など
【文字をシンボル化】GE、ヒューレット・パッカード、LG、シャオミ など
【シンボルなし】シーメンス など
となっています。

IBMは基本的にはシンボルなし、に分類してよいかと思いますが、同社のサイトを見ると、ファビコン(ブラウザのタブやブックマークのところでサイト名の横に表示される小さいアイコン)に、1981年にポール・ランドがデザインした名作ポスター「Eye Bee M」のBee(蜂)が使われています。正式な会社ロゴとしてのシンボルではないと思いますが、このように、ポイントで意匠としてあしらう(遊べる)シンボルを持っていると、色々な場面で使えて便利なこともあります。

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さて、上記の話も踏まえつつ、シンボルがあることによるメリットとデメリットを整理してみたいと思います。

シンボルがあるとこんなメリットがある

(1) 文化や世界観を表現しやすい。
(2) 文字に比べて感情を喚起しやすい。
(3) 文字に比べて瞬間的に/遠くからでも認識しやすい。
(4) 意匠として柄にしたり、アクセントとして配置したりなど、展開がしやすい。
(5) ホールディングスや歴史的につながりのある企業同士で同じシンボルを共有して使うことで、グループであることを表現できる。蓄積した信頼やイメージを継承しやすくなる。
(6) 違うシンボルを使うにしても、シンボル同士のテイストを似せることによって、同じグループの企業/製品であることを表現できる。

シンボルがあるとこんなデメリットがある

(A) 文字に比べて、文化や世界観、固有のテイストを伝え過ぎる場合がある。(メリットの裏返し)
(B) シンプルで洗練されたシンボルでない限り、トレンドの影響を受けやすい(印象が古くなりやすい)。特にフリーハンドで書かれた線の場合。

これくらいでしょうか。「あるとダメ」なことはそんなに無いと思います。

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次は上記のメリット・デメリットを踏まえて、「こういうケースはこっちのほうがベター」という形で整理してみましょう。

あくまで「ベターと考えられる」というだけで、絶対シンボルを作るべき/作るべきでない、ということではありません。シンボルやロゴタイプのデザイン次第では難点を回避できるケースもあるため、最終的にはケースバイケースです。

シンボルがあったほうがいいケース

(I) 伝統を感じさせることが重要になる場合。教育機関、伝統文化、伝統芸能の組織など。シンボルのほうが正統性や権威を感じさせやすいため。
(II) ガソリンスタンドや大型スーパーなど、車で行くことが基本となる施設で、車に乗った状態で視認しやすいことが重要になる場合。
(III) 自動車やスポーツ用品など、日常生活の中で利用されている商品自体が最大の広告となる場合で、なおかつ商品が高速で移動するものである場合。
(IV) 交通機関など、混雑する環境や、非言語で、視覚的に瞬時に認識することが求められる場合。
(V) 身に着けるものに意匠としてあしらうことが想定される場合。
(VI) アプリなど、小さな画面の中に配置したり、アイコン的に使用されることが想定される場合。
(VII) グループやホールディングスであることが分かるようにしたい場合。
(VIII) 名前が長い場合。 文字数が多いと認識するのに時間がかかったり、文字(ロゴタイプ)を意匠として扱いにくくなるため。

シンボルがないほうがいいケース

※繰り返しになりますが、シンボルがあったら絶対ダメだ、というわけではないです。

(a) 1つの会社の中で趣の異なる事業やブランドを複数展開するような会社。
例:LVMHスマイルズ星野リゾート など
(b) 顧客のカラーに合わせたものをオーダーメイドで提供するような会社。例:デザイン会社、コンサルティングファーム など
(c) 多種多様なテイストのコンテンツが掲載/配信されるメディアやプラットフォーム。
例:NETFLIX など

この(a)〜(c)の場合でも、ファビコンをはじめ、アイコン的に使うマークのようなものが必要になる場合があります。そのため、文字の一部に特徴のある装飾を施したりして、その装飾部分をシンボル的に使うという手法があります。(例:アクセンチュア

また、YouTubeの赤い再生マークのシンボルのように、非常にシンプルな造形のシンボルであれば、それほど特定のカラーや個性を打ち出すことにはならず、あっても事業上(YouTubeの場合、様々なテイストのコンテンツが載る動画配信プラットフォームとして)特にマイナスにならない、ということもあります。

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topics1. 繊細な感覚的判断を求められるロゴの展開

