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『シン・ウルトラマン』初日と一ケ月後の感想

『シン・ウルトラマン』を公開初日に鑑賞しました。
 その直後と、一ケ月経った今日、書き留めたものです。
 しばらく黙っていようと思いましたが、公式からけっこう内容が明かされ始めましたので、ここに公開いたします。
 内容に触れておりますので、これから観る予定の方は読まないでくださいね。

 5月13日(金)。
 予報通り、朝早くからけっこうな雨。
 映画館着は午前11時。
『シン・ウルトラマン』初日二回目の上映開始は11時05分。
 間に合わなくもないが、発券機が混みあっている。
 せわしないので、別スクリーンでの11時45分の回を選択。
 ペラッペラの感熱紙が出て来てびっくり。
 今、映画の当日券ってこんな夢のない仕様なのか。

 始まるまで、まずはロビーをチェック。
『シン・仮面ライダー』のチラシがあったので貰う。
 ショッカーのマークかっこいいな。
 シン・ウルトラマンのぬいぐるみのクレーンゲームがあり、その横に傘の忘れ物があった。
 売店に入る。この頃はパンフレットやグッズがすぐに売り切れてしまうから。
 パンフレット、名刺入れ、スライドペンを買う。
 仕事のときにも使える実用品を買わないと結局死蔵してしまうことが、この年になるとわかっている(遅い)。
 クリアファイルを捜すが、なかった。
 パンフレットには「ネタバレ」の帯が巻いてあるので、観終わるまでは開けない。この帯には本当に助けられた。「ちょっとだけ」なんて思って覗いたらおしまいだった。開いて即、重大なスチールが!
 映画館もコロナでたいへんだろうからお金を落として行こうと思い、飲み物も買う。

 入場。席は最後列のド真ん中。
 ここからウルトラマンの居る世界を見届けるのだ。
 と、その前に『シン・仮面ライダー』の、見たことのない予告編が流れた。

 いよいよ上映開始。
 オープニングタイトルは、元祖『ウルトラマン』リスペクト。これは予想通り。
 だが、その直後、信じられないものを見た。
 ゴメス! ジュラン! ペギラ! ラルゲユウス! カイゲル! パゴス! 『ウルトラQ』の怪獣が続々!
 さすがにモノクロではないが。
「カイゲル」って! 衝撃が走る。
 普通に見ればあれはゴーガ。だけど『ゴーガの像』の前身として書かれたサンプルストーリーではカイゲルだった。そんなことを知っていて即座に思い出す自分もどうかと思う。
 この作品の制作側は「ファンコレ(※1)読んでたよね? 宇宙船(※2)もね。カイゲル、わかるよね?」という人たちなんだ! もちろんわかりますとも。私はカイゲルという150キロ台ストレートをド真ん中で受け止めた。

(※1)朝日ソノラマが出していたアニメ、特撮の解説書・ファンタスティックコレクションシリーズ(※2)同じく朝日ソノラマのSF特撮誌

 以上の怪獣たちは字幕だけで人類に駆逐されたことが示される。
 ラルゲユウスのみ逃げ去って行方不明なようだ。
 ラインナップにナメゴンやボスタングのような宇宙怪獣がいない理由は後でわかる。
 これらの怪獣撃滅譚だけでも一本ずつ別作品として観たいものだ。
『ウルトラQ』はモノクロで変身ヒーローも出ないので、ウルトラシリーズを語る場合、省かれることが多い。
 だけど、巨大ヒーローもいないのに、どうやってあんなデカい生物を倒すのか? の工夫がとても面白いSFであり、ファンタジーなのだ。
 それをウルトラマン前史に用いたのはさすがと感心した。

 作品世界中では怪獣は禍威獣と呼ばれ、五人の専門家が駆除にあたる。
 禍威獣特設対策室。通称「禍特対」。

 禍威獣、禍特対という当て字はどうかと思ったが、台詞にはあるものの字面が映ることはあまりなかったので気にならない。
 禍特対を科特隊に当てはめると、

田村:ムラマツキャップ
神永:ハヤタ
滝:イデ
浅見:アラシ、フジアキコ
船縁:フジアキコ

といったところか?
 ホシノくんはいないんだ。残念。
 浅見弘子は巨大化だけ見るとフジアキコなんだが、思考や行動がもっぱらパワー系だったのでアラシでもあるのでは?

