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逆ソクラテス(伊坂幸太郎/集英社/本屋大賞ノミネート候補作品)

<著者について>

伊坂幸太郎さん

千葉県松戸市出身。東北大学法学部卒業。大学卒業後、システムエンジニアとして働くかたわら文学賞に応募、2000年『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。その後、作家専業となったタイミングで宮城県仙台市引っ越す。2002年の『ラッシュライフ』で評論家に注目され始め、2003年の『重力ピエロ』で一般読者に広く認知されるようになった。それに続く『アヒルと鴨のコインロッカー』が第25回吉川英治文学新人賞を受賞。本屋大賞においては第1回から第4回まで連続ノミネートされた後、2008年の第5回に『ゴールデンスランバー』で受賞した。同作品で第21回山本周五郎賞も受賞。なお直木賞については、2003年『重力ピエロ』、2004年『チルドレン』『グラスホッパー』、2005年『死神の精度』、2006年『砂漠』で候補となったが、2008年、同賞の影響力の高さゆえに環境が変化する可能性を憂慮し、選考対象となることを辞退している。2020年より山本周五郎賞の選考委員を務める。大活躍な作家さんですね。

<本屋大賞とは?>

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2004年に設立された、NPO法人・本屋大賞実行委員会が運営する文学賞である。 一般に、日本国内の文学賞は、主催が出版社であったり、選考委員が作家や文学者であることが多いが、本屋大賞は、「新刊を扱う書店の書店員」の投票によってノミネート作品および受賞作が決定される。

<あらすじ>

逆境にもめげず簡単ではない現実に立ち向かい非日常的な出来事に巻き込まれながらもアンハッピーな展開を乗り越え僕たちは逆転する!無上の短編5編(書き下ろし3編)を収録。

<感想>

テーマは「先入観と逆転」
勧善懲悪の爽快感が体を突き抜けます!

伊坂作品と言えばのきれいな伏線回収と、一瞬一瞬の見事な積み重ねでしょうか。目に見えているものだけが真実ではなく、見えていない部分にこそ本質がある。先入観や思い込みによる決めつけは怖いものなんだと改めて気づかされながら、一気に引っ張られますから、お時間かからない筈です。

今回は全編、小学生が主人公。
でもデビューから20年続けてきた一つの成果という本作は、子供向けではありません。

5編からなる短編集。
それぞれ少し繋がっています。

子供が語り手ですから、それゆえ言葉や表現に難しさはないけれど、会話も仕草も描写がとっても緻密。

わたしも小さい頃の思い出って断片的なのに、やけに鮮明に残っていたりして。先入観や圧力で人を侮辱してくる人たちには、大人になってからも出会いました。子供の頃は「大人は何て勝手なんだ?」と思い、大人になってからは「自分の価値観や考えが正しいと思い込めるなんて何て幸せな人なんだろう」と思っていました。

誰でもきっと抱いたことのある感情を、懐古的、教訓話にしないように、また伊坂さんの中の夢想家とリアリスト、そのどちらもがっかりしない物語をと書いて下さったこの作品。『逆ソクラテス』の主人公が口にする、

「僕は、そうは、思わない」

は、感じてもなかなか口に出せない言葉。

世の中はこんなもの…と諦めなくてもいいのですね。伊坂さんが成敗してくれますもの。大人が読めばすっきりしますし、子供が読むにはこんなに現実的な道徳の教科書他に無いのでは!?いくつかの短編に『磯憲』なる教師が登場してきますが、実際に三年間担任だった新任の先生だそうです。今から思えば先生はそれなりに試行錯誤なさっていただろうし、勉強とはまた違う大事なことを教えて下さったと語る伊坂さん。この先生がいらしたからこそ、この作品が出来上がったこと想像すると、また素敵ですね。


文学賞候補を読んで感想を書いていきます。今後の本選びの参考にしていただけると嬉しいです