以上に述べてきたように、ロゴの展開においてシンボルをどう扱うかというのは非常に難しい問題で、繊細な感覚的判断を求められます。

1999年出版の『マーク-ブランドの向こうに見えるもの』という本には、ナイキ社がそれまで行っていた、「スウッシュ」だけにして「NIKE」の文字を入れないというロゴ展開(当時これは非常にクールで革新的なことだった)を変更する方向で検討している、というインタビューが掲載されています。

"国際的な市場の中でのスウッシュに対する認識や意識が、米国でのものと少し懸け離れてきてしまっているのではないか" "すべてがスウッシュ、何かがあるとスウッシュ(中略)スウッシュがすべての場所で登場してくるというのはよくない(出すぎている)と思ったんです"
NIKEのクリエイティブ・ディレクター(当時)ケン・ブラック氏

そこで同社が検討したのは、創業間も無い頃に使われていたロゴのスウッシュの上に乗っている「nike」の文字部分(ナイキ・スクリプト)だけを、企業としてのメッセージを伝えるCMなどの最後(従来は単体のスウッシュだったところ)に入れる、というものでした。

その後、様々な変更や展開があったと思いますが、2018年の今は、商品を見ても、同社のCMやサイトを(商品サイトだけでなく採用サイトなども)見ても、スウッシュのシンボル単体での展開は引き続き多くの場面で継続しているように見受けられます。スウッシュに向けられる世の中の感情や人々が抱くイメージを慎重に観察しながら、同社が都度方針を変更していることが推察できます。

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topics2. シンボルorロゴタイプより「色」が重要なことも。

街中での視認性が重要となるコンビニやファーストフード、コーヒーショップなどや、スマホという小さく限られたスペースの中でユーザーの関心を惹きつけなくてはいけないアプリなどの市場では、シンボルの有る無しやその造形よりも、ロゴの周囲や背景、UIで使用される「色」によるアピールや印象の差別化が重要となる場合があります。

銀行も、街中での視認性が重要な業種の1つですが、2015年4月から出願が可能になった「色彩商標」において、トンボ鉛筆のMONO消しゴム、セブンイレブンに続いて、国内3番目の色彩商標として登録されたのは、三井住友フィナンシャルグループの緑でした。

また、画像中心のSNSであるインスタグラムは、初期の茶色の立体的なアイコンから、より若者らしさを感じる黄〜紫のグラデーションのアイコンに変えましたが、シンボルの造形がシンプルな線になったことよりも、色によるイメージの変化のほうがインパクトが大きかったのではないかと思います。

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topics3.  文字を見せていく若者たち

最後に、今すぐすべての業種に関わる話ではないかもしれませんが、頭の片隅に置いておいたほうがいい(かもしれない)お話として、最近のファッションの分野に見られる傾向についてお話してみたいと思います。

インスタグラムなどによって写真中心のコミュニケーション文化が広まったことで、「どこのブランドなのかが画面越しでもぱっと分かりやすい」ことが重要さを増し、ロゴ、とりわけ文字(ロゴタイプ)を積極的に見せていく傾向が強まっているように感じます。

コム デ ギャルソンが先日発表した新ブランド「CDG」も、各アイテムに「CDG」の文字を大きく配しているのが特徴的です。

上述のように写真中心のコミュニケーション文化が一因として考えられますが、私がもう1つ、もしかするとこういうことも背景にあるのでは?と思ったのは、個人が力を持ってきたことで、自分の考えを言葉で明確に打ち出していく姿勢を良しとする風潮が出てきていて、その結果、「それとなく伝える」シンボルではなく、文字ではっきり「私はこのブランドを支持する」と主張できる、ロゴタイプをあしらったアイテムが人気になっているのでは、ということです。

(他にも、ストリートカルチャーのtaggingの文化に影響を受けたものではという見方もでき、そうなるとちょっと話は変わるのですが。。)

今はファッションに限った話ですし、これが単に一過性のトレンドに過ぎない可能性もあるとは思いますが、頭の片隅に置いておいて意識しておくとよいかもしれません。いずれにしても、先述したナイキ社のように、こうした世の中の空気の変化を敏感に察知しながら、シンボルの扱い方は都度検討・調整していく必要があるでしょう。

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長くなりましたが、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

業界ごとの固有の事情や慣例、またデザイン次第で使い方を工夫できたりと、一概に言えないところがあるため、シンボルの有無については「こうすべき」と決めるのが非常に難しいところがありますが、少しでも本記事が参考になれば嬉しいです。

それではまた!

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FORCAS(UZABASE GROUP)デザイナー / 自身のデザイン事務所を10年運営 → 2019.05からユーザベースグループでBtoBマーケティング支援のSaaSを展開する株式会社FORCASにデザイナーとしてJoin
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