 ウルトラマンが地球人と一体となった理由。
「子どもをかばって自分が命を落とす」、ここは『帰ってきたウルトラマン』。
 庵野秀明が『帰ってきたウルトラマン』を大好きなことは有名だものね。
「逃げ遅れた人がいる」というのは『シン・ゴジラ』でもやっていたので、お気に入りの展開なのか。
『シン・ゴジラ』でそれを見たとき連想したのは、『帰ってきたウルトラマン』第5話「二大怪獣 東京を襲撃」。
 郷秀樹はマットアローからグドンを攻撃する際、地上に虫取り網を持った女児を見る。
 攻撃の手を止めた郷はグドンを取り逃がし、同乗の岸田隊員を激怒させる。
 このエピソードは印象的だった。
 黄色い帽子をかぶり、虫取り網をかざして楽しそうにスキップする女の子。しかもそれを視認したのは郷一人。本当に居た者なのか幻想なのかはついに明かされない。不思議だ。
 とにかく昭和特撮においては「逃げ遅れ」はたしなみの一つだと言ってもいいほど頻出していた。

 カラータイマーに替わって行動限界を示す視覚表現。
 パゴス、ネロンガ、ガボラという禍威獣のセレクト。すべて頷ける。
 この三体は元は同じ怪獣。それを改造したものだから。
 怪獣のスーツの改造なんていう現場の事情をドラマに利用するとは。SDGsの概念に近いものを感じる。持続可能な怪獣デザインだね。
 ウルトラマンの顔が、初登場時はA。後からCに近いものへと変化しているのにも気付いた。私が好きなのはA。だけどAは口が開閉するように作られているから、当時のスチールでは中が、つまり肌色がちょっとだけ見えているのがある。
「見えちゃってる」のは、いくらいい写真でも、円谷プロは使用許可をくれない。ウルトラシリーズのエピソード本を作ったとき、表紙のセンターに使いたい写真がそれでダメだった思い出。

 ここで庵野秀明に近いライターさんから直接聞いた話を思い出す。
「彼は、尻尾のある怪獣には興味が薄い」。
 だからゴジラを引き受けたのは意外だったと。
 シン・ウルトラマンの相手が二戦連続で四つ足・長尻尾なのは、前半で怪獣らしい怪獣をさっさと済ませて、あとはじっくり自分好みの宇宙人をやるつもりなんだな? と推測する。
 宇宙人といえば、私が公開初日に足を運んだ理由の一つにザラブ星人がある。
 予告に出て来たザラブ星人がとてもかっこ良かったから。
「友好的な内容なのに、喋りが無機質で怖い」のは、ウルトラマンというよりウルトラセブンに出て来る宇宙人っぽい。
 ザラブ星人の特徴である妙に小柄なところも再現されている。
 にせウルトラマン出現→夜の街で本物とにせものの戦闘→空中戦。素晴らしい。
 今作ではウルトラマンもザラブ星人も、体表のメタリックシルバーがきれい。CGはこういう質感の表現に向いている。
 吊りではできないであろうビルの間を高速で低空飛行するカットもCGの有効活用。
 チョップを繰り出して手が痛むくだりは、あそこまで再現する必要があったのかな? まぁ当時から印象的ではあったよね。
 最初のザラブを演じた青野武とは『ウルトラマンキッズ 母をたずねて3000万光年』というアニメの仕事でご一緒させてもらった。
 毎回アフレコスタジオに出演者の誰よりも早く到着され、校長先生の役柄通り、全体を引き締める役割を担っておられた。

 次はメフィラス。
 人間に擬態し、名刺を出したり居酒屋で割り勘を提案してきたりとずいぶん日本の風俗習慣になじんでいる。
 それもそのはず。ウルトラマンやザラブより先に地球に来てたんだって。
 禍威獣が日本にしか出現しないのもメフィラスのせいだった。
 ウルトラマンを誘い出すため、もともと地球にあった生体兵器を目覚めさせたというのだ。

