第10回AAMTセミナー『新規アルツハイマー病治療薬の進展を見据えた認知症診療の展望 ~音声解析を用いた早期診断~』感想

7/19に第10回AAMTセミナー『新規アルツハイマー病治療薬の進展を見据えた認知症診療の展望 ~音声解析を用いた早期診断~』が行われましたので、
それのまとめ・感想です。

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① 新井哲明先生 筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学 教授

認知症およびMCI(認知症の前段階)についての説明。
認知症施策推進大綱は「共生」と「予防」を柱としている。
筑波大学精神神経科における認知症研究では、早期診断・進行予防・病態機序の解明に取り組んでおり
認知症になりにくく、なっても安心して暮らせる社会を目指している。

タウ蛋白質とAβが蓄積するとアルツハイマー病(AD)になる。
ある程度の量まではADには至らず、プレクニカル(少量蓄積した状態)MCI(中程度蓄積した状態)と呼ばれる。

ADの薬物治療は、従来は対症療法しかなかった。
ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンを投与して神経伝達物質の効果を調節していた。

しかし最近はADの病因因子を標的とする疾患修飾療法が出てきており、
レカネマブが2023年12月に日本で承認された。
今後も、米国ですでに承認されたドナネマブが、日本でも承認されることが見込まれている。

AD早期診断に有用なバイオマーカーとして、
① 脳脊髄液(CSF)検査
脳脊髄液(CSF)中のAβ濃度の低下、総タウ or リン酸化タウの上昇
② PET
アミロイド、タウの測定
があるが、
①は入院が必要になるなど侵襲性が高く
②は高価(30円万位かかる)、できる施設が限られているという問題がある。

そこで、筑波大学は、静岡大学・IBM Reserchとの共同研究で行動特徴解析によるMCI・認知症のスクリーニングモデルの開発を行っており、良い成果が出てきている。
脳機能と動作分析の研究が進歩してきており、近年、歩く、朗読する、会話する、描くといった日常生活動作の解析が認知症の早期診断に有用である可能性についての知見が集積してきている。

抗Aβ抗体薬(レカネマブ)の対象が早期例であることから、早期診断の重要性が増し、特にそれに役立つバイオマーカーの開発と実用化が喫緊の課題となっている。
抗Aβ抗体薬の対象となるのは半分未満のため、
対象とならなかった人に向けて非薬物療法(補足:デイケアのプログラムを認知症を予防するために工夫するなど)を含めた包括的治療・ケアの体制整備が求められる。

② 山田康智氏  日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所 シニアリサーチサイエンティスト

認知症の治療薬(レカネマブ等)が出てきたものの、早期認知症やMCIの段階でのみ有効性が示されているため、早期発見が極めて重要である。
認知症の人のうちの75%認知症という診断を受けていない(病院で診断してもらっていない)と推定されている。
そのため、簡便で使いやすい検査が必要になってくる。
IBMは、認知症の早期発見を可能にするデジタルツールが1つのアプローチとして有効だと考えている。

「認知症」と一口で言っても、様々な疾患の症状が呈される。
IBMは、個人の状態を知る方法(window)として、発話(speech)に着目した。

<音声特徴量のカテゴリと典型的な特徴量の例>
音響特徴量:音に含まれる周波数成分や声道の共振など音色に関する特徴
→ 感情認識、うつ病などの精神疾患
韻律的特徴量:
声の高さ、発話速度、ポーズの長さなど話し方に関する特徴
→ PDやAD
テキスト特徴量:
代名詞(あれ、それ)の割合、言い淀み(フィラー)の頻度、語句の繰り返しなど、回答内容についての特徴
→ 総合失調症、AD

IBMは今までになかったデータ(言語的マーカー)を有効活用し、定量化した。
具体的には、日常会話の非定型の単語の繰り返し非定型のトピックの繰り返しを測定することで、ADを検出する手法を提案した。
1週間程度離れた時に同じワードを繰り返すということが、健常者と比較して認知症の人で有意に多かった。
また、同じトピックに戻ってくることが、
健常者と比較して認知症の人で有意に多かった。
認知症の人の1つ1つの言語特徴を取ってくることで、かなり高精度に認知症を検出できるという。
モバイルツールを用いる手法もある。モバイルアプリに向かって数分喋ってもらい、そのデータの音声解析を行うことで、かなり高精度に認知症を予測できるという。

今後の研究として、認知症や精神疾患を予防するために言語的マーカー事前にリスクを予測する(○○年後に認知症や精神疾患になる確率が○○%など)研究も行われているそう。

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認知症の治療薬(レカネマブ)が出てきたのは画期的だけど、
「抗Aβ抗体薬(レカネマブ)の対象となるのは半分未満」(筑波大学新井先生談)で、早期認知症やMCIの段階でのみ有効性が示されている(「認知症」の段階まで進んでしまうと効かない)というのは悩ましいな……と思った。

「対象とならなかった人に向けて非薬物療法(補足:デイケアのプログラムを認知症を予防するために工夫するなど)を含めた包括的治療・ケアの体制整備が求められる」というのはそうだと思う。

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