 こうして侵略宇宙人が二体続くと、どうしても状況が似通ってしまう。
・ザラブ登場→電気系統がダウン、PCのデータが全部飛ぶ→ザラブの超科学であっという間に復旧。
・メフィラス登場→ネットにアップされた巨大浅見の動画を一瞬で全削除。
・両者とも、政府と交渉して自分に有利な条約を締結する。
 という具合に。
 ここはもっと違いを出してくれないと、わがままな客である私は退屈してしまう。
 メフィラスといえば、オリジナルの『ウルトラマン』第33話『禁じられた言葉』に、私の大好きな台詞がある。
 メフィラスから「ウルトラマン、貴様は宇宙人なのか、人間なのか」と問われたハヤタが即答する。
「両方さ」
 これほど明快で力強い答えがあるだろうか。
『禁じられた言葉』の脚本を書いた金城哲夫は、研究書などで「出身地沖縄と本土との間でアイデンティティが揺れ動いていた」とされることが多い。
しかし、ここできっぱりと「両方さ」と書けているので、決着はついていたのだと私は思っている。
 円谷皐社長(当時)と話をさせてもらったとき、金城哲夫のことを一言で表現してくれた。
「太陽みたいな男だ」と。
 太陽みたいな男だからこそ「両方さ」と言えたのだ。
『シン・ウルトラマン』にも「両方だ」という台詞がちゃんとあったので嬉しい。

 メフィラスはオリジナル通り、ウルトラマンと決着をつけないまま地球を去る。
 ゾーフィが来ているのに気付いたからだ。光の星が乗り出して来たのはよっぽどヤバいことらしい。
 ゾフィーじゃなくてゾーフィ。しかもゼットンを使役する。これも昔の児童書の誤情報が出典だっけな。大丈夫、わかります。
 ゼットンが出たからには最終決戦だ。
 ウルトラマンは一度負ける。その後禍特対のアドバイスを受けて策を練り、再挑戦でやっとゼットンを退ける。
 最終決戦は一回勝負であって欲しかった。
 二度目はないから最終なんだ。
 一度無策で突っ込むより、禍特対と協議の上、フラッシュビーム×2の作戦をたずさえて一発で行って欲しかった。
 初代ゼットンのときだってチャンスは一回きりだったものね。
 今回のゼットンを倒す過程は難解な映像で、『帰ってきたウルトラマン』のプリズマ戦みたいだった。
 そのゼットンなんだが、完全にエヴァンゲリヲンの使徒だったね。
 パゴス、ガボラの顔も使徒だったね。
 どうしてもそうなってしまうのか。

 上位の存在が地球を観察。必要があれば滅ぼすための最終兵器も持って来ている。この展開は手塚治虫『W3(ワンダースリー)』と同じ。
『W3』はアニメの放送時間が『ウルトラQ』とかち合って視聴率で負けた形になったんだっけ。そんな要素まで拾ってるの?

 一連の事件によって、地球人が生物兵器として有効活用できることがマルチバース中に知れ渡った。これから地球は数多の外星人から狙われることになるだろう。
 だから、滅ぼす。これが光の星の見解。
 こう語られたとき、即座に『ウルトラセブン』冒頭のナレーションが浮かんだ。
「地球は狙われている。今、宇宙に漂う幾千の星から、恐るべき侵略の魔の手が伸びようとしているのだ」
 ここから『シン・ウルトラセブン』につなげられるじゃないか! と興奮する。

 物語の後半、神永とウルトラマンのイメージが本当に重なった。
 禍特対と見つめ合うウルトラマンが神永だと思えたし、神永が作戦室にUSBメモリを置いて去るときの表情はウルトラマンだと思えた。
 最後、目覚めた神永はどうなっていただろう。
 ハヤタのようにウルトラマンでいた間の記憶はないのか。それとも……?

 観終わった時には言語化できない感情にとらわれていた。
 ボーッとしたまま映画館を出る。
 山盛りのポップコーンをそのまま捨てているカップルがいた。
 夢中になり過ぎて食べる間がなかったのかな?

 映画を観たというより、ウルトラマンを拝んだというか、そう、参拝を終えて帰るような気分で上がりかけの雨の中を帰った。

(以下、鑑賞一か月後の感想、というより要望)

 パンフレットは買ったが、デザインワークスは買わなかった。
 本編に禍特対のスーパーメカが出ていたら買っていたに違いない。
 禍特対は特殊部隊だからスーパーガンとまではいかなくてもスタンガン的な自衛のための武器は携行していても良かったのでは。
 ベーターボックス奪取のときの乗り物もビートル的なものだったらなぁ。
 あと、海or湖から出現する禍威獣が欲しかった。
 もちろん、出現寸前には水面が発光すること。これは必須。

ペスター

(文中敬称略)

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